生まれ変わりの『あなた』
よくある「熱を出したら前世を思い出した人」を書いてみたら……。
「……強い後悔とか、心残りがあると、前世の記憶って残りやすいんだって」
幼なじみが、高熱を出した。彼の十六歳の誕生日の翌日。私は衝撃の告白をされた。
「俺、前世で恋人がいたんだ」
彼はどこか遠くを見ていて、私を見てはいない。
「彼女は幼なじみで、小さい頃からいつも一緒だった。だけど、身分違いで二人は結ばれなかった……、俺は彼女以外の女と結婚した。前世の俺は、一生後悔していた……。だから、俺は彼女を探すんだ!!」
熱でどうにかなってしまったのか、彼は今日はよく喋る。
「……私は」
「だから、もう距離を置こう。わざわざ、見舞いに来てもらって、こんなこと言うのは悪いとは思うけど」
前世の恋人を探すから、と私は幼なじみに『距離を置く』宣言されました。
「……私は、ずっとそばにいたのに?」
実は、私にも三歳から十五歳までの前世の記憶があった。
前世の私は、幼なじみの男に捨てられた後、流行り病で死んだ。
……三歳の時、私は熱を出した。そうして、『現世の幼なじみの彼』が『過去の自分を捨てた幼なじみ』だと気が付いた。
物心が付くと同時に、一日、また一日と記憶がよみがえってきた。
そうして、十五歳。
……私は、『前世の彼女』の気持ちに引きずられるように、彼を愛した。
前世の恋を叶えるために、彼の傍にいた。
今度こそ、彼との幸せな一生を送るために。
でも、……彼は気が付かない。前世の恋人を探すと、『幼なじみの私』を捨てた。
明日で私は十六歳。……前世の記憶にある年齢を越える。
やはり、二人は……結ばれない運命らしい。
私は幼なじみの部屋を出ると、そのまま隣の部屋に入った。
「おにいちゃん、やっぱりだめだったみたい」
「そうか……もう、十六年か。……よく頑張ったね」
『兄』が私の頭を撫でてくれる。『前世の兄』であり、現世では『幼なじみの兄』である人。
やさしくて、いつも私を見守ってくれる、家族のような人。
「もう、忘れてしまえ。……これからは『新しい』お前の人生を生きなさい」
大きな手が、私を撫でてくれる。安心する。気持ちがいい。
「おにいちゃん……でも、悲しいの。好きなの、彼が。傍にいたいの」
「……それは、十五歳までの『前世の君』の気持ちを追体験しているだけ。……明日からは、前世の記憶はないはず。」
前世でもやさしかった兄の彼。私が死んだ後、すぐに兄も死んでしまったそうだ。……『兄』にも前世の記憶があるらしい。だから、私たちは本当の兄妹のように仲が良い。
「明日からの『君』は、まっさらな君だよ。……もう、帰って寝なさい。そうして、起きたら……本当の『新しい』君の人生が始まるから」
「おにいちゃん、どうして彼は『私』だと気が付かないの?」
「さあ、なんでだろうね」
バカだからじゃない?と言って、彼は私の家に送ってくれた。
「おやすみ、僕の大事な『妹』」
「おやすみなさい、おにいちゃん」
私の中には捨てられた『彼女』の悲しみがある。……明日はどんな思いが私のなかに残っているだろうか。
朝起きたら、幼なじみの兄からメールが来ていた。
『お誕生日おめでとう。朝、一緒に登校しないか?』
やさしくて、かっこいい幼なじみのお兄さん。まるで本当の兄のような人。
玄関から出ると、彼が待っていた。
「おはよう、誕生日おめでとう」
そう言って、可愛く包まれたプレゼントをくれた。
「ありがとう!開けていい?」
中にはネックレスが入っていた。お花がデザインされていて、とても私好みでかわいい。
「すごくかわいい!ありがとう!!」
「……僕は、君をずっと『妹』のようだと思っていた。だけど、違うんだ。一人の女の子として、大事にしたいんだ」
駄目かな?、と顔を覗き込まれた。幼なじみと似ている、けれど、より端正な顔が私の目の前にある。
「!?」
「君が好きだよ」
やさしくて、いつも見守ってくれていた、お兄さんみたいな人。
どうしよう、ドキドキする。……私、『妹』としか見られてないと思ってたのに。
「僕の恋人になって欲しい。……『弟』には渡したくないんだ」
見つめられると、幸せな気持ちになるのは……なぜ?
昨日、幼なじみに振られたばかりなのに、思ったより悲しくない。なんでかな?
「おにいちゃんって呼ばないで、……名前で呼んで」
私、この手を取っていいの?
差し出された彼の手は、私をすごく安心させる、魔法の手。
「……はい、私でよければ」
ようやく、この日が来た。
君が死んでしまって、生きる意味をなくした。ずっと君を探していた。 君に前世の記憶があったのは誤算だったけれど、……その分、僕にも警戒心なく近付いてくれたのはラッキーだった。
「十六歳、おめでとう」
僕の、大事な『妹』。
前世の分まで、君を幸せにしてあげるから。
「君は、僕のモノだ」
『前世の記憶』って人によって戻り方違うんじゃないかな、と思いました。
弟が恋人の正体に気が付いたときには、彼女はすでに人のモノ
って話が書きたかった。
お兄ちゃんは前世では妹の後を追いました。現世では妹を見た瞬間に気が付きました。そこからずっと見守ってました。弟は妹が気にするからかまっていただけで、特になんとも思ってません。妹を手に入れたので、もうあとは放置です。
おにいちゃんは前世を思い出した弟を利用。弟くんのセンサーはいまいちなので、恋人は見つけられません。あーあ。