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私のお兄ちゃん

私、お兄ちゃんに秘密にしていることがあるんです!

※前半は主観的な堅苦しい内容ですが、後半はいつもの感じです。

 私は、大好きな兄に言わなければならないことがあった。


 いつ言おうか、早く言わないといけない……などと思いながら、ずるずると先延ばしにしてしまっていた。

 言ってしまったら、家族は壊れてしまうかもしれない。でも、後になればなるほど、兄は苦しむだろう。

 本当は、もっと早く言うべきだったのに。……これが現実だなんて、思えなかったから。


 たとえどんな決断をしても、私はお兄ちゃんが大好きだから……。





 夕食を食べ終わって、リビングで宿題をしていた俺のところに、妹の夏美がやってきた。

 夏美は、当たり前のように隣に座り、テレビをつける。

 最近ハマっている毒舌タレントの番組だろうか。


俺は気にせず、宿題を続けることにした。



「……お兄ちゃん、『恋愛』ってもっと自由でもいいと思わない?」


「……いきなり何を言いだすんだ、お前は」


 テレビに目を向けると、画面の向こうでは、華やかな格好をした大勢のタレントたちが、激しい言い争いを繰り広げている。

 簡単に言うと、「普通」とは少し違う恋愛観を持つ人たちに焦点を当てた『恋愛バラエティー』だった。



「世の中には、色々な恋愛があるんだよね。自分がどんな人を好きになるかって、生まれたときには決まっちゃってるんだって。生物の先生が言ってた。……だから『性別』だけでその恋愛がノーマルかアブノーマルか決めちゃいけないんだよ。『多数派』か『少数派』かの違いってだけなんだから」



 ……難しい問題だ。

 最近は、そういうタレントがテレビによく出演するようになり、大分世の中に受け入れられるようになってはきた。

 だが、日本は保守的な社会であるため、まだ『同性愛』についての偏見が拭えない。

 『性同一性』や『無性別』の問題も、最近になってようやく認知されはじめてきたが、やはり身近な問題として捉えられないでいる。……俺自身も、新聞などでは目にするが、自分には関係ないことだと、どこか別世界の話のように感じていた。


「……夏美、お前…偉いな」


 うがった見方をすれば、「少数派」を否定的に扱って、「多数派」を肯定する番組である。

 『異性愛』こそ『正常』だとも受け取れる番組を見て、夏美は『ジェンダー』や『恋愛』について真面目に考えている。

 自分の方が年上なのに、夏美の方が大人のようだった。

 いや、その辺にいる『大人』よりも、よほど『大人』の考え方をしている。



「お前みたいな考え方を皆がすれば、世の中から差別やジェンダーの問題は無くなるかもしれないな」



 テレビ画面に映る、にぎやかな世界。彼らはその中で、懸命に自分の人生を生きている。周囲には理解されないかもしれない。でも、彼らの生き方を見て、救われる人もきっといるはずだ。



「そうだよな、恋愛ってもっと自由であるべきだよな」


 俺がそう言うと、夏美は俺を、しばらく無言で見つめていた。そして、何か迷うように瞳を閉じて、ゆっくり息を吐いた。



「……夏美、どうしたんだ?」


 夏美は顔を上げると、いつになく真剣な顔で俺を見つめてくる。いったい、どうしたのだろう。



「……実はね、お兄ちゃんに……言わなくちゃいけないことがあるの」



 まっすぐに俺を見つめ、ためらいがちに言葉を紡ぐ。

 そんなに言いづらいことなのだろうか。



「……私が誕生日に、高熱を出して、三日三晩うなされたのを覚えてる?」


「ああ、風邪じゃないのに熱だけ出た…」


「……そう。そうして、熱が下がった時……私は思い出したの。ここは、前世で自分が好きだった『ゲームの世界』だと」


「……は?」


 なんだろう、俺の耳はおかしくなってしまったのだろうか?


「えーとね、多分『転生』とかいうやつ。で、お兄ちゃんは男の人と恋愛する『主人公』なの」


「――もっと詳しく話せ!!」


「ここは『恋愛ゲーム』の世界だけど、恋愛対象は男しかいないの」


「で?」


「明日から、お兄ちゃんの恋人候補が全て『男性』になります」


 ……なんだろう、この何とも言えない嘘くささは。はっ、そういえば今は四月だ!ということは


「エイプリルフールか!」


「一週間前に終わりましたー」


「…………」


 うん、そういえば盛大な嘘つき大会をした。

 うちの茶トラの猫は、実は突然変異のトラの子供だとか大嘘ついたわ。



「……男と恋愛って……」


 ………頭がパンクしそうだ。明日からって、あと数時間もないんだが。


 もしも、これが妹の冗談ではなく本当の話ならば、対処をしたり対策を練ったりしなければいけないのに……。

 明日だなんて、時間が無い。ああ、もっと早く判っていたら…。

 ……待てよ?さっきあいつ『誕生日』って言わなかったか。



「……夏美、お前の誕生日七月だよな?」


「ごめん、どうしても言い出せなくて……。でもね!私、お兄ちゃんがどんな相手を連れてきても応援するし、祝福するから!!」


 夏美の瞳はきらきらと輝き、表情はとても楽しそうだ。



「……お前」


 まったく悪いと思っているようには見えない。


 すごく悩んだというようなことを言っていたが、ただ単に『好きなゲーム』のために、ぎりぎりまで黙っていただけに違いない。




 時計の針は、俺の焦燥などはお構いなしに、明日へと時間を進めていく。




「ねえねえ、お兄ちゃんは、『愛したい』?『愛されたい』?」



 無邪気な妹の質問が、なんだかとても恐ろしく感じられた。

妹に「お兄ちゃんは『BL主人公』だよ!頑張れ!」と言われる兄が書きたかった。

性の問題は難しいですね。書いてたら真面目になる。

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