幼なじみの気持ち
お前のことは嫌いじゃないけど……
「おはよー、遅刻するよー」
「……人の部屋に、勝手に入るな」
俺の布団を剥いだのは、隣の家に住む、同級生の幼なじみ。
生まれたときからの付き合いだから、もう十六年になる。
「朝ご飯、冷めるよ?」
「いらねー」
「早く起きてよー」
「……うるさい」
……ああ、少年漫画のお約束にあったなあ。こういうシチュエーション。
俺の幼なじみはそこそこ可愛い。だが、俺は彼女のことは異性として好きではない。決して嫌いなわけではない。
ただ、ずっと一緒にいたから、むしろ家族に近い存在でしかない。
親父や妹は「お嫁さんになってくれるといいな」……などと言っているが、冗談ではない。俺の好みはスレンダーな巨乳美人だ。
「あ、お弁当作ったの。はい」 と巾着に入った弁当を渡された。
……彼女気取りかよ。なんか無性にいらつく。
「……いらねー、母親みてーなことすんなよ」
彼女の顔がこわばった。
自分でもしまったと思った。
うちには母親がいない。俺が小学生の頃に、病気で死んだ。
彼女もうちの母親を知っていて、よく遊びに来ては一緒に菓子などを作っていた。
だから、失言だったと思う。
「……勝手なことしてごめん」
泣きそうな顔で下を向いてしまった。
「あたしが作ってってお願いしたの!お兄ちゃんのはついでなの!!今日は遠足だから、どうしてもって」
小学生の妹がにらみつけてきた。文句を言うというよりも、友人宅の小型犬の吠え方に近い。
「お兄ちゃんなんか嫌い!ばーか!」
「……くそちび!!」
……朝から最悪だ。
親父、黙って一人で飯を食うな。おかわりすんな。茶わんは洗っていけ。
あいつは毎年、バレンタインに菓子を作る。
最初はクッキーとかだったが、最近はケーキが多い。
今年はチョコケーキだった。妹経由で渡したらしく、家に帰ったら半分なかった。
「おいしかったよ」
食い過ぎだ。
しかも残った分から親父の分を切られた。
妹よ、もう一度言うが、食い過ぎだ。
そうしてホワイトデー。俺は毎年何も返さないが、今年は妹と親父が用意したらしい。
遊園地のチケットだ。一緒に行こうと言われたが、部活を理由に断った。
……悲しそうな彼女に少し罪悪感を覚えたが、俺は好きなやつとしかそんなところには行きたくない。
「……わかった」
妹よ、睨み付けるな。俺はそういうところには、好きな子と行きたいのだよ。
……今年は他にチョコを貰ってないから、来年以降にな。
……そして、俺たちが二十歳になったとき、彼女は俺の親父と結婚した。
彼女曰く、「ずっと好きだった」そうな。
……まじかよ。
……妹がいろいろ画策したらしい。
「お兄ちゃんにはもったいないよ」
親父はいいのかよ。
「おとーさん、妹か弟ほしーい」
……親父デレデレすんな!!