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俺の不幸は蜜の味  作者: NATSU
第7話 『フィールド・リバーシ 後編』
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(21)

 見上げれば、空にあるはずのない亀裂が入っていた。結界のようなものがこの場を覆い隠しており、それが崩壊し始めている証拠だろう。

 異変に気付いた歩藍は舌打ちするなり、杏那の全身を蛇で縛って拘束し、連れ去ろうとする。

 瞬間、崩壊した魔法陣が閃光を放ち、

「させないッ!」

 中から光を纏った人物が徐々に姿を現す。

「んなっ、菓汐!? どうしてここに!」

 魔法陣が崩壊したかと思えば、まるでその地面をすり抜けてきたかのように中から菓汐が姿を現したのだ。それを目の当たりにした輝十と埜亞はただただ混乱する。

「ある人にお力添え頂いたんだ」

 そう語りながらも菓汐は歩む足取りを止めない。前だけを見据え、輝十と埜亞を横切っていく。

「もうやめるんだ、歩藍」

 そして再び歩藍と向き合う。

「気安く名前を呼ぶな」

 見た目からは想像も出来ないような、低く呻るような声で呟く歩藍。

「なんで……なんでなんだ! 昔は一緒によく遊んだじゃないか!」

「うるさいッ!」

 手振り身振りで訴えかける菓汐の言葉をぴしゃりと切る。

「どうしてだろうな。いつからかこんなことなってしまった……もしそれを望むなら私がおまえを止める」

「ふん。でかい口を叩くようになったな、菓汐」

 その二人のやりとりを目の当たりにして、輝十は違和感を覚えた。

「昔は一緒に遊んだ……?」

「ああ。歩藍とは従姉妹同士なんだ」

 言った瞬間、無防備な菓汐の頬をナイフのような鋭い風が横切り、頬に血の線を浮かび上がらせる

「お喋りがッ! 薄かれどおまえと同じ血が流れていると思うと反吐が出るわ」

「微灯さんっ!?」

 叫ぶ埜亞を制し、菓汐は頬を拭う。

 その光景を呆然と眺めながら「そういうことじゃない」と輝十の違和感が消えず、むしろ大きくなっていた。菓汐と歩藍が従姉妹同士である事実……求めているのはその答えではない。

「あれ、俺はなにか大事なことを……」

 額を抑え、記憶の扉をノックする。しかし開く気配は全くなかった。わかったのはその“扉”の存在だけ。

「ざ、座覇くん? 大丈夫ですかっ!?」

 輝十の異変に気付いた埜亞は訝しむ。

 なにか、なにか大事なことを俺は忘れている気が……。

「妬類杏那を離せといっても、どうせ離さないんだろう」

「ええ、聞くだけ無駄ね」

 菓汐は手を大きく広げ、両手からムチを出し、歩藍に向かって走り出す。歩藍は逃げも隠れもせず迎え撃つ。ムチに叩き付けられる前に飛んで避け、体をくねらせてすべて避けきる。やはりリードしているのは歩藍の方だが、屋上の時よりも確実に菓汐は攻め込んでいた。

「輝十! 今のうちに!」

 座り込んで腹部を抑えたまま苦しそうな顔をして、一茶が声を振り絞って叫ぶ。叫んだと同時に激痛が走り、可愛らしい顔が更に歪んだ。

 言われてはっとなった輝十は埜亞と共に杏那の元へ駆け寄る。

「おい、大丈夫か!?」

 杏那の体を縛り付けるように絡みついた蛇を無心になって引き千切る。

「あはは、大丈夫のように見えるぅ?」

 浮かべた笑みには力が入っていない。

 輝十は慌てて自分のポケットを探ってみるが、

「わり……何も食いもん持ってねえ……」

 飴玉一つ入ってはなかった。

「全く役に立たないんだか……」「おい!」

 離している途中で意識が途絶えてしまう杏那。

「妬類くん!?」

 輝十の傍らで様子を見ていた埜亞が声を荒げる。

「大丈夫、気を失ってるだけだろ……でもよ、この状況でおまえが気を失ってどうすんだよ」

 胸倉を掴み、頬をぺちぺちと何度も叩くが反応が返ってくることはなかった。

「おい! おい、しっかりしろ!」

 その呼びかけに杏那が答えることはない。呼吸をしていることを確認し、ほっと胸を撫で下ろすも思った以上に事態は深刻だ。

 自分達がこうしている間にも歩藍と菓汐が戦っており、一見対等に見えるが菓汐は相当苦戦しているように思える。

 全身叩き付けられた一茶は肋骨が折れたのか苦しそうに座り込んでいるし、聖花も地面に突っ伏したままだ。

 魔法陣が崩壊し、結界が破れ始めている今、教員がやってくるのが唯一の頼みの綱だが、果たしてそれまで保つのだろうか?

 輝十がそんな思案を巡らせている時だった。

「え、なに?」

「ひえっ!?」

「今、肩に手をおいただろ?」

 肩をとんとんとされ、隣にいる埜亞に問いかけるも全力でそれを否定されてしまう。

「いやだって、今肩とんとんって……」

「い、いえっ! わ、私、触ってない、ですっ!」

 埜亞が両手をあげて否定している時、今度は肩に手が乗っかっている感触がして斜め後ろを見上げる。

「誰だッ!」

 新たなる第三者の介入か……? 敵か見方か! と不安を抱き、振り返ると見たことのない青年が立っていた。

「……誰だ、てめえ」

 そんな輝十の威嚇をなんとも思っていないようで、無言でにっこり笑顔を向ける。

 その隙に意識を失っている杏那への接近を許してしまい、青年はそのまま人差し指を杏那の額に押し込んで、まるで鍵でもあけるかのように捻った。

「う、うわああああああああああッ!」

「ざ、座覇くん!? どうしたんですか!?」

 埜亞はその異様な光景を目の当たりにして声一つあげないどころか、もしかして……。

「おまえ見えてな……」

 と、言いかけたところで青年は口元に人差し指を添え、輝十に黙るように促した。得体の知れないものに恐怖を抱いている輝十には黙るしか選択肢がない。

 青年の姿も、青年の行いも見えていないらしい埜亞は輝十を見て、ただただ訝しむばかり。

「!?」

 そして青年は次に輝十の額にも人差し指を差し込んで捻った。

 瞬間、ぎゅっと目を瞑る輝十。不思議と痛くも痒くもない。次第に恐怖が薄れ、瞳を開ける余裕が出来た。

 ゆっくりと目を開け、目の前の青年を直視する。

 杏那よりも深い真っ赤で真っ直ぐな髪に、茜色の瞳――悪戯っ子のように刻む笑顔、笑った時に細くなる目。それはいつも見ている誰かのようだと輝十は直感的に思った。

「……その瞳、若い頃の解十にそっくりだ。顔はくーちゃん似かな」

「え?」

 瞬間、目の中でぱちんと何かが弾けたような衝撃がする。



 そのまま真っ白な世界へ辿り着き、もやもやした霧が次第に晴れていく。

「ここは……中庭?」

 そこは見覚えのある場所で、学園内の中庭だった。

「……って、なんで俺こんなところにいんだよ!?」

 冷静になって、おかしな展開になっていることに気付く。

 突如現れた見知らぬ青年に額を指で貫かれ、それから気を失って……自分はどうしたんだろう。そこからの記憶が一切ない。

 輝十は周囲を見渡しながら歩く。

 やはりそこは何の変哲もない中庭だ。あの女と菓汐はどうなったんだ? 杏那は? 一茶達は? 置いてきてしまった埜亞は!?

 そんな疑問すべてが解けない、この平和な中庭。心地の良い日差しが地上を照らす、静かな一時。

 おかしい。すべてがおかしい。

 そんなこと考えずともわかることだった。しかしだからといってどうすればいいかわからない。

 輝十は腕組みし、唸りながら歩き続けると、

「うわっ! あ、あれ……?」

 余所見していたせいか木にぶつかってしまった。と、思いきや、すり抜けてしまったのだ。

 手の平を握ったり開いたりして、肉体の有無を確かめる。

「もしかしてここは現実じゃない?」

 栗子学園だが栗子学園じゃない。どういうことなんだ。

「なぁ、どうよ!?」

 その時、話し声が聞こえて輝十は慌てて木に隠れる。が、すり抜けてしまって背中から倒れ込んでしまった。

「いてて……」

 倒れ込んで、世界が逆様に見えた時。二人の男子生徒の姿が目に入った。

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