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俺の不幸は蜜の味  作者: NATSU
第10話 『夏の合同合宿 中編』
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(20)

 部屋に戻ると他の面子の姿は既になかった。輝十と杏那は急いで私服に着替え、パーティーホールに向かうことにする。

 会場に着くと中は混み合っており、開始直前といった雰囲気だ。なんとか間に合った輝十と杏那は一緒に会場内に入り、周囲を見渡す。

 見かけない姿も多く、獣耳がついている人間もちらほら……。

「なるほど、あれが守永学園の生徒か」

 みんな私服なので区別しにくいが、隠しきれない耳や尻尾が出ている生徒は紛れもなく守永学園の生徒だ。

 輝十は腕を組むなり、ただ一点に視線を送り続ける。

「悪くない、悪くないな……」

 そして呟きながら何やら頷いている。

 一見、耳や尻尾がついていようとコスプレしているようにしか見えないのだ。可愛い女の子がコスプレしている姿が無料で拝める。なんだ、ここは桃源郷か?

「顔、にやついてるけどー?」

 言って、杏那は輝十の頬を引っ張る。

「いたひ! いたひっては! にゃにすんやよ!」

「えー? だらしない顔に気合いれてあげてるだけだけど?」

 そんなやりとりをしているところで、

「だーりん!」

 聞き慣れた呼び声がして、声がする方を向く。

「うんうん、こっちも悪くないな……」

 輝十は胸が強調された服に身を包んでいる聖花を凝視し、

「ど、どう……かなっ!?」

 その傍らにいる、ふんわりした白いワンピースを着ていた埜亞に目をくれた。

 か、可愛いいいいいい! と叫びたい気持ちをぐっと堪える。本当に可愛かった。可愛い以外の感想が思いつかないぐらいに。

 明らかに自分の時と反応が違う輝十を見て、聖花は口を尖らせた。

「に、似合ってる! すんげえ似合ってる!」

「ほ、ほんと……? よかったぁ」

 埜亞は安心した様子でほっと胸を撫で下ろした。

「てーるとっ! ねーねー俺は俺はっ!?」

 そう言いながら一茶が背後から輝十に抱きつく。

「お、おまえなぁ……」

 なんで男子高校生がホットパンツみたいなの履いてんだよ! しかもそこらの女より美脚じゃねえか! くそ!

 輝十は気付いたら男の脚を舐めるように見ていた自分を殺したくなった。

「もぉ、なんで目逸らすのん?」

 そう言って、下から見上げるように輝十の顔を覗き込む一茶。あざとい! なんてあざとい奴!

「それくらいにしときなよね、ホモ」

 困惑している輝十を庇うようにして、杏那は一茶の頭を鷲掴みして退けようとする。

「ちょっとぉ! 俺、ホモじゃないって言ってるじゃん! 輝十個人が好きなだけだしぃー」

「みんな最初はそういうんですよ……」

「そうそう、最初はみんなそう言……って、え?」

 杏那は途中で違う何かと会話していることに気付いて、はっとなる。そしてはっとなった杏那を見て、輝十がはっとした。

「だーかーらー急に会話に入り込むんじゃねえよ!」

 しかも毎回絶妙なタイミング! まるで最初からそこにいたかのように馴染んで立っていたのは粉米である。

「ホモという単語があるところ! 私あり! みたいな感じですかね」

「どや顔で凄いこと言うんじゃねえよ……」

 すべての興奮が一気に冷めてしまう。本当に凄いよおまえは、違う意味で。

 しかもみんないつもよりお洒落しているというのに、粉米においてはジャージだった。学校指定のジャージではないのが唯一のこだわりなのかもしれない。

「おまえ、なんでジャージなの?」

「いかなる時も動けるように、ですが?」

 交流パーティーで起こる“いかなる時”ってなんだよ……と、思った輝十だったが問うても答えが予想つくので辞めておいた。

「あれ、そういえば菓汐は?」

 一人だけ姿が見えないことに気付き、輝十が聖花に問う。

「体調が優れないとかなんとか言ってたわ。会場までは一緒に来たからいるとは思うけど……風にあたりに行ったんじゃないかしら?」

「そうか」

 輝十はさっきの出来事を思いだし、申し訳なさで胸を痛める。

「輝十、グラスとりに行くよー」

 その様子に気付いた杏那が気にかけ、乾杯用のグラスをとりに行くように促した。

「もっと殺伐としてるかと思ってたけど、そうでもないんだな」

 並べられたグラスの前に辿り着き、周囲を見渡しながら輝十がぽつりと呟く。

「なにがさー?」

「いやほらさ、あんまり守永学園の奴らと仲良くなさそうだったしよ」

「表向きは取り繕うでしょ、無駄な争いは避けたいし」

 ――と、杏那が口にしたその瞬間だった。

「久しぶり、杏那」

 グラスを手にとろうとしている杏那の肩を背後から抱く、男子生徒の姿。

 輝十は彼の顔を見た時、女性かと思った。一茶とはまた違う、綺麗で整った中性的な顔立ち。しかしながら色気と気品に満ちあふれている。

 ああ、人はこういう奴のことを王子様って呼ぶんだろうな、と本能的に思った。

 それでいて長身でスタイルがいい。まるで少女漫画から飛び出してきたような、とは彼の為にある言葉だろうと輝十は思った。

 一方で杏那は無言で肩に置かれた手を払いのける。

「そんな顔しないでよ、ひどいなぁ。三大式典の後の顔合わせ以来だっていうのに」

 呆気にとられて見つめていた輝十は彼と目が合う。

「ん? ああ、彼が杏那の? わぁ、小さくて可愛いね」

 彼が輝十の頭を撫でようとし、杏那はその手を掴み取って睨み付ける。

「ちょっと。汚い手で触らないでくれる?」

「汚い? 僕が? 半分、淫魔の分際でそんなこと言っちゃうの?」

 目が笑っていない。笑顔がこわい。そして見えない迫力と圧倒的な圧力。彼は悪魔で、そして悪魔の中でも上位の奴だと輝十は認識した。

 それでも退け劣らず、杏那は彼を睨み付けていた。

「やだなぁ、冗談だよ。そんなに怖い顔しないで。せっかくの綺麗な顔が台無しだよ?」

 そしてまた一国の王子のような綺麗で品のある笑みを浮かべて見せた。

「改めて、初めまして。僕は天月玉希。守永学園の生徒だよ」

 天月は輝十の方へ向き直し、手を差し出した。傍らでキッと睨み付ける杏那だったが、輝十も差し出された手を掴んで握手したのを見て何も言わなかった。

「ど、どうも。俺は座覇輝十。栗子学園の生徒です」

 輝十は彼の名前を聞いて納得した。そういえば杏那が東西南北にそれぞれ王子が配置されていると言っていた。天月は王子という名にふさわしいぐらい王子だ……キラキラしている。人間を惑わす容姿端麗な淫魔の杏那と並んで退き劣らないぐらいだ。

 ただ並ぶと系統が違いすぎた。正統派美少年の天月に対し、杏那はやんちゃな性格が容姿や雰囲気にも全面に出ている。

 そんなことを考えながら天月を見ていたら、

「あ、もしかして僕にみとれた?」

 なんて、笑いながら言うが、そんな姿も嫌味が無く女なら一瞬で落ちてもおかしくはない。

「もう気が済んだでしょ、あっち行ってくれる? ラッパ男」

「ラッパじゃなくてトランペット! エンジェル・トランペット!」

 天月は話題を変えたいようで、ごほん、とわざとらしく咳払いする。

「そんなことより、二人は契約を結んだってのは本当なの?」

「そうだけど。それがなに?」

 杏那がめんどくさそうに答えた。

「へえ、一学年で、ねえ。でも彼は半分淫魔だし、女の姿にもなれちゃうわけだけど……やっぱり契約したからには体の結びつきもあるの?」

 天月は綺麗な顔立ちで輝十目がけてストレートに問う。輝十は一瞬何のことかわからず時差があったが、その質問の意味を理解し、

「いやいやいやいや! ないから! 絶対、ないから!」

 全力でそれを否定した。

「なんで?」

「え?」

「なんで絶対ないの?」

「……え?」

 真顔で問われ、逆に驚く輝十。天月は決して茶化しているのではなく、本当に疑問に思って質問している様子だった。

「だって契約したんでしょ? 契約ってそういうことだよ。身も心も結びつく、神聖なもの。拒否する理由なんてないと思うんだけどなぁ」

「そうなの……か?」

 唖然としている輝十の傍らで杏那は舌打ちし、天月の胸倉を掴む。

「余計なことを言うな」

「ごめんごめん、まさかまだだったとは思わなくってさ」

「おまえぇ……いい加減にしないと……」

「うちにもさ、既に契約結んでる子がいるんだよね!」

 頭に血が上った杏那を宥めるかのように、天月は話題をすり替えた。案の定、杏那と輝十はその話題に食いつく。

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