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歴史に娶られ  作者: 剛申
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第四十五話(終) ピカピカ





英会話教室でグループレッスン。

今日でユウちゃんは教室を出ていく。


「サンキュー フォー ティーチング ミー イングリッシュ」


今日の締めくくりに、ユウちゃんのお別れのスピーチが始まる。

私は真剣にそれを聞く。

美希さんたちも優しそうに見守っている。


「アイム ゴーイング トゥ リーブ ディス スクール、

ビコーズ アイ ウィル リブ ウィズ マイ グランドマザー、

イン アン イングリッシュ スピーキング カントリー」


英語を日常的に使う人には、たどたどしい話し方に違いない。

しかし、そのゆっくりとした英語は、私でも聞き取りやすく、内容も理解できた。


ユウちゃんが私に笑顔を向ける。


「アイ アム ベリー ハッピー ビコーズ アイ メイド フレンズ イン ディス クラス」


ニコニコとしたユウちゃんの笑顔。

私も嬉しくて、照れ笑いで顔を赤らめる。


「サンキュー フォー ビーイング マイ フレンド。

サンキュー ベリー マッチ フォー エブリシング」


ユウちゃんがみんなを見て、顔を赤らめながら笑う。大きな身長の女の子が、とても可愛い笑顔で。


「シー ユー アゲイン サムデイ」


パチパチパチパチ。


翌日の昼間、神社の自室を片付ける。

片付けると言っても、荷物なんてそもそも多くない。カラーボックス二つだけ。


ほとんど毎日着ていたと言ってもいい巫女服と浴衣。

ここに来た時に佳乃さんから預かったものだ。これは返却しなきゃならんだろう。

私服に着替えて、巫女服を慎重に畳む。


「あの、この今まで着てた服、返します」


社務所に畳んだ服を持って入る。

佳乃さんが受け取りに来る。


「ありがとう、あ、でもね、浴衣は紗凪ちゃんが持っていていいわよ」


「え、いいんですか?」


佳乃さんが頷く。


「ええ、これは紗凪ちゃんの身長に合わせて作ってもらったものだから、返してもらうわけにもいかないわね」


ふふっと笑う佳乃さん。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きますね」


浴衣を胸の中に抱え込む。

これからも寝巻きにして使おう。


「お邪魔します」


母が尋ねて来る。

荷物の引き上げだ。


「これで全部?」


父と母、私は、荷物をひとつずつ抱えて運び出す。


「あ、ごめん、先に行ってて」


「なに?」


「いいから」


両親を先に行かせて、空っぽになった神社の自室を見回す。


「ありがとうございました」


何もない部屋に静かに頭を下げる。


境内に荷物を運び出すところに、佳乃さんが見送りに来てくれる。


「紗凪ちゃん、高校受験、頑張ってね」


にこやかに手を振りながらやって来る。

荷物を抱えたまま向かい合う。


「あの、佳乃さん!」


「なあに?」


優しい笑顔。

意を決して声を出す。


「高校を出たら、ここで働かせてください」


佳乃さんは驚いた顔。

そして、くすくすと笑いだす。


「ええ、いつでも戻っていらっしゃい。ここは、あなたの家みたいなものだから」


私は荷物を抱えたまま大きくお辞儀をする。


その後は一年遅れの受験勉強。

予備校と英会話教室。それに土日は神社で巫女のバイトをさせてもらう事になった。

御前をやめたはずなのに、土日は早朝から神社に行って掃き掃除をする。


神社の仕事をやめたような、やめてないような、よくわからない感じ。


そんな時間が数ヶ月を過ぎ、また春が来る。


桜が舞う。

入学式を過ぎれば、高校生というものになるらしい。同級生とは一年遅れの高校生活が始まるのだ。入学式を終えて、ぼんやりと考えごとをしながら、帰り始める。


「紗凪!」


制服姿の颯太がいる。二年生、私の先輩である。


「入学おめでとう」


にこやかに言う幼馴染。何がおめでとうだ。


「おい、私も追いついたぞ」


「え、追いついたって、なにが?」


きょとんとする颯太。

私は制服姿で胸を張る。


「高校生になったぞ」


「あー、そういうことか。でも追いついたって言っても、一年後輩じゃん」


「うるさい、一年、二年の遅れがなんだ。山蛇の御前様は千年続いているんだぞ。そのスケールに比べたら、大した問題じゃない!」


びしっと颯太の顔に人差し指を突きつける。


私は高校生になった。

そして土日は早朝から神社に通う日々だ。

しかし、もう私は山蛇の御前ではない。

ひとりのバイト巫女。いずれは神社の事務員になる予定ではある。


「そろそろ私も歳でね、紗凪ちゃんが就職してくれたら、ここの仕事は任せて引退したいわねぇ」


社務所で香織さんが私に向かって軽口を言う。

はははと笑って返すと、香織さんは一つ溜息をついてグウジさんを見る。


「あなたもそろそろ、次の宮司さんに代を明け渡すことを決めといた方がいいんじゃないかい? 身体が動くうちに引退しておかないと、老後が大変よ」


香織さんの軽口に、グウジさんの肩が飛び跳ねる。


「いえいえいえ、私は山に仕える身。まだまだこの神社に尽くしませんと」


「いいえ、宮司様、それは困ります」


ネギさんが口を挟む。


「私もそろそろ、宮司を経験しなければ、禰宜のまま神職人生を終えてしまいそうなのですよ。なりたいなぁ、人生で一度は宮司というものに」


ネギさんがうんうんと頷く。困り顔のグウジさん。


「うーむ、それなら、私は名誉宮司とでもしてもらいましょうかねぇ」


はははとみんなが笑う。


春の陽気に村は包まれる。

私は暇さえあれば神社を掃除している。

今は本殿の御神体を、キュッキュッと磨いている最中だ。


「いつもありがとう、精が出るわね」


佳乃さんがそこへ覗きにやってくる。

どうもと、ペコリと頭を下げる。


「いつか紗凪ちゃんが結婚するときが来たら、花嫁衣裳と共に、その笄を頭につけてほしいな」


ふふっと佳乃さんが笑って言う。

私は苦笑い。


「自分が結婚するなんて、今は想像も出来ないです」


「ふふ、そうなったらという話よ」


ふーむ、結婚かぁ、そんな日が来るのかはわからないけど、私は時々こうしてピカピカになるまで、この宝物を磨いては眺めている。


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