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俺の不幸は蜜の味  作者: NATSU
第8話 『出会いと別れの行く末』
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(7)

 昼休みになり、埜亞は慶喜に誘われるがまま指定された空き教室へ向かっていた。

 昼食の時間なだけあって、校舎の奥にある暗がりの空き教室に近寄る生徒はいない。これから魔法陣を使って練習するのだ。何かあった時のことを考えたら人がいないに越したことはない。

 しかしそう思っていたのは埜亞だけだったようで。

「人気のない空き教室で年頃の男女が二人……」

「バ、バカ! なに言ってんだよてめえ!」

 杏那が呟くように言った台詞を聞き逃すことなく、わかりやすい反応を示す輝十。

「しかも男の方はインクブス。人間の年頃の男の子の何倍性欲強いと思う?」

「しらねえよ! しりたくもねえよ!」

 あえて真顔で問う杏那。輝十のピュアな反応を楽しみたいが為である。

 焦りを隠しきれないこの童貞である半身。人気のない空き教室に誘われるがまま向かっている埜亞のことが心配で仕様がないことぐらい十二分に理解していた。

「一応言っておくけど、インクブスは人間のモテる男の子の何倍も上手いんだからね……」

「なにがだよ! しらねえよ!」

 何が上手いかなんてわかっていたが、聞きたくもない輝十であった。

「あのなぁ、ちょっとは黙れねえのかよ。見つかるだろうが」

「はいはーい」

 わざとらしく敬礼し、全く反省してない様子で返事をする杏那。

 壁に身を隠しつつ埜亞の尾行をしていた二人は、埜亞が空き教室に入っていくのを確認し、ゆっくりと近づいていった。

「す、すみませんっ。遅くなって、しまって……」

「いえいえ、全然」

 慶喜は胸の前で大仰に手を振りながら埜亞に笑顔を向け、その謝罪を否定する。

「いきなりその魔法陣を使うのはリスクが高いので、まずこっちで練習してみましょう」

 言って、慶喜は一枚の紙を埜亞に差し出す。

「聖花さんのくれた魔法陣と効果は似ていますが、少しアレンジしてます。練習には丁度いいと思いまして」

「わわわっ! わざわざすみません!」

 埜亞は頭を下げながら嬉しそうにその紙を受け取った。


「あれ? あの魔法陣って……」

 入口のドアを覗き見程度に開けて盗み見ていた輝十と杏那。その隙間からかすかに見えた魔法陣に杏那が反応を示す。

 しかし、いやまさか、でもなぁ……なんてぶつぶつ言いながら首を傾げる杏那。

 埜亞に急接近している慶喜に対し、輝十はそれどころではなく歯を食いしばってその光景を凝視していた。


「では、やり方ですが」

 慶喜は魔法陣の描かれた紙を持っている埜亞の右手を掴み、

「え、えっ!?」

 同様する埜亞に構うことなく、その手を自分の胸に当てさせる。

「まず、こうやって対象の相手の胸に魔法陣が描かれた紙を突きつけます」

「は、はいっ!」

 照れくさそうにしていた埜亞だったが、それがちゃんとしたやり方だと分かってすぐに顔つきが変わった。

「そして目を閉じ、頭の中で鍵を開けるイメージをして下さい」

「……鍵を開けるイメージ」

 瞬間、魔法陣から無数の光が飛び出し、埜亞の心の中に入り込んでいく。突風で埜亞の髪が逆立ち、しかし吹き飛ばされることはない。言われた通りイメージを脳内で描くことだけに集中している様子だ。

 一方、部外者である輝十は突風に吹き飛ばされそうになり、杏那が掴んで食い止める。ガタガタガタガタ、と割れはしないものの窓ガラスが震えて一斉に不快な音を奏でる。

 次第に風は止み、何事もなかったかのように静まり返った。

 逆立った髪が元に戻り、埜亞はきょとんとしたままその場に跪いてしまう。

「!」

 その異変を目の当たりにした輝十は慌てて駆け寄った。

「ちょ、輝十!」

 感情的になり、我慢出来ずに飛び出してしまった輝十を追う杏那。

 慶喜は跪いた埜亞の前に屈み、視線をあわせて優しく微笑みかける。

「嘘偽りないですよ。おわかり頂けましたか?」

 そして埜亞に手を差し出した。

「てんめえええええ! 埜亞ちゃんになにを!」

「座覇くん……いたのは気付いてましたけど、なぜ今ここで出てくるんです?」

 一瞬、慶喜が不愉快そうな顔をしたのを輝十は見逃さなかった。

「なぜって! そりゃ! おまえ! 埜亞ちゃんを人気のないところに連れ込んで変なことしないかどうか気になって……」

「気になって? なぜ気になるんです? もし合意の元でそうなった場合、座覇くんには関係ないじゃないですか」

「そ、それはっ!」

 合意の元だとしたら確かに自分には何も言えない。そう考えたら輝十は言葉が続かなかった。現に埜亞は自分の意志で慶喜の誘いを受け、この場所にきている。相手はインクブスだ。やはり意味がわかっていて誘いにのったのだろうか? いや、まさか埜亞ちゃんに限ってそんな……。

 言葉に詰まっている輝十の前に立ち、まあまあ、と慶喜を杏那が宥めに入る。

「しっかし、千月は卑怯だよねーほんと。あれでしょ、女の子の弱みにつけ込んで優しくしておとすタイプでしょー?」

「ご想像にお任せします。ただ俺は生半可な気持ちじゃないですけどね、今回は」

 言って、埜亞に視線を送る。

「埜亞ちゃん……大丈夫か?」

 放心状態の埜亞に輝十が声をかけるが、

「き、きゃあっ! な、なんでもないですっ!」

「な、なにがだよ?」

 慌てて顔を真っ赤にして顔を覆い、何かを否定する。

「そーれ、心の中を読む魔法陣なんだよ。瞑紅聖花のよりも簡素で今思っていることを読む程度のものなんだけどね」

 その様子を見て困惑している輝十に杏那が補足するように口にした。

「それでなんで埜亞ちゃんがあんな状態になるんだよ」

「彼のことだから、どれだけ黒子ちゃんが好きかどうかをあえて読ませたってオチでしょ。純粋な黒子ちゃんからすれば、びっくりするに決まってるよね」

 それを聞いた輝十は拳を握り締めて戦慄く。

「お、おま、おま……俺ですら空気読んで我慢したというのに……」

「我慢? なんの話ですか? こういうのは先手打った方が勝ちですからね」

「てめえ……!」

 余裕の笑みを崩さない慶喜に対し、怒りを抑え込むのに必死な輝十。二人で冷ややかな炎を飛ばし合う。

 それを見て杏那は深く溜息をついた。そして放心状態の埜亞に近づくなり、瞳を手の平で覆い隠す。すると手から炎が出て、一瞬にして消えた。もちろん埜亞の顔は燃えておらず、熱さも感じていない。

「千月くんの部分だけ記憶を消しておいたから、瞑紅聖花の件が終わってからにしなよね。二人とも」

 杏那の言葉にがっかりした様子で反応を示す慶喜に、輝十はざまぁという顔をして見せる。

「ざまぁみろ、とでも言いたそうな表情ですね」

「言いたそうじゃなくて言いてえんだよ。ざまぁ!」

 相容れぬライバル同士と悟った二人は額をくっつけて睨み合った。

「座覇くんには感謝もしていますし、個人的には嫌いではありませんが、女関係は別問題ですからね」

「望むところだっつーの。ここには負けられない戦いがある! イケメンは今すぐ死ね! 末代まで死ね!」

 埜亞は目の前で額をくっつけている二人を見て首を傾げる。

「ふ、ふたりは……な、なにしてるんでしょうか?」

「コミュニケーションの一つ、かな? 友達になった証みたいな?」

 杏那はいつものごとく適当に答えた。

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