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俺の不幸は蜜の味  作者: NATSU
第10話 『夏の合同合宿 中編』
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(15)

「ブレスはつけ終えたな。それではこれから仮ペアを組んでもらう。もちろん同じ色の悪魔と人間で組む。異論は認めん」

 ざわつきは一気に高まった。フィールドリバーシの時と同様に不安の波が生徒達から沸き上がった。

 クラスメイトとして過ごすことで表上のわだかまりは減り、慶喜達の起こした事件によっていい意味でも悪い意味でも緊迫状態の糸を切った。

 悪魔と人間で親しくしあっている者同士もいるし、今だに関わろうとしないものもいるが、導き出された結論は一つだった。

 互いにいがみあっても得しない――その利害の一致が上手く距離感を保つことに成功したのである。

 まして今回は守永学園との合同合宿だ。目の前の人間を拒絶している場合ではない。

「友人でも知人でも他のクラスの奴でもなんでもいい。同じ色で悪魔と人間であれば問わん。それが今回の合宿中のペアとなる」

 養護教諭は手振り身振りで、ペアを組むように促す。生徒達は渋々ではあるが、それぞれ動き出し始めた。

「教員側で決めてくれるわけじゃないんだな……」

 なかなか手荒なやり方ではないだろうか? 輝十は苦い顔で周囲を見渡した。

 人間同士でも“好きな者同士ペアを組め”なんて言うと余る奴が出てきたり、目に見えない小さな小競り合いが起きたりするものだ。奇数の女子グループが互いに譲り合っているようで退こうとしない、高度な心理戦を行っているのをよく見かけたものだ。

 もちろん女子に関わらず男子でも一人になる奴が……一人?

 輝十ははっとして、埜亞の姿を探し始める。

「黒子ちゃんのこと、心配?」

 察した杏那が輝十の傍らで問いかける。

「ああ。こういうのって、昔の嫌なこと思い出すんじゃないかって思ってよ」

「今と昔は違う。そう彼女が思わない限り、乗り越えられない問題だからねぇ……」

 一瞬でごったになったその場から埜亞の姿を見つけ出すのは困難を極めた。

「いいか、ペアが見つかったら相手の悪魔にリングをはめろ。恋人だと思って互いを大事にしあうように。ペアのミスはペアのミスだ、心しておけ」

 養護教諭が声を張り上げた。

 ペアがそれだけ深い繋がりを意味するのは、既に契約を結んでいる輝十には重々理解している。なんせ想いや考えまで共有してしまうのだから。

「一応、言っておくけど輝十と俺は既に契約結んでるからね」

「うるさいわね、そんなのわかってるわよ!」

 近づいてきた聖花に釘を打つように物申す杏那。

「でも諦めないわ。なんとなくだけど、だーりんなら複数契約が出来る気がするの」

 聖花は腕を組み、大きな胸を強調させながら言う。根拠はないのに、そのでかい態度からは不思議と説得力を感じた。

「その通りだ」

 背後から声がして、輝十は驚いた様子で振り返る。するとそこには菓汐の腕を引っ張って歩み寄ってくる養護教諭の姿があった。

「せ、先生!?」

 半ば無理矢理菓汐を引っ張ってきたようで、菓汐は浮かない表情をしていた。

「微灯、おまえは座覇と組め」

 そう言って、養護教諭は菓汐を輝十の方へ軽く投げ飛ばす。

「んなっ!? でも俺はこいつと契約してるんじゃ……」

 飛ばされてきた菓汐を抱き留め、杏那を指差す。

「問題ない。おまえの父親も浮気性だったからな」

 養護教諭はまるで汚いものを見るかのように輝十を見下し、踵を返した。

「う、浮気性……!?」

 輝十の腕の中にいた菓汐はその単語に反応を示し、輝十を突き飛ばして汚いものを見るような目をした。

「ちげえ! 俺の話じゃねえだろーが! 俺は浮気なんてしたことねえよ!」

「そうだよ、女の子と付き合ったこともないのに! ねぇー?」

「ねぇー? じゃねえよ! 言うなバカ!」

「女の子と、って言ったじゃーん。男の子と付き合ったかもしれない可能性は消してないよー?」

「そこは消しとけよ!」

 目の前で言い合いを始める二人を見て、菓汐は大きく溜息をついた。


 一方で聖花は埜亞の姿を遠目に探していた。色が違うことを悔やむ。

 他者とのコミュニケーションが苦手なあの子のことだから、一人であたふたしてるんじゃないかしら……そう思うと心配だけが募っていくのだ。

「ねーねー、ねーってば!」

 頭を抱えているといきなり声をかけられ、聖花ははっとして声の主を見た。

「組む相手いないでしょー? 組んであげてもいいよっ!」

「は、はぁ?」

 声をかけてきたのは一茶だった。思わぬ声かけに拍子抜けてしまう。

「だってさぁ、人間同士組めないじゃん? 輝十と組めないんじゃ、誰と組んだって一緒だしぃ……だったら知ってる人の方がいいかなぁーって」

「はぁ? なんで私があんたなんかと組まないといけないのよ。友達のいないあんたと一緒にしないでよねっ!」

「えーでも……」

 一茶は周囲を指して見渡すように聖花を促す。

 周囲は既にペアを作っており、思った以上に順調に組まれている。もちろんそんな中で聖花にお声はかかっておらず、目の前では輝十と杏那、そして菓汐が何やらやりとりをしていた。

「あんたの仲良しの埜亞ちゃん?も色が違うし、他に人間の友達なんているのー? ねーねー?」

 聖花に顔を近づけ、悪戯に微笑む一茶。

「ぐぬぬ……」

 聖花は歯を食いしばり、その現実を噛みしめる。ペアは組まなければいけない。しかし自分とペアを組んでくれるであろう人間に心当たりはない。選択肢は他になかった。

「わかったわよ、もう」

 聖花は渋々、自分の手を差し出した。


 ペア作りが始まって、一番困っていたのは言わずもがな埜亞だった。輝十達の心配通り、こういう流れはもっとも苦手な分野である。

「ど、どど、どうしよう……」

 リングを握り締め、周囲を見回す。

 もちろん自分から声をかけるなんてもってのほか、こういう時にどうすればいいかわからないのだ。

 いや、違う。この場に自分はいていいのだろうか? そんな疑問さえ浮かび上がる。

 いつもそうだ。クラスでペアを作る時、グループを作る時、自分は一人になる……余ってしまう存在。そんな自分なんかが、ここにいていいのだろうか?

 おどおどしながらも、その場を動くことすら出来ず、過去の出来事だけが脳裏に蘇ってくる。 

 リングを握り締めた手が震え出した、その時だった。

「夏地さん、一緒に組みませんか? いえ、ぜひ僕と組んで下さい」

 座覇くん……? 反射的にそう思い、震える自分の手を掴み取った相手を見た。

「千月くん!?」

 慶喜は埜亞に名を呼ばれ、にっこりと優しく微笑んだ。

 手を掴まれ、名前まで呼ばれておいて、埜亞は自分にかけてくれた言葉だと信じ切れず、自分のことか確認するかのように周囲を見た。

「わ、私……?」

「夏地さん以外、誰がいるんですか」

 慶喜はくすりと笑って見せる。

「あ、もちろん無理強いはしませんけど……」

 埜亞は首を横に振って全力で否定し、

「ぜ、ぜひっ! わ、わた、私でよければっ!」

「そんな謙遜しないで。夏地さんと組みたいのは僕なんだし」

 その毒が抜けきった優しい笑みを見て、埜亞はほっとしていた。それと同時に声をかけられた時、全く声質が違うのにどうして座覇くんのことを思ったのだろう、と自問する。同じ色じゃないのに、人間同士だから組むわけがないのに……何を期待したんだろう。

 さっき抱き合ってた女の子、誰だろう……。

 ふとそんなことを考えてしまう自分がいて、埜亞ははっとして頭を掻きむしった。

「夏地さん、どうしたの?」

「う、ううんっ! なんでもない、です!」

 心配そうな表情で自分を見てくる慶喜に気付き、埜亞は表情を隠すようにフードを深々と被った。


 それを遠目に見守っていた全は苦い顔をする。

 慶喜があの人間の女に入れ込んでいるのはわかっている。それも深く、強く、思っている以上に。

 自分も一度女に溺れてしまっている身だ。それで周囲を巻き込み、大変な事件にしてしまった事実は心に深く刻まれている。

 だからこそ、怖かった。

 慶喜があの女に溺れれば溺れるほど、身を滅ぼしてしまうのではないか、と。

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