#はち#
何を話せばいいのかわからず、
とりあえず出た言葉が
「ワンコールで出たからびっくしたよ」
だった。
豊はしばらく何も言わず、まずいことを言ったなと後悔し始めたとき
受話器の中か豊の声が聞こえた。
「だって待ってたんだもん。そりゃワンコールで出るっしょ?」
なんかちょっとかわいくなって、
「ふぅん、待ってたんだ?
じゃぁもうちょっと時間経ってから電話すればよかったぁ」
なんて言ってみたりして。
「うわひでぇ。
悪かったよ。もう今度からワンコールで出ないから」
なんて言われるとちょっと寂しくて、
「うそ、うそ。ごめん?」
「冗談だしー」
とけらけら笑う声に安心した。
それから少し話して、
「じゃあ、また今度」
と言って電話を切った。
何を話したか、正直あんまり覚えていなかったけれど
こんなにほんわかとした気分になるのは、本当に久しぶりだった。
部屋でただぼーっとしていると、空は夕焼け色になり、
きれいだったから、お気に入りのポラロイドカメラに
撮っておいた。その写真は今でも大切に持っている。
年ごとにかわるスケジュール手帳の裏にいつもしまっておいた。
夜になってもなかなか寝つきの悪い私が、
今日に限っていつもより寝付けなかった。
なんとなくなのか、それとも電話したからなのか、
どっちでもよかったけどそんなことをずっと考えていた。
次の日は5時くらいに起きた。
あんまり寝てないはずなのに、頭がスッキリとする朝だった。
下におりても誰もいなかった。
自分の席に座って、なんとなくニュースをずっと見ていた。
そのうちみんなが起きてきたけど、ご飯を食べて
すぐ学校に行った。
普通の月曜日だったし、普通授業の日だったし、
普通に友だちとしゃべっただけだったけど、
家に帰れば、携帯にメールが届いてるかもしれない。
楽しみにしている自分が少し子供っぽく感じたけど、
それでも別にいいって言えるくらい、
私は恋をしていた。
読んでくださった方、ありがとうございます。