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俺の不幸は蜜の味  作者: NATSU
第10話 『夏の合同合宿 中編』
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(11)

 潮風に吹かれながら、輝十は一面に広がる青い海を見渡した。暑い日差しも潮風のおかげで幾分涼しく感じられる。

 日陰に移動し、椅子に腰掛けて腑に落ちない顔をした。

 あれから――事件翌日、例の事件を理事長に報告した輝十と杏那だったが、その反応は想像以上に薄いものだった。あれは恐らく合同合宿の相手である守永学園の差し金だったと訴えたものの、その証拠がないので対処のしようがないということだった。

 多くの一般人犠牲者を出しているというのに、その反応の薄さを輝十は遺憾に思うが、教員や執行部隊に任せるように言われて何も言い返すことが出来なかった。

 自分の無力さは事件で身をもって学んでいる。何も出来ない非力な人間でしかないことを重々感じているのだ。

 だからこそ何も言えず、何も言わず、その場はそのまま曖昧なままで終わってしまった。

 そして合宿当日である今日、輝十達は客船に乗って人工的に作られた無人島へ向かっている。今回の合同合宿の地だ。

「いい加減、機嫌直したらー?」

 不機嫌な様子の輝十の傍らに腰を下ろしながら杏那が言う。

「別に不機嫌じゃねえよ。ただよ、なんかすっきりしないっつーかさ」

「まーねぇ……実は何が起きているか、理事長は把握してるんじゃないかって思うんだよね」

「どういうことだよ!?」

 食いついて身を乗り出す輝十を押し返しながら、冷静さを取り戻すように促す。

「まぁまぁ、落ち着いて。ただの予想だよ、予想。もしそうだとしたら、なにか知っていて言わないってことでしょ? 言わない理由があるってことだよ。それか言えない理由だね」

「理事長が俺の母親なのを隠してたみてえに、何か理由があるっつーことか……」

 と、そこまで口にして輝十はある違和感を抱く。

「ああっ!」

 突然、海上に響き渡るでかい声を出して椅子から飛び上がる輝十。

「そういえば俺、それについて親父に問いただそうと思ってて忘れてたわ……」

 杏那は輝十を見上げ、じと目で見た。

「なんでそんな大事なことを忘れられるのか不思議だよ、ほんと。バカと童貞は死んでも治らないって本当だよねー」

「おい! 童貞を病気のように言うんじゃねえよ!」

 輝十が杏那の胸倉掴んだところで、

「ざ、座覇くんっ! 妬類くん!」

 埜亞が何かを抱きかかえ、目を輝かせて歩み寄ってきた。

「どうしたんだよ、そんな嬉しそうな顔して」

 海に潜む悪魔でも発見したとかじゃないだろうな……と嫌な予感がしながらも埜亞の返答を待つ。

「お、お隣座っても……いいですかっ!?」

 輝十が首を傾げながらも頷くと埜亞は隣に腰掛けて、抱きかかえていたものを目の前の円テーブルに置いた。

「お菓子食べませんか? みんなでわいわい食べてみたくてっ!」

 拳を握り締め、力強く言い放つ埜亞。

 埜亞にとって友人達との遠出というのは初めてで、何もかもが新鮮で楽しくて仕様がなかったのだ。

「と、友達と……こういう時にお菓子食べてみたくて……」

 自分で言っておきながら照れくさそうに俯いてしまう埜亞。

「もちろん! 一緒に食おうぜ! 丁度小腹すいてたしな」

 それを察した輝十はいつもより明るい声色で言い、杏那もまた同意する。

「だね、糖分補給したかったから助かるなーどこかの誰かさんと違って、ほんっと黒子ちゃんが気が利くなー」

「おい、なんか言ったか?」

「どこかの誰かさんって言ったんだけどなぁ、自意識過剰だなぁ」

 二人が再び睨み合っているのを余所に、埜亞がお菓子の袋を開けていく。

 そこで何か思いついたらしい杏那が板チョコ片手にポッキーを輝十と埜亞の間に差し出し、

「黒子ちゃん、知ってる? もっとも仲良い友達同士でお菓子食べる時って、ポッキーの端を互いに咥えて一緒に食べるんだよー?」

 あたかもそれが当たり前かのように、笑顔でしれっと言い放つ。

「は、はぁっ!?」

 もちろん輝十は盛大に反応を示すが、一方で埜亞は杏那の言葉を信じ切っており、頷きながらポッキーを取り出そうとしている。

「て、てめえ……なに、ふざけたこと、言ってやがる!」

「え? 俺はラッキースケベ展開の手助けしただけだけど? 感謝はされど、怒られる意味がわからないなぁ」

 小声でやりとりする二人に気付いていない埜亞は、早速ポッキーを咥えて輝十の方を向く。

「にゃ、にゃはくん……」

「!」

 ポッキーを咥えたまま、上目遣いでその刻を待っている埜亞。もちろん彼女はこれが友達としてあるべき行為だと思っており、何もわかっていない。

 そんな彼女の純情を弄ぶ杏那死ね! マジで死ね! 心底喜んでときめている俺はもっと死ねえええええ!

「の、埜亞ちゃん……」

「ひゃい?」

 埜亞は咥えたまま返事をして首を傾げる。

 どうしよう、可愛い……拒否れない。でも果たしてここで彼女の純情を踏みにじってしまっていいのか? 否! だめに決まっている! でも、でも……こんな純粋無垢な可愛い女の子に迫られて、本能に逆らって拒否出来る男がいるのだろうか? 俺の理性、既に外出中なんですけど。

 目を強く閉じ、自分自身と対話した輝十は決意する。

 そう、これは友達としての行為であり、彼女はきっとなんとも思っていない。ならば事故みたいなものじゃないだろうか? つまりカウントされないのだ。

 俺だけの心の思い出にしておけばいい。ああ、男の思い出プライスレス!

 満を持して、輝十がその反対側のポッキーを咥えようとした時――

「ポッキーゲームってやつですね」

 そう言って輝十の顔の前でポッキーをへし折ったのは言わずもがな、慶喜である。その涼しく爽やかな顔立ちからは思いもよらないほど、内心燃えたぎるものがあるのだろう。

 冷ややかな笑みを浮かべたまま、

「夏地さん、これは人間の友達同士でやることじゃないですよ。特に男女で行うのは禁忌とされています」

 しれっと事実をねじ曲げて説明する。

「そ、そうなんですかっ!? 座覇くん、ごめんなさい! もしかして悪魔同士だけだったのかなぁ……」

 きっと杏那が言っていたのは悪魔同士の友達同士でのことなんだろう、と埜亞は勝手に解釈していた。

「千月てめえ……!」

 立ち上がった輝十に余裕綽々の笑みを向け、

「そんな卑怯な手を使って夏地さんの唇を奪うつもりだったんだ?」

「んなっ! そんなわけねえだろ!」

「する気満々だったくせに」

「うるせえ! ギリギリで辞めるつもりだったんだよ!」

 邪魔が出来て満足したのか、慶喜はそのまま客室のある方へ歩いていく。

「なんなんだよ、あいつ……邪魔しにきただけじゃねえか」

「やっぱりする気満々だったんじゃーん」

 輝十の呟きを聞き逃さなかった杏那は笑いながら突っ込んだ。


 気を取り直して、埜亞が持ってきてくれたお菓子を食べながら改めて三人で談笑することにする。

「しかしあれだな、これから行く所は無人島なんだろ?」

「はいっ。連絡手段は全部断たれるそうです」

 杏那が新しい板チョコの銀紙を捲りながら言う。

「まるで推理小説の展開みたいだよねえ」

「殺人事件が起きなければいいけどな……」

 これまでの展開を考えれば、何が起きてもおかしくないと思っておいた方がいい。輝十の表情が強ばったところで、

「大抵、この場合は色恋沙汰が原因で殺されるんですよ。男同士って複雑ですね……そこがいいんですけど」

 粉米がまるで最初からそこにいたかのように、輝十達の向かい側の椅子に座って話し出す。

「なんでそこで男同士の色恋沙汰になるんだよ! つーか、いつからそこにいたんだよ……」

「ポッキーゲームの時からですが?」

「!?」

 あの一部始終を見られていたかと思うと、輝十は恥ずかしさのあまり紅潮し、口をぱくぱくさせるだけで反論出来なかった。

「そもそも本来のポッキーゲームというのは、男同士で一つのポッキーを食べて『ポッキー食べたら俺のポッキーがポッキーしてポッキーになっちゃった』っていう流れになるものなんですよ、全く。そしてそこから……」

「あーあーあー! わかった! もうわかったからッ!」

 埜亞の耳を塞いで絶叫する輝十。呆れた様子でとんでもないことを語り出す粉米は平常運転である。

 もう魔女化してしまいそう……俺、男だけど。

 輝十が絶望していると、

「輝十ぉ、なに食べてるのー?」

 背後から抱きつくようにして現れた一茶が輝十の持っていたうまい棒を横取りして食べてしまう。

「あんたはなんでいっつもだーりんにくっついてんのよ!? ホモはあっちいきなさいよね!」

 一茶を追うようにしてやってきた聖花が一茶を輝十から引き剥がしながら怒った口調で言い放つ。

「えー? 僕、別にホモじゃないもん。輝十個人が好きなだけだし!」

「みんな最初はそう言うんですよ……ふひひ」

「おまえは会話に入るなよ! 紛らわしくなるだろ!」

 輝十はライフがマイナスになろうとも粉米に突っ込まずにはいられなかった。

「あ、相変わらずだな……」

 その様子を見て呆れ気味の菓汐は杏那の横に腰掛けながら、その騒がしい光景を遠目に眺めていた。

「微灯さんも輝十争奪戦に混じってきたらー?」

「んなっ! わ、私は別に……!」

 わかりやすい反応を横目に杏那は口元を緩めた。

「こうやってられるのも今だけな気がするんだよねえ」

 しみじみとそれを口にする杏那に、菓汐は緩んだ顔を整えて応える。

「ああ、私もだ。今回の合宿では嫌な予感しかしない」

 輝十を中心に騒がしい友人らを眺めながら、二人は話を続ける。

「だから今は楽しんでおこうよ。ねっ? どうせ何か起きる時は起きるんだからさ。起きないに越したことはないんだけど」

 杏那は菓汐にお菓子を差し出しながら言う。

「そうだな、とりあえず糖分の摂取だけは怠らないようにしておかないとな」

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