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俺の不幸は蜜の味  作者: NATSU
第9話 『夏の合同合宿 前編』
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(3)

「おまえ、ちゃんと聞いてたか? 好きなものが人間の男の子と男の子だぞ?」

 輝十は今にもキスしてしまいそうなぐらい顔を近づけ、震えた声で問い返す。輝十自ら顔を近づけて問い返すほど“やばい”のである。

「いやだってスクブスじゃん? アレ。人間の男の子が好きなのは別におかしくないでしょー」

「そこじゃねえよ!」

 輝十が机を叩き、慌てて否定する。

「座覇輝十。静かに」

 鋭い視線を送りながら校長がすぐに輝十を注意した。

「いいですか? 続けますからね。白の学年代表は夏地埜亞さんと粉米子豆さん。そして次に学年代表補佐ですが、その名の通り学年代表の手助けをしてもらう立ち位置です」

「言わば副学級委員のようなものになる。もちろん学年代表補佐も人間と悪魔から一人ずつ輩出する」

 理事長の言葉に校長が補足する。

「黒の学年代表補佐を胡桃一茶くん、瞑紅聖花さん。白の学年代表補佐を先程言った通り、千月慶喜くん。そして人間からは丸穴禅まるあなぜんくんにお願いすることにしました。最初の三人は察しが付くかもしれませんが、丸穴禅くんにおいては悪魔学の成績が夏地さんに続いて秀でて優秀なので選ばせてもらいました」

 理事長は資料のようなもの紙をパラパラ捲りながら話を進めていく。

「そして最後に書記を夜道行男よみちいくおくんにお願いしました」

 と、理事長が紹介した瞬間、

「ああっ! おまえ!」

 輝十は夜道を指しながら声をあげる。

「はは、どうも。お久しぶりっす」

「なぁ、あいつじゃん! ほら、あいつ!」

 輝十は同意を求めるように杏那の制服を駄々をこねる子供のように何度も引っ張る。

「ねえ、もしかして実ははっきりと思い出せてないってオチ?」

 図星をつかれた輝十はしまったという顔をし、その先の答えを杏那に求めた。

「入学式の時、カップルでいて初っぱな悪魔と揉めてた生徒でしょー」

「そうそう、それ!」

 溜息混じりで杏那が言うと輝十は拳で手の平を叩いて、すっきりした顔をする。

 そのやりとりをあえて寛容に見届けていたようで、それが終わったところで理事長が話を再開した。

「彼は決して栗子学園専攻の成績が良いわけではありませんが、一般教科において学年トップなので選びました。総合的に彼らの手助けをしてあげて下さいね」

 一通り自己紹介を終えたところで、校長が冊子を生徒達に配っていく。

「ではでは、顔合わせはここまでにして本題に入りますよ」

 理事長はにこやかにその冊子を掲げ、手にとるように促す。

「東西合同合宿のしおり……?」

「が、合宿って……あ、あの合宿でしょうか?」

 輝十が表紙を読み上げて首を傾げ、更に埜亞が悩ましい顔で輝十に質問する。

「あれっ? もしかして知らなかったのん? 夏に合同合宿するのは毎年恒例だよー!」

 各に驚いた反応を見せる下級生を見て、林檎が弾んだ声で突っ込んだ。

「ちょ、ちょっと待って下さい。東西ってことは西柱の守永学園と合同ってことじゃないですよねっ!?」

 今までこれといって主張せずにめんどくさそうに聞き流していた聖花が声を荒げる。

「察しの通り、西柱の守永学園とですよ」

 にぱぁ、と年相応には全く見えない幼く可愛らしい笑みを浮かべる理事長。

「マ、マジぃ……」

 げっそりした顔をする聖花を見て、

「あ、瞑紅さんってもしかして動物アレルギーとかぁ?」

「俺らにそんなもんあるわけないじゃーん」

 一茶が無邪気に言うと杏那がそれを即否定した。

「てか、気分の問題でしょ! 気分の! 最悪だわ、あんな獣臭い連中!」

 頭を抱える聖花に思いがけない人物が突っ込みを入れる。

「我々だってケフィア臭いんだから似たようなものじゃない。ううん、イカといった方が正確かしら……」

 しかも何故かにやにやしながら言うなり、ぶつぶつと独り言を言い始めたので一同が変なものを見るような目で彼女に視線を送った。

「けふぃあってなんですか? 悪魔の使う薬品名ですか!?」

 案の定、埜亞が食いついて輝十に訊くが、

「発酵した乳飲料だろ……本来の意味はな……」

 輝十はそれどころではなかった。自分の勘が間違っていないことを確信していく。きっと間違いない、粉米子豆は敵だ。世の健全な男性陣の敵だ。

「なるほど。西柱の守永学園といえば、確か獣人系でしたね」

 周囲の反応を見つつ、慶喜が口を開く。

「そうです。人狼ウェアウルフ人魚マーメード、猫又、狐妖……色々な獣人系の悪魔と人間が通っています。学科はほぼ同じですが、獣人系なので悪魔使役士になる生徒が一番多い学園ですね」

「様々な獣人が一堂に会しているのもあって、小さないざこさが多いことでも有名だ。決して巻き込まれないように」

 校長が冊子を開くように言いながら理事長の言葉に付け足す。

「よくわかんねえけどよ、つまり他校との合同合宿ってことか?」

「ま、そうだねえ。輝十の頭に合わせてわかりやすく言うと他校と合同で林間学校ってとこかな」

「なにそれちょう楽しそう!」

 さっきまで真っ青な顔をしていた輝十は一気に血色のいい顔になり、ご機嫌で冊子を捲り出す。

 男女入り乱れての林間学校……年頃の男女が短期間とはいえ共同生活……芽生える愛情、育ちゆく性欲……そこに待ち受けているのは間違いなく理想郷!

「今渡した合宿のしおりは一般生徒よりも詳しく色々なことが記載されているので、必ず目を通しておいて下さいね。いいですか?」

 理事長は輝十に念を押すように言い放つ。

「懐かしいよね、舞ちゃん! 第一学年の時の合同合宿なんてさ、もう悲惨で悲惨でー」

「若さだろ、若さ」

「若さって……まだ一応高校生という身分なんだけどね」

 そわそわしている下級生を見ながら林檎が懐かしそうに喋り、志士田がどうでもよさそうに返事し、七井が突っ込んだ。その隣で空はくすくす笑っている。自分達も最初に通った道ゆえに、輝十達が初々しく見えるのだろう。

「今回、学科はもちろん実技、実践も交えることになる。栗子学園の恥を晒さぬよう、精進するように」

「無理しない程度に楽しく、ねっ?」

 校長が厳しい口調でこの場を締めると、理事長がそれを緩和するかのように優しくおっとりした口調で言う。

「また詳しい事は随時連絡するので、よろしくお願いしますねっ。では、今日はここまで」

 ぱたんぱたん、と理事長が手を叩いて席を立つ。

 それを合図に生徒会役員の面子が立ち初め、輝十達もそれぞれ立ち上がる。

「そういえば! あ、あの……!」

 再び壁に現れた扉に消えようとしていた理事長を輝十は慌てて呼び止めて、駆け寄っていく。

「理事長って、その、もしかして……」

「もしかして、です。あなたのご想像通りですよ、座覇輝十くん」

 まるで聖母のような柔らかい笑みを浮かべ、輝十の頭を撫でる。

「大きくなったわね」

「理事長」

 余韻に浸りそうになった理事長に校長が声をかけ、このやりとりを他の生徒に悟られないようにすることも含めて急ぐように促した。

「大変だと思うけど、学年代表として頑張って下さいね」

 あえて他人行儀な言い方をし、理事長と校長は生徒会議室を後にした。

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