第五話 団欒
グウジさんも竹ほうきを持ってきて、二人で境内を掃き掃除。
黙々(もくもく)とやっているので、私も黙々とやる。
それはそれで気まずい。自然と距離を取ってしまう。
石畳から外れて、土の上に移動。
向こうにある大きな桜に向かって、花びらを掃き進めていく。
せっせ、せっせ。黙々と掃く。
気づいたら木の下に到達。
ここでいいだろうかと、花びらを根元に追いやる。
「大きな木でしょう」
遠くから声を掛けられて驚く。
「お近くに住まわれていたから御存じでしょうが、ここの御神木は1000歳を超えていると言われているんですよ。今年も例年のように満開ですね」
聞いたことがあるような、ないような話だが、「そうですね」と知った風な振る舞いをしてみる。
「今代のおじい様は、毎年氏子を集めて、ここでお花見をされていましたね。私も良くしてもらっておりましたが、今年はもう居られないとなると、寂しいものです」
私のおじいちゃんが、毎年ここで花見を?
そういえば小さい頃はしょっちゅう来ていた気がするな。
しかし、学年が上がるごとに、そういう集まりを避けていたし、寂しいと言われても私には実感がないのだ。
コツコツと石の階段を上がってくる音。
佳乃さんかなと、また振り向く。
そしたら、神主さんっぽい服のおじさんがもう一人。
「あ、今代さん、おはようございます」
深々とこちらに頭を下げる。
私もペコリ。
おはようございますと、グウジさんとも向き直ってお辞儀。
「今日は寒いねぇ」
はははと笑いながら通り過ぎていく。
グウジさんとは色違いで、紫色の袴。どうやら人によって違うらしい。
「えっと、あの人は……」
ちらりとグウジさんを見る。
「ん、ああ、ここの禰宜です。あとで改めてご挨拶させましょう」
ニコニコのグウジさん。
えっと、ネギ? あの人の名前か?
それともここのネギを育てている人とか、そういうことかもしれない。
とりあえず、へぇっとだけ口に出しておく。
どれぐらい掃き掃除をしていただろう。
いつの間にかネギさんも掃き掃除に参加していて、境内は3人になっていた。
太陽もはっきりと昇っていて、明るくなっている。
ネギさんが熊手のような物を持ってきて、土の地面に線を書き始める。
それが合図だったかのように、グウジさんが箒を仕舞いだす。
私はどうしよう。佳乃さんはまだ戻って来ない。
箒を戻して良いのだろうか。
「紗凪ちゃん」
階段を上がってくる佳乃さん。
「そろそろ中に入りましょうか」
はいと言って、佳乃さんの後ろについて行く。
建物の中に入って廊下を進む佳乃さん。
何処に行くのかなと思っていると、どうやら台所らしい。
「さて、朝ごはんを作りましょうか」
あ、朝ごはんを今から作るんだ。
私も作る側なんだなと考えながら、ぼやぼやとしているうちに、
佳乃さんは手際よく、鍋を火にかけたり、まな板を取り出したりと、慌ただしく動き出す。
「わ、私は何をしたら……」
「ああ、そうね……。冷蔵庫の横の段ボールから、玉ねぎを出して、薄くスライスしてもらえる?」
佳乃さんが、調理道具たちに並んで吊り下げられた“スライサー”を指差す。
「二玉お願い」
「は、はい!」
急ぎ足で玉ねぎを取り上げて、三角コーナーの上で皮をむく。
その横でリズムよくネギを刻む佳乃さん。
さっきのネギさんが育てた物かもしれないな。
そんなことを思いながら、スライサーとボウルを手元に置く。
「手を切らないようにね」
はい、と言いスライサーに玉ねぎを押し当てて、シュ、シュっと一枚ずつすり下ろす。
そうこうしているうちに、佳乃さんのお鍋にはお味噌汁が出来上がっていた。
「すり終わったら、水につけておいてね」
わかりました!と威勢よく言ってみたが、まだ三分の一も出来ていなかった。
もう一玉もあるし。
なんだか目が痛くて、視界がぼやけてきた。玉ねぎが目に染みてきたらしい。
「おはようございます、御前様」
知らない年配の女性が台所に入ってくる。
「香織さん、おはようございます」
佳乃さんは親しげに挨拶をして、私に目配せ。
「お、おはようございます!」
「ああ、お嫁さんだねぇ。おはよう」
お嫁さん?
どうやら、香織さんは私を「お嫁さん」と呼ぶらしい。
それから佳乃さんと香織さんは慌ただしく動く。
食器をお盆に乗せて運んで行ったり、戻ってきたと思ったら、また行ったり。
やっと玉ねぎがすり下ろせた頃には、味噌汁のお鍋も台所から消えていた。
とりあえず水につけておく。
「紗凪ちゃん、どうかしら?」
佳乃さんが台所に戻ってくる。
「で、出来ました!」
振り返って報告。
顎に手を当てて、ふむふむと何やら考えている佳乃さん。
「じゃあ、水を切って、大皿に乗せて」
頷いて、言われるままに玉ねぎスライスをお皿へ。
「じゃあ、朝ごはんにしましょうか。気をつけて持ってきてね」
佳乃さんの後ろを大きなお皿を持って追う。
広い畳の部屋に着くと、食器やお鍋が机に並ぶ。
いつの間に作っていたのか、卵焼きや、漬物なんかもある。
「さて、もうすぐ宮司さんたちが戻ってくるから、お茶を淹れててね」
そう言ってどこかへ行ってしまう佳乃さん。
ポットと近くに置かれた湯呑。きっとコレのことに違いない。
とりあえず置かれた湯呑全部にお茶を入れてみる。
向かいで、炊飯器からご飯をよそっている香織さん。
何も言われないし、正解したのであろう。
「やあ、やあ、ありがとうございます、今代」
グウジさんと、ネギさんを連れてやってくる佳乃さん。
「どうも、朝のお勤め、お疲れ様でした」
佳乃さんがグウジさんたちに言う。
お疲れ様なのは、佳乃さんや、私たちも同じだから、
きっと皆に言ったに違ない。
「いただきましょうか」
グウジさんが言った一言から、各々いただきますをして食べ始める。
私も佳乃さんの隣に案内される。
「お嫁さんは、これぐらいでいいかしら?」
お茶碗に、大き目に盛られたご飯を差し出す香織さん。
「あ、ありがとうございます」
受け取って、私も食べ始める。
「うーん、今日の玉ねぎは辛いねぇ」
ネギさんが玉ねぎスライスを一口食べて苦笑い。
私はドキリ。
「まあ、出された物に愚痴を言っては、山蛇様の罰が当たりますよ?」
佳乃さんがネギさんを見て笑う。
「またまた、御前さんは御冗談を」
ネギさんが、はははと笑う。
皆も笑う。
私もつられて笑ってみる。




