戦慄の音楽室~デスワルツの襲来~
音楽室。
そこで奇妙な現象が起きていると聞いたのはつい最近だ。
「なあ大志、音楽室にピアノ3台もあったっけ?」
「はぁ?」
実際に行ってみると、確かに真新しいグランドピアノが1台、増えていた。
「誰か入荷したのかな?」
「それがさ、先生方も誰も誰も知らないんだってよ」
「うそっ!!」
「ああ、なんか不気味だな。」
その時はそれくらいしか思っていなかった…。
しかし、このグランドピアノの真相を知るときは、すぐにやってきた…。
※※※※※※※※※※※※※※※※
翌日。教室に入ると利弥が俺のもとに駆け寄ってきた。
「なあ大志、昨日の夜、音楽の吉田先生が倒れたんだってよ!」
「何があったのか?」
「詳しいことはわからないが、音楽室を施錠するとき、変な音が聞こえてきて、意識がどんどん薄れていったと、話しているみたいだよ」
「…なんだその変な音って」
「呪いの音楽じゃねえの?」
「んな馬鹿な…」
…俺の期待はすぐに裏切られた。
この1週間の間で3組の人たちが犠牲になった。
具体的に言えば吹奏楽部の部長さんと近くにいた数人の人、主事さん、さらに、警備の人だ。
犠牲になった人たちの共通点は…日が落ちた後に倒れている。
「とにかく、音楽が原因であることに間違いがなさそうだな」
「ああ…」
「あなたたちもその話題してるの?」
優香と晴美だ。
言い忘れていたが、俺ら4人はピアノが弾ける。そのせいか、たまに音楽の話題をすることがあるのだ。
「ねぇ、聞いた人を倒す音楽って、あの不審なピアノが原因じゃない?」
優香が言う。
「じゃあさ、誰かが弾いていることじゃないってことか?」
「だって、人間にそんな能力ないじゃん?」
「そうだ、なんなら俺たちで見に行ってみない?」
利弥が提案した。
「いいね、いいね!」
「そうしようぜ」
「じゃ、明日の放課後ね!」
…我ながら怖いのもの知らずだ。
でも、気になる。なんならこの際に事件を解決したい…。
※※※※※※※※※※※※※※※※
翌日の放課後。
耳当てにイヤホン、校則違反だがIpodをもって俺ら4人は音楽室の前に来た。
「相手は音だからね。こちらも音を使えばダメージは軽減できるはず…」
陽が落ち始めている。いつもと違う雰囲気が音楽室に漂う。
「これが、あのピアノか…」
特に、不思議なピアノはより一層黒く、怪しく見えていた。
「ねぇ、この楽譜、何かな?」
不意に晴美が聞く。
「なになに…曲名は…death waltz?」
「嫌な名前ね…」
「death waltzって…ジョン・スタンプ作曲か?」
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ジョン・スタンプ
アメリカの方。(おそらく)
妖精のエアと死のワルツ、自動車事故など演奏不可能な曲を残している。
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「いや、ジョンという名前は入ってない。」
「気味が悪いな。」
「ねぇ、このタイトルの横の文字、副題かな。」
「そうだね、<悲しみの歌>か…」
「いったいな…」
利弥が言いかけた時、後ろのピアノがいきなり音を出し始めた!
楽譜を見て、すぐにdeath waltzであることはすぐにわかった。
しかし…なんでこんな不快な音なんだ?どんどん意識がもうろうとしていく…。
「みんな!耳当てとIpod!」
優香の声で自分たちの武器を思い出した。
「危うくあの世にいくかと思った…」
「ああ」
「でも、音を完全に防げているわけじゃない。このままだとジワジワダメージを食らうことになるわ」
「どうすればいいのかしら…」
「とりあえず、一度ここから抜け出そう!」
「そうだな」
「おい、大志、どうした?」
「鍵が…開いているのに…ドアが開かない…」
「はぁぁ!?」
「とりあえず4人で体当たりしましょう」
ドーンッッ!
「だめだ、びくともしない」
「これも、あの曲のせいか?」
「だろうな…」
「だめ、窓も全部あかないわ」
「完全に閉じ込められたのね…」
「こうなったら、あのピアノを何とかするしかないな」
「この部屋にはほかにもピアノがあるわ。こちらも音で対抗しましょう」
「death waltzがすべて終わるまでこちらも音を出し続ければいいんじゃないか?」
「そうね。やってみよう。」
「じゃあ、まずは俺から行く。」
利弥が普通のグランドピアノの前に座る。
「この曲は…花の歌か。」
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花の歌
グスタフ・ランゲ作曲
ヘ長調の旋律の曲。
途中にニ長調、変ロ長調の曲想もある。
この曲をはじめ、ランゲの曲は当時大変流行した。
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「いいぞ…利弥。ねえ、ところでdeath waltzの楽譜何ページある?」
「見るからちょっと待って。」
晴美が耳当てをしながらひとりでに動くピアノに近づく。
「えーっと…1、2、3、…25ページもあるわ!」
「はぁぁ!?」
「4人で交代しながら曲を弾いていきましょう。それしかないわ。」
「おい、俺は弾き終わったぞ!」
利弥もう弾き終わったのかよ…あっ、花の歌って3分ちょいで終わるんだっけ。
仕方ない、次は俺が行くか。
「じゃあ、次俺弾くから、お前たちは順番考えといて!」
「わかった!」
3人の声が重なったのを確認し、俺は自分の今練習している曲を弾き始めた…
…アラベスク第1番。
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アラベスク第1番
クロード・アシル・ドビュッシー作曲
彼の作曲した「2つのアラベスク」の最初のピアノ曲である。
やわらかいアルペジオで透明な色彩感覚が織りなされていく。
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俺は弾きながら考えていた。
(…テンポから考えて、death waltzの方はまだ7、8ページくらいしか進んでいないだろう。とすると、あと何曲くらいこちらは弾けばいいんだ…?)
なんだかんだしているうちに弾き終わったしまった。
この後、優香が亜麻色の髪の乙女、晴美が楽興の時第3番、そんな調子でどんどん俺たちは演奏していった。
どれくらいの時間がたったのだろうか。
「まだ…この曲は…終わらねえのかよ…」
「あっ、ピアノの音がやんだわ!」
「ってことは…俺ら勝ったのか!death waltzに!?」
「そうみたいね」
安堵の空気が流れる。
と、その時、例のピアノの譜面台に数枚の紙が飛んできた。
「なんだこの紙?白紙じゃねえか…っっ!!」
利弥がそういった瞬間、白紙だった紙に少しずつ楽譜が浮き上がってきたのである!
「なに?どういうこと?」
晴美が驚きを隠せずに言う。
「おそらく…この曲はターゲットを倒すまでどんどん進化し続けるんじゃないか…。」
ピーン…
再び、death waltzが始まった。
(くそっ…もう、弾ける曲がねぇ…)
Ipodの充電も限界が来ている。
あきらめかけたとき、俺の目の前に最初の方の楽譜が転がってきた。
(いまさらこんなものを見たって…。)
ん?この文字は?…もしかして!
俺は最後の力を振り絞ってうずくまっている3人に向かっていった。
「誰か…!喜びの歌を弾いてくれ…!」
くそっ、もう限界だ…。
「私…弾けるわ…。」
優香が立ち上がる。
足が震えている。あいつも限界なんだろう。
「弾くよ!!!!」
シ シ ド レ レ ド シ ラ ソ ソ ラ シ シ ラ ラ・・・
喜びの歌のメロディーが響き渡る。
その時!deatz waltzを演奏しているピアノが少しずつ光りはじめ…
音楽室は光に包まれた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
俺たちが目を覚ますと、あのピアノは跡形もなく消えていた。
「助かった…ようね」
「ああ」
「でも大志、なんで喜びの歌がdeath waltzを撃破できると気づいたのか?」
「それはね…」
俺はさっき、楽譜の1ページ目の下段に目をやった。
そこにはこう書いてあった。
<この曲の副題と対称の曲が、この曲を撃破できる>
「つまり、副題の<悲しみの歌>の対称は<喜びの歌>だから…」
「そうか!」
俺たちは、暗くなった校舎を出て、それぞれの帰路についた。
それ以降、death waltzがこの学校に響き渡ることはなかった。
初めまして。
大晴と申します。
この作品が初投稿です。
以前から何らかの形で物語を紡ぎたいと思っていまして、今回、小説家になろうで実践してみることにしました。
改めて読んでみると、国語の成績と文章は比例すると実感しますが、夢がかなったことに喜びを感じています。
少しでも多くの人に読んでもらえれば幸いです。
現在は連載の準備中です。ほかにも、2次創作の短編もやってみたいと思っております。
どうぞよろしくお願いします。