1話
朝日。それは俺にとって「人」に言わせれば陰鬱な一日の始まりを告げ、眠りから覚まさせる非常に嫌らしく憎むべきものである。
俺の一日はまず朝食を作ることから始まる。パンを焼き、買っておいた野菜を切り分け皿に盛り付け、卵を目玉焼きにし、それを食べる。普通の人とメニューは違えど変わらない平凡な朝食である。
しかし、俺の職業は普通とは一線を画す異常なものだ。
「執行人」
法機関より罪人と認定されたものを国からの命令により殺す者。
例えそれが何の罪もない善良な一般人であろうと、年の端も行かぬ子供であろうと、老人であろうとなんだろうと関係なく国家の、法の犬となって人を殺し続ける狂犬集団。
俺に名前はない。親もわからない。年は大方23,4とといったところだろう。ただ「なんとなく」この世界に生きていて「いつのまにか」執行人になっていた。
この国は今他国と戦争を行っている。なぜなのかはわからない。外交上の問題か、はたまた領土か、資源か。
ただ、その「戦争」によって人々は怯え、「国」の方針に従わずに逃げ出したり反論を唱えたりしているのだろう。ここ最近はそれを殺すことばかりだ。
「殺す」時は本当に辛い。他の執行人たちは皆口をそろえてそう言う。執行用の短剣を突き刺そうと、喉を切ろうとするとき「罪人」たちは泣き叫び、生に縋り、居もしない「神」とやらの名を叫び、俺たちを罵倒して、それでも最後は為す術も無く死んでいく。その時の顔のおぞましさに他のやつらは恐怖を感じるのだと言う。
朝食を食べ終え、執行人の制服を着て、職場である執行省へ向かう。
俺は殺しても別に何も感じない。ただ仕事であるとしか思わないしそれに抵抗も感じない。同時に俺が殺されたとしても何も感じないし、何もせずに死んでいくだろう。俺には「生」への執着が無いのだろう。そればかりかきっと何も無い。からっぽで空虚で無意味な存在なのだ。
徒歩で執行省までは5分ほどだ。執行人たちは希望すれば執行省が用意している寮で生活することができる。俺は勝手に用意してくれたのでそこで生活している。
道なりにある商店街を通り抜けつつ、人々の様子を見る。戦争で国全体が潤っており、道行く人や買い物をする人々の顔は明るい。きっとこの「国」は戦争に勝つのだろう。
執行省に着き、早速上司であるミンストレルから仕事を請け負う。
ミンストレルは陽気でよく冗談を言うが仕事に真面目で周りに気が利く出来る男だ。先月結婚し、周りからは出世街道まっしぐらとも言われている。
そんな彼だが、俺の無口さと重苦しい空気は苦手なようだ。あまり会話が続かない。俺はそれをわかってはいるが変える気は無いので手早く仕事の説明と資料を受け取り、その場を後にした。
空には俺を嘲笑うかの様に朝日が輝いていた。