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俺の不幸は蜜の味  作者: NATSU
第2話 『狙われる貞操のワケ』
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(5)

「……ご、ごめ、ごめんなさいっ、です」

「ん? いやもういいっていいって」

 廊下を歩きながら何度も頭を下げる埜亞に、輝十は笑いながら手を振って制す。

「ねーねーどうやったらあんな叫び声が出来るの?」

 輝十と埜亞が並んで歩いている後ろから、顔をひょいと出して杏那が突っ込む。

「ふえっ!? え、えっと、その……」

「辞めろよ。埜亞ちゃんが困ってんだろ」

 杏那はふーんと適当に相槌を打ち、輝十の持っているソレを指差して、

「それ、下着握ったまま言うセリフぅ?」

 しらじらしい目で見た。

「あのな、これはただの下着じゃねえんだよ」

「いやでも下着握って歩くのはどうかと思うんだけど」

「はぁ!? おまえは目の前に大好きな女の子の手があっても握らねえっつーのかよ!」

 本気で言っていると感じた杏那は輝十を白い目で見るなり、

「ね、きみこの変態のどこがいいのー? このノリだと女の子のパンツ被ってこれは股に顔を埋める時の練習なんだよ! とか言い出すよ絶対」

「ひっ!」

 杏那は埜亞の肩を抱き寄せて問いかける。埜亞は体に触れられたことで、そんな質問耳に入っていないかった。

「おまえぇ……」

 輝十は下着をにぎにぎしながら拳を握り締め、体を震わせる。それぐらい杏那のその一言は聞き流すことが出来なかったのだ。

「なにさー? ほんとのこ……」

「もしかして天才かっ!」

 杏那の声に輝十の声が重なる。

「いいな、それ。ちょっと見直したぜ」

 杏那が始めて輝十から友好的に接された瞬間であった。

「でもよ、あくまで俺はパンツよりブラ派だからな。これが一番なわけよ」

 下着を掲げながら言う輝十に冷たい視線を送りながら、杏那は埜亞に話を振る。

「なんか喜んでるみたいだから、きみのパンツあげてみたらん?」

「ひえっ!? や、やっ……です!」



 昼休みになり、弁当を持ってきていない輝十は食堂に行こうか迷っていた。

 その時背後から視線を感じ、振り返ろうと思った時。

「あのぅ……」

 肩を叩かれて、椅子に座ったまま振り返るとすぐ後ろに女子生徒が二人立っていた。

 ショートカットの女子生徒とセミロングの女子生徒。この学園は容姿端麗が異様に多いので目立たないが、近くで見ると二人とも可愛らしい顔立ちをしている。

 名前は思い出せないが、顔に見覚えはある。同じクラスの女子生徒だ。

「ん? なんか用か?」

 女子生徒は二人顔を見合わせて、不自然なまでににっこりと微笑んだ。

「え? なに?」

 突然微笑みかけられて動揺する輝十に、

「一緒に食堂いかない?」

「ね、私達と一緒に食べようよー」

 身を乗り出して積極的に誘い出す女子生徒二人。

「あ、ああ。それは別に構わねえけどよ。なんで俺?」

 これが男子生徒なら接点がなくとも悲しいことに合点がいってしまう。しかし相手は女子生徒。全く接点のない二人に自分が誘われる理由がわからない。

「そんなのいいじゃーん! 一緒に食べたいからに決まってるでしょ? ねー?」

「うんうん! 食べたいから誘ってるだけ。ね、食堂行こうよー」

 このきゃぴきゃぴした感じ、見た目は今風の女の子、この人の質問に答えず自分の言い分しか口にしない、突っ走る感じ……これはもしや!

 輝十は椅子をひいて二人の女子生徒から体を離す。

「言っておくが俺はホモではない。ノンケ中のノンケです。お引き取り下さい」

 ノーサンキューノーサンキューと連呼しながら、両手を前に出して拒否する輝十。

 この手のタイプは腐女子だと相場が決まっている。そもそも俺に話しかけてくる女子ってだけで信用出来ねえ。

 女子生徒達は顔を見合わせ、きょとんとする。

「やだなぁ、知ってるよ。ねー?」

「うんうん! 私達じゃ座覇くんのお食事相手は役不足なのかな?」

 ぐいぐいっと顔を近づけ、一向に引き下がろうとしない女子生徒二人。

「そ、そういうわけじゃ……」

 な、なんでこんな顔ちけえんだよ、と動揺しながら顔をひく輝十。

「それじゃ! 決まりだね!」

「よし! 行こー!」

「ええっ!?」

 女子生徒はそれぞれ輝十の腕を掴み、左右取り押さえて立ち上がらせる。

「わ、わかった! わかったから! だったらよ、埜亞も一緒に……」

 と言って、埜亞の方を振り向こうとしている輝十を女子生徒達は無理矢理引っ張っていく。

「あの子なら座覇くんの前に誘ったんだけど、後で来るって言ってたよ」

「そうそう、先生に頼まれたことがあるからって」

「そうなのか?」

 そう言われて疑う理由はない。輝十は女子生徒達に引っ張られるまま教室を後にする。


「…………なによあれ」

 輝十が女子生徒に囲まれて教室から出てきたところを見かけた聖花は、顔をしかめて唾を吐くように呟く。

 廊下を歩いていた時、それを偶然見かけてしまったのだ。

「はんっ、そういうことね」

 女子生徒達が一方的に話しかけているその光景を見て、悔しそうに、しかし勝ち誇ったように爪を噛んだ。


 教室を出て、完全に見えなくなった輝十の後ろ姿。

「座覇くん……?」

 輝十が自分の方を振り返ろうとしていた事、二人の女子生徒に腕を組まれて教室を出ていった事。それらを目撃していた埜亞は不審を抱く。

 女子生徒二人は今風でしかも秀でて可愛い容姿をしていた。一概には言えないが、この学園において容姿端麗となると人間ではない可能性がある。

 埜亞はフードを引っ張り、今よりも深く被って体をぷるぷるさせた。

 不謹慎だとわかっていても埜亞の心身は正直だった。人外との接触に沸き上がる衝動を必死に抑え込もうとする。

 埜亞はなんとなく見抜いていた。

 人間と淫魔を完全に判別出来るわけではないが、雰囲気や行動でなんとなくわかるのである。

 そう、あの三大式典の日のブロンド髪の女子生徒のように――

「い、急がなきゃっ」

 埜亞は嫌な予感がしていた。どうも輝十はずば抜けて狙われやすい気がするのだ。

 彼はこんな自分に仲良くしようと“初めて”言ってくれた。

 それだけで埜亞はお礼を何度言っても足りないぐらいだった。きっと彼はこの学園をよく知らずに入学している。それだけでいい予感はしない。

 埜亞は慌てて教科書を机の中に仕舞い、輝十の後を追うようにして食堂に向かうことにした。



 女子生徒達に身を任せ、廊下を進む輝十。

 最初から食堂を利用するつもりだったが、いかんせん広すぎる校舎だ。食堂の場所なんて把握しておらず、その時になってどうにかすればいいやと思っていたのである。

 それが間違いだった。

 黒いプレートを見上げると浮き出てきた文字。女子生徒達に誘導されて辿り着いたそこは“臨時食堂”である。

「なぁ、なんで臨時食堂なんだ?」

 輝十は率直な疑問を投げかける。臨時というからには、何か事情がある時や時間外などに使う場所ではないだろうか。

「いいから、いいから」

「早く中に入ろー?」

 この時、輝十は既に何かおかしいと感じていたが、入ってみないことにはわからないので、言われるがままに臨時食堂へ入っていく。

 中はこれだけ広い校舎に対して考えるとこじんまりしているように感じた。

 いくつか配置されたテーブルは長テーブルで、そこは普通の学食となんら変わりはない。しかし裏庭に位置する場所だからか日当たりが悪く、窓の外は生い茂った木で埋め尽くされていて見晴らしが悪かった。

 昼食時だというのに他の生徒は全くおらず、雰囲気や場所からいっても今は使われていない食堂という印象だった。

「誰もいねえじゃん……」

 薄暗くて人気がなく、全く活気がない。同じ校内とは思えないぐらいだ。

「うん、まあ臨時食堂だしね」

「“普通の食事”なら食堂だもん」

 わざと強調された“普通”という言葉に違和感を抱く輝十。

「ピルプの容姿的には地味よね、こうして見ると」

「馬鹿ね、それがチエリのいいところなんじゃないのー? なんていうんだっけ、ほら! ぴゅあ? そう、ピュア!」

 輝十の存在を無視して、楽しそうに会話する女子生徒達。

「なぁ、本当にここで飯食うのか? 食堂のおばちゃんいなくねえか? つーか、埜亞はいつ来るんだよ」

 輝十は臨時食堂内を徘徊し、自販機のようなものを発見して立ち止まる。

「こないよ」

 ショートカットの子が真顔でぴしゃりと言い放つ。

「は?」

「あの子ならこないよ」

 そしてそれを確かなものにするかのように、セミロングの子がもう一度言う。

 輝十は勢いよく女子生徒の方を振り返る。言っている意味が一瞬理解出来ずにいた。

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