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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

少女ファンタジー

少女ダンジョン

「木の靴と剣と弓と」の続きですが、この作品だけでも読める形にはなっているかと。

馬車は南へと進んで行く。

依頼者は髭を生やした若い男性だった。

背中に小さな黒いコウモリに似た羽を生やしている。

聞いてみると、それで飛ぶ事は出来ないらしい。


色々な街で武器や防具を購入して、それを別の街で売る。

それを生業としていた。


次の街までの護衛の仕事だ。

一緒に豚顔の男と受けた。

誰かを守ろうと思ったら、ひとりでは無理だ。

豚男はそれが分かっていないらしく、俺ひとりでも十分だった、と繰り返し言っていた。


私はそれに何も言わなかった。

私が降りれば報酬をひとりで貰える、そう思っていたのかもしれない。


街を離れ、野営し、また進む。


夜はどうしても警戒が十分じゃなくなる。

夜の闇から何かが近づいて来れば、どうしても発見が遅れる。

みんなが眠ってしまえば、それでおしまいになってしまうかもしれない。


豚男はそれをどうするつもりなのだろうか?

何か良い夜の警戒の仕方があるのかと楽しみにしていたのに、依頼者が寝ると、豚男も寝てしまった。

つまらない。

やはり彼とは違うのだな。

星を見て、周囲の音を聞き、夜を過ごした。


どうしても昼が眠くて仕方が無かった。


依頼者も夜の警戒を私ひとりでやっているのを知っているようで、昼の時間は少しなら寝ていても構わないと言ってくれた。


豚男がそれに文句を言っていたけれども、特に何も答えず、見通しの良い、安全そうな地形の時は少しだけうとうととした。


道は続いている。

しかし、街から離れると、危険な場所も出てくる。


それは道が倒木でふさがっていたりという、自然現象が相手の場合もあれば、こちらに害意を向けてくる敵が相手の場合もあった。


現れたのは黒い犬だった。

目は血走り、口からは際限なくヨダレを垂らしている。

その口からは時折、何か赤い物も漏れ出ていた。

届くはずはないのに、獣が発する嫌な臭いがした気がした。

気持ち悪い。


道の向かって右側の斜面の上に、その姿を最初に見つけたのは私だった。

すぐに弓を取り、矢を抜いた。


速度を上げず、緩めず、そのまま進むように言う。


豚男も犬に気が付いたようだ。

モーザドゥーグだ、としきりに口にした。

犬は犬だろう。

獣は獣でしかない。


斜面の上ばかり見るので、周囲を警戒するように言う。

今度は私を見て、文句を言う。


誰が私を見ろと言った。

剣を抜いて、突きつけてやろうかと思ったけれども、そこまでの余裕は無い。


犬が駆け下りて来た。

1頭だけではない。

その数は増えていく。


全部で6頭いた。

以前の弓なら届かなかった距離の犬に矢を放つ。


1本目は先頭の犬の先へ。

犬がバランスを崩す。

そこに後ろから来た犬がぶつかる。

2本目、3本目をそこに放つ。

1本はぶつかり、重なっていた犬をまとめて2頭つらぬいた。

もう1本はその後ろから来て避けるように跳んだ犬の腹をつらぬく。


さらに1本抜いて矢を放つ。

その距離は近い。

頭を直撃した。

駆け下りる列から外れ、転がる。


矢を放った直後に剣を抜いた。


絶対に馬車を止めないように依頼者に言う。


1頭が馬に飛びついた。

馬が暴れ、荷台も揺れる。


もう1頭は荷台に飛びついた。

荷台は豚男に任せて、馬の方の犬に剣を振るう。

不安定な足場から振ったにも関わらず、その剣先は犬の背中を裂いた。

血が飛ぶ。

浅かった、そう思った一撃を受けた犬は転げ落ち、荷台の車輪に轢かれた。

ごりっとした感触が足から伝わる。


馬はめちゃくちゃに動き、荷台が倒れた。

荷物が崩れ、依頼者も豚男もはじき出される。


私はその前に自ら跳んでいた。

最後の1頭も倒れた荷台に弾き跳ばされていた。

特に傷は無いようだ。

犬は宙で体勢を立て直す。


ちっ。

豚男は何をしていたのだろうか。


犬の方が立て直すのが早い。

近くにいた豚男に跳びつき、噛み付いた。

悲鳴。


そんな暇があるなら剣を振れば良いのに。

私の知る彼はそうしていた。

豚男の変わりに私が振るった。


犬の長さが半分になった。


ナイフを抜く。

脚に噛み付いたままの顎に刃を入れ、無理矢理外した。


また豚男が悲鳴を上げる。

脚を噛まれたくらいで騒ぐな。


半分になった犬を投げ捨てる。


もはや襲ってくる敵はいなかった。






依頼者に怪我は無かった。

馬も走れない程では無い。

良かった。

荷を積み直し、その場を離れた。


豚男は静かになった。

脚の傷は思ったよりは酷かった。

噛み傷だけでなく、火傷も負っていたのだ。

どうやら口から火が漏れ出ていたらしい。


そういう魔獣もいるのか。

もしかしたら盛大に火を吐いたりもするのかもしれない。

あれが妖獣という奴だろうか。

豚男に聞いてみたかったけれども、豚男はうめき声を上げるばかりだった。


速度を落とした馬車は、それでも3日後の昼過ぎに街に着いた。






大きな湖だ。

はるか彼方の地平線まで伸びているようだ。

その湖のほとりに大きな街があった。


街は賑わっている。

前の街よりも人が多いのではないだろうか。

白く塗られた木造の家が多い。

活気と合わさって、より明るい街の印象を強くしていた。


依頼者は約束よりも多くの報酬をくれた。

タイミングが合えば、またお願いしますと言い、去っていった。

豚男は即、治療院送りになった。

彼はもう少し、腕を磨いた方が良いと思う。

あの脚が直るかどうかは知らないけれど。


空気が今までと違う気がした。

それは湖の香りなのか、それとも前の街とは住む人が違うからか。

違う街に来た。

そう実感した。


まずはギルドを探した。

どこの街でもギルドはそう変わりないらしい。

壁には一面に張り紙。

奥にはカウンター、そして数名の係員。

中は賑わっている。


適当に空きを見つけてカウンターに付く。


「こちらには初めてですか?」


ひとりが話しかけて来た。

顔が大きい。

ぎょろっとした目と大きい鼻がより大きな印象を作っている。

シャツにネクタイのきちんとした格好なのに、胸の飾りがおかしい。

左胸に小さいランプを付けていた。

ランプに火は入っている。

熱く無いのだろうか?


「ええそうよ。そのランプ、かっこ良いわね」


先程の依頼者にサインをもらった依頼書を差し出した。

これでギルドにもきちんと依頼を終えたという事が伝わる。


「ありがとうございます。それでは拝見させて頂きます」


どこからか、片メガネを出すと、それを右目にかざして出した依頼書を見る。

トカゲとは大分、印象が違うわね。

トカゲだけじゃなく、前の街のギルドの係員はフランクな人が多かった。


「確認致しました。こちらにはしばらく滞在されるのですか?」

「そうね。長い事、馬車に揺られて疲れたし、どうするかは休んでから考える」

「分かりました。仕事を探される場合には、私に遠慮なく申し付け下さい」

「ありがとう。ああ、後、これを渡してくれって頼まれていたんだった」


1枚の封筒を差し出した。

あのトカゲが着いたら、ギルドに出しておいてくれ、と言って渡してきたのだ。


「お預かりします」


そう言ってランプの人は封を切り、中身を確認する。


「おや、あなたはなかなかに素晴らしい方のようですね」

「なんの話?ああ、何か余計な事が書いてあるのね」


トカゲがいらない世話をしたらしい。


「トロールとキメラを退治なされたとか。それ程の腕の方となると、この街にも何人居るでしょうか」

「私ひとりでやったんじゃない。一緒だった人が凄かったのよ」

「そうですか。しかし、素晴らしい。普通、おふたりでどうにか出来る相手ではございません」


あのトカゲ、余計な事を書き過ぎだ。

あの街に帰ったら、考えなくてはならない。


「たまたまね。一緒だった人もそう言ってた」

「これは仕事を紹介させて頂くのが楽しみです」


これ以上、余計な話になるのは気に入らない。

さっさと宿を探す事にしよう。

適当な挨拶をしてギルドを出る。


通りを歩き、宿を探す。

物価がこちらの方が高いのだろうか。

宿はどこも前の街よりも高かった。


10日ほど泊まるならいくらになるか?

そう聞いて回って、4軒目で値引きがきいて悪く無い値段になったのでそこにした。

部屋に入り、窓を開ける。

喧噪が入る。

やはり前の街より騒がしい。


装備の手入れをして時間を潰し、夕方近くなってから外に出た。

適当に入った食堂で食事を取る。

聞くとも無しに周りの声を聞く。

あまり血なまぐさい話題は聞こえて来ない。

前の街よりも防備がしっかりしているのか、それともこの辺りには単純に魔獣や蛮族が少ないのか。


値段が高かった割に、普通の味の料理を食べると、宿に戻った。

宿では共同の風呂が使えた。

時間で男女が別れているらしいので、時間を見て入る。

旅の間は飲むくらいの水しか使えなかったので、とても気持ち良かった。

これが毎日使えるのは嬉しい。


部屋に戻ると、すぐにベッドに入った。

明日は何をしよう。

喧噪が聞こえて来ていたけれども、気にする前に私は眠ってしまった。






臭うな。


朝起きて、まずそう思った。

部屋の中に投げ出すように置いてある小手だ。


旅の途中から多少、臭っていた。

あの謎の革の小手だ。

外では気にしないでいられても、室内では完全に危険な臭いを発している。

もしかしたら腐っているのではないだろうか。


私の手入れの仕方が悪かったのだろう。

他に理由は無いはずだ。


それなら他の革の物が腐らない理由はなんだろうか?


なんにせよ、耐えられそうに無いので、工房を回るついでに探してみよう。


普通の服にブーツ、ベルトに剣とナイフを差し、処分する気の小手を持って外に出た。


街は賑わっている。

見た事は無いけれども、祭りというのがこういう感じなのだろうか。


なかなかそれらしい店は見つからなかった。

ギルドで聞いておけば良かったな。

少しそう思った。


朝食は屋台が出ていたので、いくつか選んで歩きながら食べた。

そうしている人は多い。

これがこの街のスタイルなのかもしれない。


最初は聞いておけば良かったと思ったけれども、これはこれで楽しくなって来た。

知らない街を知らないままに歩くのは、それで楽しい。


やがて、店らしい建物を見つけて入ってみた。

アクセサリーのお店らしい。

綺麗に着飾った店員さんが話しかけて来た。


色々と着飾る術を話してくれたけれども、どうやら私には必要無いようだ。

どうにもその術が必要になる状況が想像できない。

あまりにも熱心に話してくれるので、ずっと話を聞いていたら、裏の工房で彫金をやっている事を話してくれた。

そこだけ詳しく尋ねて聞いてみる。


彫って欲しい物を持ち込んでも良いらしい。

試しに持ってた剣を見せて聞いてみると、やってくれるらしい。

なら、と鍔に刻まれていた橋の上に眠っている猫を彫ってもらう事にした。

剣を預けて店を出る。

夕方には出来ているらしい。

楽しみ楽しみ。


その後もぐるぐると回って、何軒かの工房を見つけた。

武器や防具を見て回ったけれども、特にこれといった物は見つけられなかった。


工房ではなく、装備を扱っている店を探してみたけれども、1軒しか見つからなかった。

掘り出し物は特に無い。

試しに持っていた小手を買って欲しいと言うと、処分ならすると言われてしまったので、そのまま処分を頼んだ。

持っている私の手の方が臭くなっているかもしれない。


小手を新調するまでは依頼も受けられなくなった。

いや、特に依頼を受ける気がそもそも無かったのだから、それは良いのか。


湖に近づくと、釣り竿を貸し出していた。

釣りには自信がある。

家の近くの川では釣れなかった日は無かった。


釣った魚をその場で調理してくれるという話だったので、気合いを入れて挑戦したのに、何も釣れなかった。

周りにはそれなりの数の人が同じように釣りをしていて、実際に釣れた人は僅かだった。

この湖にはそもそも魚が少ないのかもしれない。

こんなに大きな湖なのに。

釣り竿を返すと、日が大分沈んでいた。


預けていた剣を受け取りに行くと、出来た鍔は残念な事になっていた。

まず簡素だった橋の刻印が精密になっていた。

これは別に良い。

その上に新たに彫られた眠る猫は、毛の1本1本まで繊細に彫り込まれている。

ただ、その橋と猫のバランスが取れていない。

猫が大き過ぎる。

掘った部分とその回りに墨が入れてあるのも気に入らなかった。

無骨な剣に合っていないという事は無い。

ただ、好みでは無かった。

しかし、やってしまったのは仕方が無い。

店員さんの話が長くなる前に代金を支払って店を出た。

これは後でなんとかする方法を考えなくてはならないかもしれない。


夕飯をそのまま外で取ると、宿に帰った。

ギルドには結局顔を出さなかった。

何も急ぐ必要は無い。

そう思いながらも、何だか無為に過ごした気になった。


街にいると、ふと感じる事だった。

それはあの家にいた頃には感じなかった事だ。


まずは毎日の食べる物を確保する事。

これがやるべき事の大半だった。

それが街ではわずかなお金を払えば簡単に手に入る。

時間も労力も掛からない。


なんて簡単なのだろう。


無性に弓に触りたくなった。

矢を持たずに弓を引く。

イメージで鳥を飛ばす。

その鳥にイメージの矢を放った。

矢は外れた。


「腕が鈍っている気がする」


そう口にしても、何の言葉も返って来なかった。






夢を見た。


あの家にいた私がいる。


あの嫌な小人と戦っていた。

全ての小人を殺すと、その小人を調べ出す。


近づくと、私が私を見た。


私が手にしているのは形見のショートソード。

私が手にしているのは橋の剣。


まっすぐに私に飛び込みショートソードを振るう。

それはまるで打ち出された砲弾のよう。

斬撃を橋の剣で弾くと、ショートソードが折れた。


それでも構わずに突っ込んでくる。


残った刃が私の喉に触れた。






朝だ。


少しずつ剣が斬れ味を落として行くように、自分自身の切れ味が落ちていくような気がした。


私は錆び付いているのかもしれない。






ギルドに顔を出した。

あのランプの人が気が付いたようだ。

そのまま彼に向かう。


「おはようございます」

「おはよう。この辺だとどういう仕事があるのか見せてもらえる?」

「かしこまりました。少々お待ち頂けますか」


ファイルからいくつかの紙を抜き出していく。

てきぱきとしていて素早い。

気持ちの良い手つきだった。


「この辺りではいかがでしょうか」


ざっと見た所では危険度の高い依頼は無いようだ。

単純な肉体労働まで入っていた。

私がこういうのに向いていると思ったのだろうか?

ちらりと顔を見る。

どうでしょうか?と口にする顔には特におかしな所は無い。

馬鹿にされている訳ではないのだろう。

この辺での仕事はどういう物なのか、端的に示しているとも言えた。


「この辺りはあまり魔獣とか蛮族とかは出ないのね」

「はい。滅多に現れません。何日か街から離れれば出現しますが、この湖の周りは平穏そのものです」

「まだ街から離れるつもりは無いのだけれども、どうしたら良いと思う?」

「そうですね。モリーアン様のような方にとってはつまらない仕事と映るかもしれませんが」


そう言ってファイルから何かを探す。

名前を早速覚えられたようだ。


「つまるつまらないで選ぶつもりは無いわ」

「失礼致しました」


やがて1枚の紙を選んで出した。


「こちらではいかがでしょう」


見ると、調査の仕事だった。

湖の中程にある小島の洞窟の調査。

中は自然の洞窟のようでありながら、人が作った施設の跡があるらしい。

中には妖獣の類いも出る。


「私には何が何だか調べるなんて無理よ」

「資料に記載されている物をお持ち帰り頂くだけで、調査の必要はございません。その持ち帰った物の質と量によって報酬が決まる依頼です」

「そう。前に入った人はいないの?」

「以前には盛んに行われておりました。腕の良い戦士が3人で一度、深い層まで潜ったと聞いておりますが、それ以降はあまり大した成果は上がっておりません」

「それでは私ひとりで入ってもたかが知れているわね」

「こう申し上げては失礼ですが、あまり期待度の高い依頼ではございません。探ってみて、何か価値の高い物がたまにでも出てくれば良い。今ではその程度の重要度です」


つまりは散歩程度でも良いという訳か。

調査には興味ないけれども、妖獣というのは気になった。


「その妖獣は外には出て来ないのかしら?」

「回りが湖ですからな。泳げないのでしょう」


大体の所は分かった。

あまり不審のある依頼でも無い。

依頼内容を見る限りでは何度か入っても良いのだろう。

一度、入ってみて、続けられそうなら何度か入ってみても良い。


「分かった。明日にでも入ってみる。もし一緒に行きたい人がいるようなら探してみて頂戴」

「かしこまりました。では、入る前に、お手数ですが当方までお越し下さい」

「そう。じゃあ朝にでも顔を出すわ」


そうと決まれば今日中に小手を探さないといけない。

何軒かの工房と店の位置を聞いてギルドを出た。






工房を回ってみたけれども、すぐに使えるような小手は無かった。

この辺りでは主に水牛の革を使った防具作りがさかんなようだ。

あまり女戦士の数は多く無いらしく、在庫としては作って無いらしい。

直して使うくらいなら最初から私のサイズで作った方が良いと言われてしまった。


古道具屋を見た後に、防具屋に寄ってみた。

片方だけでも良かったけれども、片欠けの小手は取り扱い自体が無いらしい。

仕方が無いので揃いの小手を出してもらう。


出してもらった物を片っ端からはめてみると、中にひとつぴったりの物があった。


由来を聞く。

この街にいた女戦士が街を出る時に売っていった物だった。

水牛の硬い皮の部分を、あまりなめして柔らかくせずに使っているのが特徴のようだ。

確かに多少、ごわつく感じがする。

ただ、その分しっかりとしていて、叩いてみても衝撃が分散されるのが分かる。

色が黒なのが好みでは無かったけれども文句を言っている場合ではない。


水牛の小手を買って店を出た。

元々持っていた小手は片欠けではと言われてしまって買ってもらえなかった。

仕方が無いので、古道具屋に持って行って買い取ってもらった。


昼過ぎに街を出て、湖の岸沿いに歩いてみた。

装備は全て持ってきている。


辺りには何の気配も感じられない。

時折、小さな鳥が空高く飛んでいるくらいだった。

さすがにあの高さの鳥は落とせないな。


適度に街を離れた所で立っていた木の1本に的をぶら下げた。

落ちていた太い枝を適当な長さに切っただけの物だ。


的から離れ、弓を引き絞る。

矢は的に命中した。


さらに離れ、射る。


さらに離れ、射る。


さらに離れた所で私の限界距離を超えた。

ここからは直線では射てない。

多少弧を描かせる。

矢は的に命中した。


剣を抜いた。

走り、剣を振る。

今まで現れた敵をイメージする。


自分はその時、どう振るった?

それは本当に最善だったか?


別の線を探る。


剣以外の体はどう動いているか、客観的に意識する。


彼の姿をイメージした。


彼は動かない。


私から動く。


接近し、斬り掛かる。


彼は私の剣を避け、ごく自然にナイフを突き出した。


まるで自分から当たりに行ったかのように、刃は私の体を通過した。


その動きを真似る。


剣を宙に置き、避ける動作に合わせて刃を引く。


その日は納得するまで、何度も剣を振るった。






翌日、ギルドに顔を出すと、ランプの人がすまなそうな顔をした。


「申し訳ございません。どなたもいらっしゃいませんでした」

「そう。人気の無い仕事なのね」

「はい。今までに高額となる資料を持ち帰った者がほとんどおりませんでした事、あの洞窟からは出て来ない妖獣ですので、倒しても退治料がほとんど出ない事が原因のようです」


それを聞いて少し笑ってしまった。


「余所者にやらせるには最適だった訳だ」

「そういう一面がございました事は否定致しません」


なるほど。

印象よりもやり手のようだ。

少し好感を持った。


「洞窟内は暗く、照明が必要になります。普通は入られる方ご自身が用意なされるのですが、今回は特別にこちらをお貸し致します」


そう言って、ひとつのランプを出した。

4面に硝子を張ったシンプルなランプだ。

中には炎が浮いていた。


「何が燃えているのかしら?」

「魔石、と呼ばれる不思議な結晶石です。灯せば意図的に消そうとしない限り、その炎は消える事はございません」


ランプの人の胸の物もそうなのだろうか?


「あなたが作ったの?」

「昔はそういう研究もしておりました」

「今は?」

「モリーアン様がお持ち帰りくださったら考えましょう」


ただ面倒事を押し付けようというだけでは無いらしい。

成果が欲しいのは真実か。


「ランプを貸してくれるのはどうして?これはこれで貴重なんじゃないの?」


貴重、という事を否定せずに言う。


「あちらのギルドでは大変な成果を上げられたにも関わらず、その成果に対する報酬をお支払いできなかったようですので、これくらいは当然の事と判断致しました」


やっとトカゲの余計な事がまともに働いたらしい。


「これもその洞窟から?」

「その通りでございます。こういった物が出ると判明しておりますので調査したいのですが、長い間全く進んでいないのが現状でございます」


ランプの人が深く礼をする。


「ですので、モリーアン様には大変期待しております。無事の帰還をお待ちしております」






桟橋に向かい、船を出してもらった。

ギルドから話は通っているのか、説明は何も必要無かった。

最初は岩のひとつくらいにしか見えなかった影が進む度に大きくなっていく。

それはやがて小島になった。

中央に岩山がある。

そしてそれ以外には何も無い島だった。


船をつけてもらい、浅瀬に降りる。

岩山をぐるりと回ると、ぽっかりと口が開いていた。

中は暗い。

そしてじめじめとしていて、何か薬品のような臭いがした。


借りてきたランプを照らすと、ぼんやりと中が見える。

左手にランプ、右手に抜き身の剣を持って中に入った。


弓はギルドで預かってもらった。

ランプを持って移動する以上、咄嗟には使えないだろう。


最初は狭かった道も進むにつれて広くなった。

足下はそんなに悪く無い。

かつては人が通っていたからだろうか。


道が広くなると、ランプの明かりが届かない闇も増える。

どうしても視界が狭くなる。

音や臭い、肌の感覚に意識を向けてゆっくりと進んで行った。






事前に説明を受けていた物と合致するような物はあまり無かった。

入り口近辺でめぼしい物は既に取られた後なのだろう。

もう少し、一気に潜ってみても良いのかもしれない。


道は一本道だ。

迷う心配は無い。

心配があるとすれば元来た道が崩れる可能性だろう。

それも心配していても仕方が無い。


一度、剣を振ってみた。

道の中央では問題ないけれども、中央から外れた時にはあまり大振りはしない方が良さそうだ。


ランプは余程の事をしなければ消える事は無いらしい。

ただ、ろうそくも持ってくるべきだったかもしれない。

日の光が全く入らないので、自分がどれほどの時間をかけて進んでいるのかが分かりにくい。


最初なので、あまり消耗するまで進まない方が良いだろう。

そう考えた辺りで奇妙な生き物に出くわした。


大きなトカゲに似ている。

ただ、それとは決定的に違うのは脚が虫だった。

節があり、黒々としている。

脚の数は6本あった。


ランプの明かりの中に一瞬、浮き出たかと思うと、すぐに姿を消した。


あれが言っていた妖獣のひとつだろう。

大きいと言っても、ふつうのトカゲに比べたら、だ。

私の腕と同じくらいの大きさだろうか。


1体2体ではどうという事もなさそうだけれども、群れで来たら厄介かもしれない。

警戒度を上げて進む。


ずっと進むと、道がふたてに分かれた。

途中、ゆるやかにカーブしていたりはしたものの、道としては一本道だったので、初めての分岐だ。

さて、どっちに行くべきか。


ここまで収穫は特に無い。

いい加減、何かしらの成果が欲しい所。


両方の道を照らし出してみる。

特にどちらがどうという事も無い。


さて。

と、ランプを置き、考え出した所でさっきのトカゲ虫が現れた。

今度は3体いた。


仲間を呼んできたのだろうか?


そう考える間もなく、1体、2体と飛びかかってくる。


剣を振るう。


1体斬った所で剣を振り切らず、止め、次の1体を断ち斬る。


這い寄ってきた最後の1体の頭を潰した所で周囲を警戒し直す。

特に何の気配も無かった。


剣を戻し、ナイフを抜いた。


今のトカゲ虫程度だったら剣は必要無いだろう。

多少、硬い気がするものの、大した事は無い。


斬り落とした1体の口を裂いてみた。

そんな状態でもびくりびくりと動いている。

気味が悪い。


特に毒性の牙は見当たらなかった。

ギルドからもそういう話は聞いていない。

この大きさだったら顎の強さも大した事は無いだろう。


どちらでも良かったけれども、今、トカゲ虫が出てきた方の道を進む事にした。






進んで行くと、やがて行き止まりに出た。

多少空間が広くなっている。

トカゲ虫が1体いたので、潰しておく。


しばらく探してみたものの、何も出なかった。

怪しい所も無い。

戻ろう。


妙な音がした。

かしゃかしゃとした枝か何かをこするような音だ。

その音は近づいてきている。


さっきのトカゲ虫が立てる音にしては大きい。

幸いな事にここは空間が広くなっている。

ナイフを戻し、剣を抜いた。


音が近づく。

やがて姿を現したのはライオンだった。

いや、正確にはライオンではない。

頭はライオンなのに、体が虫だった。

あれは蟻?

この洞窟にはこんな虫もどきしかいないのだろうか。

気持ちが悪い。


獅子頭は私を見つけると、吠える事無くまっすぐに近寄ってきた。

その動きは獣のものでは無い。

虫、そのものだ。


速い。

牛程の大きさであるにも関わらず、重さ、力強さをかけらも感じない動き。


力を抜き、その接近を待つ。

直前で口を開き、口の中の奇妙な青さを見ながら剣を宙に置いた。


その口にくわえこませるように置かれた剣を引く動作で突撃を避ける。


ぶつり、と何かの筋を断ち斬った感触が手に残る。


すぐに振り返り、剣を落とした。


斬撃はその奇妙な獅子頭の脚を斬り落とす。


獅子頭がバランスを崩す。

体ごとぶつかるようにして、その目に剣を突き通した。


獅子頭は悲鳴も叫びも上げない。


顎の筋を断ち切られ、閉まる事の無くなった口から血とヨダレが流れ続ける。


完全に頭を刺し貫かれているにも関わらず、獅子頭は剣から逃れようとしばらく動き続けた。


剣を貫き通したまま、肩で押さえ込むようにして動きを封じる。


やがて力が抜けていき、そしてそのまま動かなくなった。


剣を抜くと、脚だけが不気味に動く。


やはりこれは虫なのかもしれない。


不気味だ。

気持ち悪い、と言うよりもただひたすらに気味が悪い。

こんなのが何体も出てきたら、それはやる気も無くすだろう。


剣に付いた血を払う。

それは不気味さを強調するように青かった。






分岐まで戻ると、さっきの3体のトカゲ虫の死骸が消えていた。

よく見ると、脚が落ちている。

さっきの獅子頭が食べたのだろうか。


何となく、この洞窟内の虫の食性が分かってきた気がする。

いや、トカゲ虫は何を食べているのだろうか?

共食いしているイメージだけが湧いてきて、さらに気味の悪さが頭を悩ませた。


さっきとは逆の分岐を進む。

幾度かトカゲ虫と、獅子頭には一度、出くわした。


獅子頭は体の大きさの割に軽い。

その分動きが速いけれども、牙か威力の低い体当たりしか無いと分かっていれば対処は簡単だった。

むしろ、カウンターで斬り伏せる戦い方の練習にちょうど良い相手だ。

不気味すぎる死に様がどうにもやる気を下げるのだけが悩みの種だったけれども。


途中、横道がある事に気が付いた所で戻る事にした。


外に出ると、意外な事に、日はまだ高かった。


待っていた船に乗り、街に戻った。

ギルドに向かい、報告をする。


「あれは不気味すぎるわ」

「入られた戦士の方は例外無く、そう申されます」


さらに貰った報酬は1日の宿代にすらならなかった。

これでは受ける人がいなくて当然である。

何も面白い事が無い。


それでも明日もまたやると告げ、宿に帰った。

訓練にちょうど良いのは確かなのだ。






翌日もまた潜った。

今度は船は漕いでもらわずに、自分で漕いだ。


1日置けば多少は慣れるのだろうか。

昨日よりは虫退治はスムーズに進んだ。

虫はどこまでが生で、どこからが死なのかやっぱり判別できない。

ここではそういうものだ、と自分に言い聞かせて進んだ。


獅子頭には心臓は無いようだ。

一撃でその命を刈り取る事は出来ないらしい。

首をはねても、首は首で、体は体で動くのは心臓に悪すぎるのでやめた。


流れ出る青い血も血では無いのかもしれない。

頭をどうにかするのがとにかく一番の早道のようではあるけれども、ハンマーを振るえるような腕力は無い。


脚を斬り落として最後に頭に一撃を加えるのが一番の早道と分かった後はあまり深く考えずに剣を振るった。






何度も繰り返し、洞窟に潜る。

潜り続ける内に暗闇の中の気配も何となく読めるようになってきた。

探索のペースを上げ、より深い階層を目指す。


やがて、それらしい石も見つかるようになった。

何個か拾っていって、1個でも当たりが出れば儲け物だ。


当たりの石、魔石は人の手で作り出された結晶石らしい。

私は見た事無いけれども、天然の物も存在している。


ただ、少なくともこの洞窟で出てくる魔石は人の手で作られた物らしい。

本当はこれよりも、どうやって作ったのかが分かるような資料が一番の望みと言われた。

しかし、そんな物は無い。


人工的な何かを感じさせる物はあまりにも少ない。

石組みの壁や時折、何かの部屋のような場所が出てくる程度。


かつて、腕の良い戦士が持ち帰ったという実験器具らしき物が出てきた時にはかなりの大金が支給されたようだ。

それで大勢の人が詰めかけたが、結局それ以降、めぼしい物は出なかった。


その結果、魔石の類いだけは拾いつくされたようで、今では誰もやらない仕事になったのだろう。

実際、ほんの欠片程度しか見つけられていない。


ここに出てくる虫も、きっと当時の魔石をつくり出した人達の研究成果だ。

それだけでろくでも無い研究だったと断言できる。


ここの虫達は水を恐れるようだった。

水たまりのある部屋や水の漏れ出ている場所であれば、休む事も出来た。


ひとりで潜る日が続く。

相変わらず協力者は現れない。


もはや日帰りで探索できる範囲は探索しきってしまった。

ここからは探索するのに無理をする必要がある。


最初は戦う訓練のつもりで潜っていた。

今では最も深い部分への興味も生まれている。

この気味の悪い洞窟の最深部には何があるのだろうか?

まだ誰もそこには辿り着いていないらしい。


私自信の錆も少しは落ちただろうか。


朝から夕方まで体を動かす。


自分の可能性を探す。


動け!


考えろ!


自分の肉体の声が少しずつ、少しずつ鮮明に聞こえるようになってきた。


手を伸ばし続ける。


深く。


奥へ。






深く潜って行く。


もはや出現する虫は問題なく撃破して行ける。


自分から斬り掛からず、相手の体重や力を利用して戦って行く方法を覚えたのも先へ進める原動力になった。


以前の戦い方を1日中続けろ、と言われても無理だろう。


最後には体力が尽き、尽きれば力は失われる。


今の戦い方ならば出来る気がする。


力を抜いて構える術を覚えると、以前には無い余裕が生まれていた。


自然体で良い。


水場を見つけては休む。


そして深く。


より奥へ。






やがて、最も深いであろう空間に辿り着いた。


中央に地底湖がある。

まるでドームのような半円の空間。

湖はまるで月に照らされたように光っていた。

ランプが必要無いくらいに明るい。


その湖の対岸に何かがうずくまっていた。

大きい。

まるで岩だ。

獅子頭の3倍くらいはあるだろう。


その何かが首を上げた。


ランプを置き、剣を構える。


危険だ。


生き物として上位の何か。

彼と共に戦った猿頭の魔獣と同じ感じがした。


何かは私を見、そして吠えた。


折り畳まれていた体が開いていく。


それは翼の生えた蛇に似ていた。

頭には角が生えている。


足と腕で四つん這いになり、翼を広げた。


絶叫が響く。


翼にはいくつもの穴が開き、そして広げた衝撃でぼろぼろと崩れ落ちた。

腐っている。


翼だけではない。

体のあちこちが動く度に雫を垂らす。

決して小さくない肉片とともに。


死体が動くか。


そうだ。あれは確かに死んでいる。

死んでいるのに動いている。

腐臭がここまで届いていた。


その死体が走り出す。






素早い。

獅子頭の比では無い。

湖を回り、こちらに近づく。


あの巨体にぶつかられるだけでもダメージは避けられないだろう。

正面からぶつかるようには斬り付けられない。

翼が腐っていて飛べないのはせめてもの救いだ。


思考を一段切り替える。

戦いの意志を灯す。

死体はおとなしく死んでいろ。


あっと言う間に目前にまで迫る。

首を下げ、地面を削り取りながら迫るその姿に生きている者の思考は感じられなかった。

地面を削った分、速度が落ちた。


獅子頭と同じくらい、いやそれよりも劣る単純な攻撃。

頭が働いていないなら、そのまま死んでいれば良いのに。

面倒な。


直前で横に飛ぶ。

大きく避けないと巻き込まれる。

宙で体をねじり、回転させ、すれ違い様に目前にあった翼に剣を振るった。


異様なまでに硬い感触。


まるで鋼だ。

斬る事は出来なかった。

しかし、衝撃に翼が耐えきれずに根元から折れた。


鋼の体?

もしかして竜か?


話には聞いた事がある。

出くわしたのは初めてだ。


死竜は壁まで突っ込むと、ぶつかり、やっと止まった。


接近し、暴れるしっぽに剣を落とす。


硬い。


全力で振るった一撃だったのに、その鱗にはまったく傷が付いていない。

ただ、衝撃を受けた内部から汁が飛び、そこから奇妙に折れ曲がった。


ダメージはあるのか。

しかしこれではあの獅子頭以上にどこまで攻撃すればこの死体は動きを止めるのかが想像が付かなかった。


死竜が身を立て直し、再度突撃してくる。

それをかわし、剣を振るう。

重量の伴った突撃は私を轢き殺そうとする。

その力を利用するように、脚や体の側面に剣を落とす。

剣は弾かれ、内部に刃は届かない。

衝撃だけは届いているようだ。

それは少しずつ肉体を破壊していく。


肉体が破壊されれば、普通は動きが鈍る。

弱くなった部分をさらに攻めれば、やがては動きを止められる。

しかし、目の前の敵の動きは鈍らず、剣では完全に動きを止められる程のダメージが出せない。

竜だからなのか。

それとも死んでいるからなのか。


剣が折れたり曲がったりしない事を感謝した。

誰に?

誰かにだ。


頭の前に剣を置く。

かわしつつ刃を引く。

完全に弾かれていた。

その頑丈さは体の比では無い。

ここを潰すのは無理かもしれない。


首を落とせばどうだろう。

首だけを執拗に狙う。


鱗の崩れ落ちている部分に斬撃が届き、血が噴き出した。

それでも動きは鈍らない。

裂けた首を振り回す。


衝撃。

まともに鞭のような一撃を食らってしまった。

魔獣戦用に作った鎧のおかげか、飛ばされている最中でも意識は、はっきりしている。

転がるように着地して、すぐに体勢を整える。


死竜の動きがおかしかった。

裂けた首では自らの動きを制御できないのか、その動きは奇妙に蛇行する。

勢いは衰えていない。

化け物め。


私に向かおうとして、体が逸れ、壁に激突した。

首がさらに不安定になる。

それは先程よりも裂けていた。

もはやその動きに予測は付かない。


これ以上は、まともに相手にするべきではないだろう。

ふと見ると、足下に鱗が落ちていた。

それを拾い、懐に入れる。

入ってきた空間の入り口に近いのは私の方だ。

走る。


死竜がそれを追ってくる。

入ってすぐの場所に置いてあったランプを拾い、そのまま走った。


死竜は入り口の脇に激突した。

入り口が崩れる。

一度だけ振り返ると、死竜は崩れてきた岩に挟まれていた。


まっすぐに前だけを見て走る。

遠く絶叫が響く。


ひとりで遊んでれば良い。

私はもう付き合えない。


襲ってくる虫を返り討ちにして外に向かう。

あそこには何があったのだろうか?

光る湖底。

光っていたのは何か?

気にならないと言えば嘘になる。

それでもあそこには行くべきではないだろう。


あれを倒したければこの剣以上の切れ味が必要だ。

あるいはハンマーのような打撃力のある物が。


前者を手に入れるのは難しいだろう。

後者は私では扱えない。

そもそもあの突撃をかわしつつハンマーのような重い物で打撃を加えるのは相当な腕が必要だろう。


あれだけの相手に十分に戦えていた。

とどめを差せなかったのは残念でも、あれだけの時間、あれだけの敵を相手に出来たのは十分な戦果だ。


それに目的の最深部が見れた。

あの湖はとても綺麗だった。

誰も見た事の無い最も深い場所を見る。

その目的は達成されたのだ。

もうここに来る意味は無いだろう。


死竜とはどれくらい戦っていたのか。

外に出ると、もう次の朝だった。






「竜ですか」

「ええ。そうよ」


そのままギルドに向かった。

ランプを返し、報告する。


不思議なドーム空間。

光る湖底。

死竜。

剣は弾かれ、文字通り歯が立たなかった事。

どれだけの攻撃を加えても、どれだけ動き回っても、まるで動きが鈍らなかった事。


「あれは倒せないわ。無理よ」


懐に入れていた鱗をカウンターの上に出す。

ナイフを抜き、鱗に突き立てた。

ナイフを持ち上げると、鱗には傷ひとつ付いていない。


「竜とはそういうものと言われておりますが、まさか実際にそんな話を生きている内に聞けるとは思ってもおりませんでしたな」

「嘘だと思うんなら行ってみなさい。命の保証は出来ないわよ」

「疑っておりません。この鱗が何よりの証拠です」


びっくりするほどの報酬金が出た。

貰った小袋には数枚の金貨が入っていた。


「最深部到達と竜の鱗の報酬です」

「最初の依頼内容とずれるのは良いのかしら?」

「その竜は恐らく、クエレプレでしょう。宝を守る竜と言われております。どうして屍竜と化したのかは分かりませんが、クエレプレがいるのなら、その光る湖底には宝が眠っているのでしょうな」


今までと違って、はっきりとした目的を持って、どれくらいの力量の相手に依頼をすれば良いのかが分かった訳だ。

ギルドにとっても満足のいく成果だったのだろう。


「その話は余程の腕の人以外にはしない方が良いわよ。この街の戦士がいなくなっちゃうわ」

「モリーアン様の再度の挑戦をお待ちしますよ」


気が向いたらね、と簡単に返した。

とにかくお風呂に入りたかった。

ギルドを出て、宿に向かう。


街はまだ目覚めたばかり。


朝の挨拶をする人々が行き交っている。


懐から鱗を出した。


拾った鱗は2枚だった。


取ってきたのは私なのだから、1枚くらい私が貰っても良いだろう。


手のひら程の鱗を太陽にかざす。


鱗は日の光を反射して輝いていた。

使い古されたトネリコの弓

スルゲリのナイフ

橋のトロワ

左手:何かの革の小手 → 黒水牛の小手

右手:布革の小手 → 黒水牛の小手

積層鎧

牛革のベルト

鹿革のブーツ


トカゲ虫はヨーウィー。

獅子頭はミルメコレオ。

ランプの人はウコバク。

豚男はオーク。

依頼者はメルコム。


さらに「庭園の国の少女」へと繋がっていきます。

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