「見えない暗殺者」
記憶が戻った少年――。
彼は正義か悪か!?
「見えない暗殺者」
「この匂い」……そうだ、思い出した。俺はこの世に存在していない。
「あいつは」……そう、年をとっているが間違いない、この世を混乱に陥れた者――。
俺は鬼山正
中学1年生。
今日は社会科見学で東京の医療研究所に来ている。
そして―― 俺はこの研究所を知っている。
50年前――。
あの日は雨が降っていた。
俺は、研究所5階の細胞保管室から出ると、非常階段を駆け上がっていた。
屋上に出ると、倉庫に駆け寄りドアノブを回す。
「くそ! なんで!」
いつもは開いているはずだが、カギがかかっていた。
そこにパシャパシャと、背後から近づいてくる殺気があった。
「鬼山君――、それを渡しなさい!」
「教授! これは世に出してはなりません!」
「分かっている、だから私が管理するのだ」
「聞いてしまったんですよ! 教授が佐久間社長と取り引きしているところを!」
「なにを? なにかの聞き違いだろう?」
俺は携帯を取り出し――、再生した。
「社長、その値では譲れませんよ」
「そうかそうか、いや、試しに聞いてみただけだ。悪く思わんでくれ」
「まいりましたな」
「5倍の額を用意している。今週末には準備できるから用意しておいてくれ」
「わかりました。くれぐれも、あちらに売却するまでは私と社長の秘密にしておいてください」
「分かっている」
――そこで再生を止めた。
「教授がなにを企んでいるのか、想像はつきます!」
すると教授は懐からナイフを取り出した。
「悪いな。研究所の部下は賛同してくれている」
「……手回しの良いことで」
俺は、試験管を取り出した。
「こんなものを創り出した俺にも責任がある!」
「まて! 早まるな! わかった、このとおりだ!」
教授はナイフを捨てると土下座し、何度も頭を水たまりに打ちつけた。
「教授……」
「鬼山君、売るのは止める! 君が今まで通り保管してくれ! この通りだ!」
俺は、ジッと試験管を見つめた。
その時、突然倉庫のドアが開いた!
俺は押し倒されると、その屈強な男に首を絞められてしまった。
「悪いな~ 鬼山君。君が持ち出すのは予想していたよ」
「きょ! 教授!」
「さっさと取り返せ」
その男は、さらに首を締め上げる。
俺の意識が飛びそうになったとき、ポケットのボールペンを男の脇腹に突き刺した。
一瞬怯んだ男を払うと、なんとか立ち上がり柵に寄りかかった。
「これは、渡すわけにはいかない! 決して、世に出してはならないもの!」
「鬼山君……、君には悪いが消えてもらうよ」
教授がナイフを構える。と、男が飛び掛かってきた。
俺は咄嗟に柵を上がったが、男に足を掴まれた。
「逃がすな! 引き戻せ!」
男が力任せに引き戻そうとする。
俺はその瞬間――、決断した。
柵の間から、男の顔面にボールペンを突き出した。
男は手を離すと、悲鳴をあげた。
俺は、その悲鳴を聞きながら落ちていった――。
――「教授……!」
頭のなかの霧が晴れていく。
そうだ……、何もかも思い出した。
――ほんの10年前、この国は世界の中心となった。
各国の政治家から様々な分野の研究者にいたるまでが、数日のうちに暗殺され――
だが、この国の被害は全くなかった。
国としての機能を失った各国は、当然この疑いをぶつけてきたが、それらも数日のうちに暗殺されてしまった。
同時期――、新聞やネットメディアには、ある写真が出回っていた。
それは、暗殺されたはずの人間が数日後――、別の場所で、再び死体で発見されたというものだった。
――「先生、ちょっとトイレにいってきます」
俺がトイレから戻ってくると……、そこに人だかりができていた。
その中心に、頭から血を流し倒れている教授がいた――。
「みなさん、外に出てください!」
警備員や、研究者たちが声を張り上げた。
俺たちは言われるまま外に出され、整列して待機した。
そこにパトカーが到着すると、数人の警官が研究所に入っていった――。
「こんな簡単に復讐できるとは……」
俺は、まだ中学生だ。
「最高のプレゼントを頂いたよ、教授」
頬を、雨粒がたたいた。
見上げれば、雨雲がすぐそこまで近づいていた――。
終わり
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