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俺の不幸は蜜の味  作者: NATSU
第4話 『機密と秘密と内密と』
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(8)

「そういえばあいつは?」

 輝十は傷が疼くのを堪え、顔をしかめながら立ち上がって周囲を見回す。

「と、妬類くんなら……さっきまで隣にいて助けてくれたんですが……」

 言って、埜亞も周囲を見回した。

 気配で気づいていたらしい菓汐が、

「……あそこだ」

 ぼそり、と呟いて二人に教える。

「なにやってんだ、あいつ。いいとこどりかよ」

 座覇家の入口で、件の男子生徒二人と向き合っていた。

「妬類くん達は、な、何を話してるんでしょう……?」

 輝十と埜亞からすれば穏便に話し合いでもしているかのように見えたが、それが決して穏やかなものじゃないことに菓汐は気付いていた。


 杏那は爆風が吹き荒れる中を平然と歩み、油断しているであろう男子生徒二人の元へ向かっていた。

 油断していたのは水を操っていた方であり、もう一方の男子生徒の冷静な判断は決して間違ってはいなかったのだ。

「……まずい」

「なにがまずいの?」

 男子生徒は呟き、求めていない返答が爆風の中から聞こえたことに怯える。

 だから引き際を考えろって言ったんだよ、と男子生徒は思っていた。感情的になりやすい相方をもっと自分がコントロールするべきだったと後悔する。

 茜色の瞳と炎を宿したかのような紅い髪――妬類杏那を知らないはずがなかった。

 微灯菓汐が逃げ込んだ先が人間の住み家で、しかもそこに彼がいたなんてなんとも不運だ。

 男子生徒は答えず、恐怖を抑え込んで自我を保ち、正面に向かい立つ杏那に視線をくれる。

 彼がどういう人物であるかは、同じ悪魔である限り知らないはずがない。それは水を操っていた彼もそうだったが、彼は男子生徒よりも考え方が若く浅はかだった。

 ただの下級悪魔である自分達が相手にしていい相手ではない、と本能が悟っている。

 杏那は笑みを消し、鋭い視線を目の前の男子生徒二人に突きつけた。その時点で同じ高校生だというのに箔が違う。

「ね、ここどこかわかってる?」

 有無を言わせない圧倒的オーラを放ちながら、しかし落ち着いた声色で問いかける。

 答えない男子生徒二人を追い込むように、

「学園敷地内以外での能力の発動は、やむを得ない場合を除いて禁止されているはず……だよねぇ?」

 口角をあげて問いかけるが、目が全く笑っていなかった。

「…………あ、ああ」

 このまま無言を続けていても同じことだろう、と判断し、男子生徒は息を飲んで答える。

「そう。だったら……」

 杏那は一歩歩み出て、男子生徒二人との距離と縮める。

 それだけで情けないことに声を漏らしてしまいそうになった。余裕を貫こうとしている彼と違い、男子生徒はあくまで冷静にこの状況を分析しているのだ。

 どう考えてもやばいだろう、と。

 杏那は無表情のまま男子生徒二人を見下すような冷めた目で見つめ、

「この制服を着ている意味、わかってる……よねぇ?」

 男子生徒の胸を人差し指でとんとん、と突く。

「………………」

 男子生徒は答えない。しかしそれは無言の返事でもあった。

 栗子学園の制服を着るということは栗子学園の生徒であると共に“人間社会への介入を承知した”ということでもある。ゆえに人間に使役される覚悟もしかり、人間社会へ溶け込んでいく決意を終えた者ということになる。

 もちろんそれが表面上でしかない輩も多いことは、杏那も他の淫魔も学校側も承知の事実だ。

 男子生徒が杏那から目を逸らす傍らで、水を操っていた彼が拳を強く握り締め、唇を噛みしめる。

「俺は納得してない! なんで人間なんかに……」

 そして目の前の杏那に訴えかけるかのように言い放った。

「バカ、やめろ」

 男子生徒は彼の腕を引っ張り、それ以上余計なことを言わないように促す。

 その間も杏那の表情は全く変化しない。冷め切った凍るような無の表情のまま、男子生徒二人を見据えている。

 そして途端に動き出し、水を操っていた彼の胸倉を掴んで引き寄せた。

「そんなに嫌なら脱げば? この制服」

 杏那の瞳に輝きが灯っているのに気付いた男子生徒は助けるように間に割って入り、

「わかってる、わかってるんだよ、頭では!」

 そして悔しそうに顔を歪ませ、俯き、歯軋りする。

「わかってるんだ……」

 消えゆく声で、そう呟いた。

 時代と共に退化していく悪魔を脅かすのは人間だ。いつしか立場は逆転し始めている。上級悪魔ならまだしも自分達のような下級悪魔が生き残る道は、賢く選ぶ必要があるのだ。

 それでも自分達は悪魔で、醜くも誇りを失いたくはないのだろう。


 不思議そうにその様子を遠くから見つめている輝十は、

「なぁ、被害者である俺やこいつ抜きで話進めるってどうなんだ?」

 おいしいところを持っていかれたのがよほど気にくわないのだろう。口を尖らせてぶつぶつ愚痴る。

「は、話し合いはどうなったんでしょう……」

 埜亞は不安そうに杏那達を眺めている。

 唯一事態が掴めている菓汐はそんな二人を横目に、独り言のように、しかし大きな声で呟いた。

「……学園敷地内以外での能力の発動は、やむを得ない場合を除いて禁止されている」

「そうなのか!?」「そうなんですか!?」

 輝十と埜亞の声が重なり、二人の視線が菓汐に注がれる。

 暑苦しい視線が同時に訪れ、菓汐はめんどくさそうにしながらも話を続ける。

「ああ。学園の敷地であれば結界が張ってある分、ある程度は許されてるがな」

「不覚でした。そんなことも頭に入れていないだなんて……勉強不足です、反省します」

 埜亞は自分の額をぺちぺち叩きながら、悔しそうな顔をする。

「結界って……んなもんどうやって張り巡らせてんだ?」

「おまえ達が昼休みいつもいるだろうが」

 埜亞が目をくわっと開ききって、四つん這いで菓汐に顔を近づける。

「屋上! もしかして……石碑ですかっ!?」

 近づいてくる埜亞の顔から身を離しながら、菓汐は頷く。

「石碑を中心に学園敷地内をすっぽり囲んでる。言わば悪魔の電波塔のようなもの。石碑の近くは能力が最小限に引き下げられるのもあって悪魔は好んで寄りつかない。人間で言う嫌悪感を抱いたり、気分が悪くなったり、気持ちのいいものではないからな」

 淡々と語る菓汐に目をきらきら輝かせて尊敬の眼差しを送る埜亞。

「すごいです! 微灯さん、尊敬です! なんでそんなに詳しいんですかっ!?」

「なんでって……別に」

 菓汐は目を逸らし、口を閉ざしてしまう。

 そんな二人の会話を聞きながら再び杏那に視線を戻した輝十は、嫌な予感を感じていた。

 急に風向きが変わったような……。

 冷たい風が頬を撫で、その微々たる変化に何故か胸騒ぎがしていた。


 杏那は水を操っていた彼の胸倉を離し、目を細める。

「これがあんたらの意志なのか誰かの意志なのか知らないけど、言っておいてよ。俺の周りに手を出……」

 と、言いかけた途端――

 ゴオオオオオ、というまるで台風が突然訪れたかのような暴風音が聞こえ、叩き付けるような風が杏那達、そして離れたところにいる輝十達をも包み込む。

 その時、輝十は思う。嫌な予感は当たったんじゃないか? と。

 風が弱まり目が開けられる程度になった時、ドンッ! という衝撃音が鳴り響き、グワシャアァ……という何かが崩壊していく音が聞こえた。

「……なにしてくれちゃってるわけ?」

 その場にいる誰もが音の元凶に視線をくれる。

 そこには拳を前に突き出したままの聖花の姿があった。

「いやいやいやいや! なにしてくれちゃってるのはこっちの台詞だろ!」

 ただでさえ庭が大変なことになってるっつーのに、なんで壁まで壊すんだよわけわかんねえよちゃんと玄関からこいよ!

 杏那は聖花を見るなり、心底呆れた顔をする。

「私だけクラス違うからってェ……仲間はずれなわけ!? 屋上行ったら既にいないし、輝十くんの家に集まるのだって私だけ呼ばれてないし、輝十くんの危険を感じてきて見ればこんなことになってるしぃ……」

 再び風が吹き荒れ、暴風音と共に物凄い殺気が放たれる。

 杏那とは違う意味で「なんかやばいのきた……」と男子生徒二人は思わずにはいられなかった。  

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