胃薬
1年A組 小田仁志
「どうしたんですか。」
「気分でも悪い?」
俯いたまま胃をさすっていたら、長田と日比野に声をかけられた。
「いや、ちょっと……。」
胃が痛い、とは言えず言葉を濁していると、
「もしかして、胃ですか?」
簡単に言い当てられた。
「ええ、ちょっと…」
胃の辺りに手をおいたまま、つい先程まで騒いでいた人物を遠目でみる。
その小田の様子に、長田は合点がいったようにうなづいた。
「胃薬、あるよ。」
「え?」
長田は給仕用の棚から小瓶を出すと、とん。と小田の前に置いた。
お湯を注がれた湯飲みも手渡される。
「はい。お湯で飲むと早く効きますよ。一回四錠ですからね。」
「あ、ありがとうございます…。」
なぜ生徒会室に胃薬が置いてあるのか疑問に思ったが、考えるのは後にした。
蓋を開けて小さな錠剤を四錠、手に取る。
「本当、小田君が生徒会に入ってきてくれて助かりました。」
胃薬を飲み込んだところで、見守っていた長田が言った。
日比野もうなづく。
「ホントだよね。あの二人を止めてくれるの、小田だけだもんね。」
あなた達が止めにはいらないだけでしょう…。
思うが言葉にはできない。
「前は、卒業した先輩の役だったんだよ。あの二人を止めるの。
卒業しちゃてどうなるかと思ってたけど。」
「ええ、小田君が入ってくれて、良かったですね。」
ふふふ、はははは、 と幻聴が聞こえる気がする。
小田は小さな薬ビンを静かに握り締めた。