2話
制服から潜入用の服に着替えた俺は馬車に乗って罪人が潜伏しているという地方都市、ハリランテへ向かっていた。今罪人の名前はアリバ・ミラーサ。性別は男。年齢は38。罪状は「破壊活動・スパイ行為」とのことだ。
「国」に対して批判的かつ危険な思想を持ち、各地でテロ行為を行い、他国のスパイを国内に手引きしているそうだ。元々は傭兵であり、槍の扱いに長けているらしい。
久々に大物の処刑になりそうだ。激しい戦闘も予想される。そんなことを考えていると馬車の揺れが止まる。
「お客さん、着きましたぜ。ここがハリランテだ。」俺は馬車から降りると御者に代金として金貨3枚を渡し、街へ入っていった。
ここハリランテは地方都市というだけあって首都と謙遜ない発展ぶりと規模になっている。市場には多くの人の声が飛び交い、繁華街では人々が己の欲望のままに蠢き、住宅地では子供たちの無邪気な笑い声が響いている。
俺はアリバが潜伏しているという酒場を目指した。大通りを抜け、裏道へ入っていく。入り組んだ路地を深く、深く。
見つけた酒場はよくある寂れた酒場だった。とんでもなく入り組んだ路地を抜けてたどり着くこと以外は。
ここまで入り組んだ路地を抜けてたどり着くような場所だ、中にいるのはアリバの仲間達だけだろう。だがもしかすると一般人も混じっているかもしれない。俺は奇襲せずにとりあえず正面から入ることにした。
錆付いたドアノブを回し、酒場の中に入っていく。薄暗い中には屈強そうな男が7人とマスターが一人。
周りの男たちからの敵意の篭った視線を受け止めながら中を進み、マスターの前のカウンター席に腰掛ける。
「お客さぁん、見た所余所者だねぇ。こんな所は観光客が来るような酒場じゃあないよ。」
マスターが暗に出て行けと諭してくる。だが、そんな生ぬるいことのためにここまで来たわけではないのだ。
「アリバ・ミラーサはいるか。」
「アリバさんを捜しに・・・お前、執行者だなッ!!」
周りの男たちが怒号と共に腰の短剣を抜き飛び掛ってくる。すかさず俺もテーブルを蹴り飛ばして応戦する。
男の一人が俺の蹴り飛ばしたテーブルに直撃して壁まで吹き飛んでいった。まずは一人。
「なっ・・・」男たちに動揺が走る。その隙を突いて男たちの懐に飛び込み袖の中に隠していた短剣を振るい、喉を切り裂く。心臓に的確に突き刺し、回し蹴りで首の骨をへし折る。一人、また一人と殺していく。何の感慨も無く、無慈悲に、機械的に、誰かに教わったわけでもないはずなのに体が勝手に動いて敵を殺していく。
「ひっ・・・、こ、こいつ、まさか執行者じゃあ・・・へぶっ」
6人の男を皆殺しにしてからマスターの方に歩み寄る。どうやら恐怖のあまり失禁してしまっているようだった。アンモニア臭がとんでもない。
「もう一度聞こう、アリバはどこだ?」
「ア、アリバなら地下室の奥だ!階段はこの奥にある・・・!だ、だから命だけは・・・!」
俺が無視して短剣を首に突きつけ食い込ませていく彼は恐怖と痛みで気絶してしまった。とりあえずその場に放置していく。
奥の階段を下りて地下室へと向かう。生ぬるい温度とかび臭さが不快感を呼ぶが、あまり気にしない。
地下室は思った以上に広く、武器庫や寝室があった。それらを抜けていくと一際大きな部屋に出た。置いてあるのは椅子が一つ。そこに座るはただ一人、アリバ・ミラーサ。
「お前がアリバ・ミラーサだな?」
「ああそうだ、執行人さんよ。」
「俺が執行人だとわかっているとはな。」
「上が騒がしかったからな、それにここ最近の俺の行動を邪魔がるのは国だけだ。来るのは執行人だろうよ。」
「ならば話が早い、執行令状に基づきお前を処刑、もとい殺す。」
「随分とまあ包まずに言ってくる執行人だなぁおい。まあ、その口を二度と開けんようにしてやる。俺の部下が世話になったようだしな。」
アリバが槍を構える。俺も答えるように短剣を構える。もはや言葉は要らず、意思表示はそれだけで十分だった。
瞬間、アリバの槍が鈍い煌きと共にこちらへ突進してくる。するりと回避すれば一閃、また一閃と何度も突いてくる。
「おらおらおらおらぁ!」
アリバの雄叫びとともに槍の軌道が変わった。直線的な突きではなく曲線的な薙ぎに変わったのだ。
「ふむ」
とりあえず短剣で受け流せるだろうと思い受けてみた。が、どうやらアリバの力量を見誤っていたようだ。アリバは短剣に穂先が当たった瞬間に穂先を回すことで短剣を弾き飛ばしたのだ。バックステップで距離をとる。
「くくく・・・大したことないじゃないか、執行人さんよぉ。この程度なら何人来てもぶち殺せるぜ・・・。」
アリバがニヤリと勝利を確信したような嫌な顔を浮かべている。俺はなんだか知らんがとてつもなく腹が立った。なんというか、その昔あんな顔を浮かべた奴がいたような気がしたのだ。そしてそいつの勝利をズタボロにして再起不能にさせた気がする。記憶が無いがそんな気がする。ああ腹が立ってきた。
「ぶっ殺す。」
一言だけ、だがその一言に自分が持ちうる限りの最大の「殺意」をこめて告げる。
「・・・!!」
アリバが目を見開き、顔に一瞬恐怖と驚愕が入り混じった表情を浮かべた。だが、それはすぐに薄ら笑いに変わった。
「とんでもない殺意だなぁ。だが、これなら本当に楽しめそうだ・・・!」
アリバが走る。突き出されるは彼の全力。
「おおらああああぁぁぁぁぁぁ!!」
最大最速最強の突き・・・!
だから俺はそれに対抗するべく、
「せいっ」
上から穂先を全力で
「んなっ・・・!?」
殴りつけた。
バキンという音と共に穂先がばらばらに砕け散る。鈍い光を称えたその破片たちはとても綺麗で---
「ふんっ」
俺はそんなことも気にせずアリバの首を蹴り飛ばした。