(2)
「はいっ! 揃ってます!」
元気よく理事長の問いに答えたのは生徒会長らしき女子生徒である。
「うんうん、みんないいこいいこ。では席に着いて下さいね」
理事長は周囲を見回しながらそう言うと輝十に視線を送るなり、にっこり笑って見せた。
全員が中心を向き、互いの顔が見えるように四角に並べられた席にそれぞれ着席していく。生徒会役員だけはいつもの普段使っている席に座っているようで、他の生徒は適当に空いている席に座っていった。
「急に集まってもらってごめんなさい。皆さんもご存じの通り、色々立て込んでいて就任式が出来なかったので早急に顔あわせだけでもしておかないと、と思ってね」
穏やかに、そしてにこやかに話していく理事長。決して焦っているようには思えず、緊急を要するようにも思えなかった。しかし理事長の背後に真摯な顔つきで立っている校長に目をやると事態を軽視することは出来ない。
「……就任式?」
輝十が呟くと、
「これのことだよ、こーれ」
隣から杏那が手を伸ばし、輝十の制服と指す。
「そっ! きみ達、栗子学園一学年の学年代表の就任式ってわけだよ」
ざわざわしている輝十達に向けて、理事長の隣の席に座っている女子生徒が話に割って入る。
「補足するとこの学園は一学年と二学年の学年委員会と生徒委員会、そして主に執行部隊で成り立っています。ガーナとガルボから人間代表と悪魔代表を輩出し、その学年の代表を務めてもらうわけです」
無機質に淡々と喋っていくボブヘアーの女子生徒の話を聞き終えたところで、
「はいはーい! 質問! ガーナとガルボってなんですか?」
輝十が手を挙げ、当てられる前に勝手に質問した。
ボブヘアーの女子生徒は意外にも一瞬むっとした様子で眉間にしわを寄せ、すぐに顔を取り繕った。
「白い制服がガーナ、黒い制服がガルボです。入学段階で知っているはずのことだと思いますが」
なんでそんなことも知らないの? というニュアンスが確実に込められている。しかし輝十はそんなことは露知らず、
「そうなの?」
「は、はい……で、でもっ! 座覇くんはなにもわからず入学したんですし! べ、別に知らなくてもおかしくないですっ」
杏那と反対側の隣に座っている埜亞は、輝十の問いかけに身振り手振りで答えた。
「いいえ、知っているはずです」
有無言わせない言い方をするボブヘアーの女子生徒。
「まぁまぁ、別にどっちでもいーじゃん! みんな白とか黒とか言ってるんだしさっ。それより顔合わせなんだし、自己紹介とかしましょ!」
双方に不快感を与えないように明るく仲裁し、その人柄ゆえにかボブヘアーの女子生徒もそれ以上は何も言わなかった。
「そうですね、自己紹介しましょ」
手を叩いて自分に注目させ、理事長が更に話を進めていく。
「じゃーまず私からっ! 第三学年、生徒会長の品丘林檎です。よろしくね! なにか困ったことがあったらなんでも言っちゃってよ。うちの手腕の副会長様が片付けてくれちゃうからさっ」
言って、林檎は隣のライオン男子の肩に馴れ馴れしく腕を回す。やはり周囲の反応とその高いコミュニケーション能力的にも彼女が生徒会長で間違いなかったな、と輝十は内心思う。健康的な体つきで元気に象徴しているバストも形がよく、上向きで大変素晴らしい。学園の代表と言っても過言ではない。鍛えられていながらも柔らかさを忘れていない、そんな綺麗な胸をしている。
「副生徒会長の志士田舞だ」
志士田は唸るようにそれだけ口にする。
「え? 舞ちゃん、自己紹介そんだけ?」
「それだけ言えば充分だろーがよ」
林檎の突っ込みをめんどくさそうにはね除け、机の上で足を組むなりそっぽ向く。
どう見てもヤンキーなんですけど……生徒会にいて大丈夫なんですかね? つーか、舞ちゃんってなんだよ舞ちゃんって!
輝十は血の気がひいていくのを感じながらも次の自己紹介に耳を傾ける。
「麦島クミ《むぎしまくみ》、女。書記と会計を受け持っています。よろしく」
ボブヘアーの女子生徒が無愛想に口を開く。
そこに性別の説明必要だった? むしろ一茶の方が必要じゃね? むしろ一茶は首から性別記載の名札つけた方がよくね? と思った輝十だったが、話し方や表情的にも少し変わった子なのだろうと勝手に思うことにした。その主張の少ない表情とまるで合わせているかのように、胸も膨らみが皆無に近い。脱げ、とりあえず脱ぐんだ、話はそこからだ! と心の中で輝十は叫んだ。
「執行部隊長の空智乃です。執行部隊も学年代表と同じで人間と悪魔の両方に代表がいてね、私は人間の代表になります。よろしくね」
髪を二つに束ね、にこにこと愛想良く丁寧に話していく。その分け隔てのない笑顔に心を奪われる男子生徒は多いだろうな……なんて、どうでもいいことを輝十は考えていた。手の平サイズですっぽり収まるぐらい、つまり美乳である。
「同じく執行部隊長、七井大無。悪魔の代表っていえばいいのかな。よろしく」
見た目も喋った感じも爽やかなお兄さんで、同じ高校生とは思えない落ち着いた雰囲気をしている。執行部隊なんていう、いかにも戦っていそうな組織のトップとは思えない雰囲気だった。どう見ても舞ちゃんの方が向いていそうである。
「うちのは一通り終わったかなー? ま、すぐすぐ名前と顔は一致しないと思うし、なんとなーく覚えてちゃってねっ」
生徒会面子を見回しながら林檎が言うと、自然と次は輝十達の番という雰囲気になる。
「……え、俺!?」
隣から杏那に肘でぐりぐりされて促されるが、
「なぁ、代表ってなんのことだ? なった覚えないんだけど」
肝心の輝十は全く事態が理解出来ておらず、杏那は溜息をつくなり自ら口を開いた。
「じゃあ俺から。不本意ながらフィールド・リバーシにて残り、黒の悪魔代表になりました妬類杏那です。よろしくお願いします」
「ああっ! あれか!」
杏那があえてわかるように言った自己紹介で、自分の置かれている状況を理解する輝十。
「つーことは、あれだな。黒の人間代表? の座覇輝十です。よ、よろしくお願いします」
立って自己紹介した後、きちんとお辞儀をした輝十だったが顔をあげた時に突き刺さる視線を感じ、その先に目をやったらクミが冷たい視線を送っていた。すっかり嫌われてしまったらしい。
「では他の人の自己紹介は私が代わりに行ってもいいかしら? きっと自覚がないと思うし、いまいちわかっていないでしょうから」
輝十が自己紹介を終えたのを確認し、理事長が口を挟む。
「黒の学年代表は今ご本人達が言って下さった通り、お二人になります。フィールド・リバーシにおいて残ったのはもちろん、色々な功績、そして一学年最初のペアでもあるからです」
「つまり契約したんですか!? 繋がったんですか!?」
今まで存在感ゼロだった長い髪をサイドに結んだ女子生徒が興奮気味で問いかける。
「ええ、そうです」
その理事長の返事を聞くなり、その女子生徒は満足そうに俯いてしまう。
「誰?」「さぁ?」なんていうやりとりをしながらも輝十と杏那は理事長の次の言葉を待った。
「次に白の学年代表ですが、同じくフィールド・リバーシにおいて残り、今回の功績や知識、そして行動力を評価し、人間代表は夏地埜亞さんにお願いすることにしました」
「ひええっ!?」
驚きすぎて椅子ごと後ろに倒れそうになったのを輝十が即座に抑え込んだ。
「な、んな、なっ、なんで……わ、私なんかが……」
「“私なんか”なんて卑下することありません。あなたに必要なのは色んな人と接することによる“慣れ”だと思うの。上に立つタイプではないと思うけれど、だからこそ代表としてやってみて欲しいと思ったのよ」
理事長の言葉に二の句が継げずにいると、
「埜亞ちゃんなら大丈夫だって。むしろ俺より大丈夫だって。なっ?」
あわあわしている埜亞に輝十が声をかける。落ち着かせるために言ったのではなく、本当にそう思ったから言ったのだ。
「座覇くん……」
その二人のやりとりを微笑ましく眺めながら、理事長は続ける。
「そして白の悪魔の代表者ですが、フィールド・リバーシにおいて生き残ったのは千月慶喜くんですが、今回の件もあるので彼には代表補佐になってもらいます。代表は人間学の成績優秀者である、粉米子豆さんにお願いすることにしました」
名前を呼ばれるなり、さっきのサイドに髪を結んだ女子生徒は突然立って直立し、
「お初にお目にかかります、粉米子豆です。好きなものは人間の男の子と男の子です。何卒よろしくお願いします」
キリッとした顔で勝手に挨拶するなり、満足そうに座って俯いてしまった。
「……こいつぁ、やばい」
「やばいってなにがー?」
青ざめた顔をした輝十がぼそっと呟き、それに対して杏那が問いかけるが答えは返ってこなかった。