佐藤邦明の場合 1
今日もまたやられた。
中学校で授業で座ってる時にエンピツの先でさされるんだ。
すごくいたい。
こらえきれずに声を出してしまうと先生に注意されるんだ。
「おい、佐藤! 授業中に何してるんだ!」
「……ごめんなさい。でも……」
「でもじゃない。いつもいつも授業のジャマをして。……もういい。座りなさい」
「……はい」
座ると後ろの方から何人かのくぐもった笑い声が聞こえてくる。
ノートをちぎった紙が飛んでくる。広げて読むと「ばーか」ときたない字で書いてある。
もう、3年生になってから半年以上も色々ないじめをされてきた。
だいたいしかけてくるのは4人。同じクラスでリーダー格の伊井島とその取り巻きの日永田、湖林、夢島だ。他の同級生達は見て見ぬふりをするだけだ。
あるときは体育館の舞台そでに呼び出されて制服のズボンを脱がされて放置されたり、殴られたり。最近はこづかいを巻き上げられるようになった。お金がないと言っても万引きをさせようとする。
帰りにはなんとかあいつらに見つからずに家に帰れた。
一人っ子だし両親は仕事に行っていて夜にしか帰ってこないから家には僕独りだけだ。
Yシャツを脱ぐと突っつかれたところから軽く出血してシャツに血が付いていた。
「……はぁ」
これがあと半年続くのか。
親は受験だ勉強しろとしか言わないし。
もう学校行きたくないな……
夕方から母親が帰ってくる7時までが僕の自由になれる時間だ。この時間が無ければストレスで死んでしまっていたかもしれない。
ただ、今日は録画していたアニメやマンガも見るものが無かったので、PCを立ち上げた。
「タブレットでも買ってくれねーかなー」
貯めていたお年玉で買うと言っても、親は「まだ早い」とか「悪影響がある」とかよく分からない理屈で俺の要求を聞いてくれない。
「大人はいいよな。自由で」
YOUT◯BEに接続しようとしたが、学校でやられた傷を気にしていたら伊井島の顔を思い出し、検索バーに「いじめ」と打ってみた。
予測検索に「いじめ復讐研究所」と出たのが興味を引きクリックする。
「ふーん。こんなのがあんだ。まあ、親に言いましょうとか、先生に言いましょうとかかいてるだけだろ?」
サイトを開いてさらっと目を通す。次第に引き込まれるように読み込んでいく。
――具体的にいじめっ子達に報復・復讐をしてやりましょう。復讐からは何も生まれないとか、他に目を向けようとか綺麗事はいらない。自分でケジメをつけないと次には進めません。それとも自殺しますか? 自殺も一種の復讐です。正しい自殺方法もお教えします。
なるほど。良いこと書いてある。いじめてる奴らの顔を思い出すと体の芯がカッと熱くなってくるような気がしてくる。
――復讐方法は色々ありますが、大きく分けて3つ。
1.自分が成果を出して見返してやる
2.肉体的、精神的に復讐する
3.将来的、社会的に復讐する
復讐とは肉を切らせて骨を断つことです。この中で、自分自身へのダメージが少ないのは1ですが結果でるまでは時間がかかり且つ自分自身への投資が必要となります。
怖いこと書いてあるな。自分自身への投資ってなんだ?
――貴方の復讐のお手伝いをします。最適な復讐方法を貴方に。秘密厳守します。
問合せフォームが出てきた。これに打ち込んで送ると復讐の仕方を教えてくれるってことか?
怖い人がでてきたらどうしよう。でも利用者の声には良いこと書いてあるし……
捨てアドで送ってみるか。
名前は佐藤邦明、年齢15才、中学生、男性、最寄駅って……こんなこと必要なのか? 亀沢駅と。さて送信。
どんなこと感じで返ってくるのかな?
すぐに返信メールは帰ってきた。
なになに……明日の17時に駅近くの喫茶店に来いって?
来なくても構わない。問合せした時点で貴方は勝者だ。その意気で戦ってみろ。もし、少しでも力が知恵が欲しいのなら来てみろ。待っている。財布は持ってこなくていいぞ。
なんか怪しい。でも、ちょっと興味あるし……怪しいが身元が分かるものや財布を持ってかなければいいだろ。でも喫茶店でのお茶代は持ってくかな。
明くる日。
地味な嫌がらせを耐えつつ。その日はちょっとウキウキしていた。もしかしたら今日会う人が何とかしてくれるんじゃないかって思うと嫌がらせもそれ程気にならなくなったし。
学校が終わると急いで教室をでた。
出た所に取り巻きの日永田と夢島がいた。
「おぅ。どこ行くんだ? 連れねえな。ちょっと顔貸せよ」
「やめてよ。用事があるんだよ」
「ん? 俺達との友情が大事だろ?」
日永田にヘッドロックされながら校舎の影に連れて行かれた。
そこにはいつもの伊井島と湖林がいて、いつもの四人組に囲まれた。
「な、なんだよ。僕用事があるんだよ。帰らしてくれよ」
無駄とは思いつつ伊井島に言う。
伊井島はニヤニヤしながら僕の襟を掴んできた。
「なあ、まだ今日の小遣いを貰ってないんだけどな」
「え? こ、この前千円渡しただろ?」
「あれっぽっちじゃ足りないだろ? 俺たち4人いんだぞ。簡単なわり算も出来ないのか? いいか一人当り……えっと200円? 300円? まあそんなもんだ。コンビニで飲み物買ったら終わりだ」
「僕、もうお金ないよ……」
「かあちゃんの財布から借りてくるとか色々あんだろ? 相変わらず頭悪いな」
「そ、そんな!」
伊井島は襟首を勢い良く壁に押し付ける。
「痛っ!」
僕は壁に頭を打ち付けられる。
「いいか? 明日までにもう千円用意しておけよ」
「む、無理だ」
もう一度頭を打ち付けられる。
「分かったな?」
伊井島は俺の目を睨みつける。
「……わかったよ」
僕はうなだれる。
「さすが親友だな。金がなくて困ってる俺たちを助けてくれるなんてな」
四人組は俺の頭を叩きながら校門に歩いて行った。
取り残された僕はしゃがみ込みこんだ。
「お金……どうしよう」
鞄を拾いながら家に帰った。