第七話 家事に追われ
神社で初めての朝を迎えた日。
早朝の掃き掃除から始まって、朝食を作って、洗濯をして、それからも建物の中に掃除機をかけたり、昼食をつくったり、洗濯を取り込んだり。たたんだり。
日が暮れる頃には、ずっしりと疲れが溜まっていた。
「では、そろそろ失礼しますね」
立ち上がるグウジさん。
「お疲れ様でした」
皆がそれぞれに挨拶。
「あー、ちょっと待ってください。明日やることをメモしなきゃ」
香織さんがグウジさんを呼び止める。
そうかそうかと、香織さんの横で止まって書き終えるのを待つ。
二人がそうこうしているうちに、ネギさんが立ち上がる。
「あーでは、僕もそろそろ失礼します」
お疲れ様とそれぞれが言い、ネギさんは頭を下げて出ていく。
「はい、お待たせしました。帰りましょうか」
「はいはい」
「では、御前様、お嫁さん、また明日」
「また明日」
香織さんと、グウジさんが並んで出ていく。
「さあ、私たちも、お夕食の準備をしましょうか」
溜息をつく佳乃さん。
「あの、グウジさんたちは、この後どこかに行く予定があるんですか?」
「えっと、たぶん、ないんじゃないかしら」
私が質問すると、きょとんとする。
「香織さんとグウジさんが二人で一緒に帰ったので、何かあるのかなと思って」
ああ、と佳乃さんが笑顔を見せる。
「お二人は夫婦だから、一緒に帰ったのよ」
夫婦!
驚くところではないのかもしれないが、
この少ない人間関係の中で、二人が夫婦だと事実が不思議な違和感をもたらす。
「とりあえず、着替えをしましょうか」
佳乃さんが立ち上がって社務所を出ていく。
頷いて、それに続く。
「じゃあ、着替え終わったら、台所でね」
そういって部屋に入る佳乃さん。私も自室へ。
脱ぎなれない巫女服の紐をほどいていく。
どうやって着たんだっけと、順番を思い出しながら脱ぐ。
この服は洗うのかなと考えたが、一着しかないので一先ずかごに戻す。
昨日着ていた寝間着の浴衣を着て、台所に向かう。
「あら、早かったわね」
既に夕食を作り始めている佳乃さん。
「私は何をしたらいいでしょうか」
そうねぇ、と一瞬考えるような顔をする。
「朝の玉ねぎスライスが残っていたわね。もう一度、水につけてみましょうか」
頷いて、冷蔵庫から取り出し、ボウルに水をはる。
「次は何をしましょうか?」
「じゃあ、お味噌汁作ってみる?」
こくこくと頷き、鍋にお湯を沸かす。
「紗凪ちゃん、今日一日どうだった?」
佳乃さんが漬物を切りながら言う。
「えっと、なんだか、お母さんってすごいんだなって思いました」
私もお鍋を見ながら返す。
「お母さんって?」
「はい、掃除や、洗濯とか、家では全部お母さんがやってくれますから」
なるほど、という感じで佳乃さんが首を振る。
「そういえば、お母さんの仕事って、こういう感じよね」
ふふっと笑う。
私もつられて笑う。
「佳乃さんは、旦那さんは居ないんですか?」
ピタっと止まる佳乃さん。
まずいことを聞いたかも、と慌てて目を逸らす。
「紗凪ちゃん、山蛇様の御前の話、家の人から聞いてない?」
少し強張った声。怒られているのかなと、ドキドキする。
「小さい時から、なんとなく聞いてます」
佳乃さんが包丁を置いて、私に向き直る。
「どんな風に?」
これは、まずいことになっているのではないか。
完全に怒らせてしまったと思って、私も佳乃さんの方にしっかりと身体を向ける。
「ちゅ、中学を卒業したら、神社に住むようになるって」
「他には?」
佳乃さんに笑顔はない。
胸がきゅっとする。
「や、山の神様と結婚するって聞いてました」
「そう」
少しの沈黙。
自分の心拍数が上がっているのがわかる。
「お湯が沸いたわね。この話は、あとにしましょうか」
そう言って、佳乃さんはまな板に向き直る。
かなり怒っているのだろう。
私も気まずさを隠すように、豆腐を手に取り、切り入れる。




