第四十三話 添い遂げる
「私、高校生になりたい」
俯いたまま、強い口調で言う。
母が私へ向き直る。
「高校生になりたいって言っても、あんた、学校に通いながら御前様を続けるつもり?」
「わかんない。でも、そうしないと、私だけ、みんなに置いて行かれるような気がする」
「わかんないって、あんたね」
父が私の頭をポンと叩く。
「良いじゃないか、御前様も紗凪を尊重してくださると言っているんだ」
佳乃さんもふふっと笑う。
そして私を真っ直ぐに見つめる。
「紗凪ちゃん、山蛇の御前の役割を、私に返してください」
「え?」
みんな驚いて佳乃さんを見る。
「あなたは自分のやりたいことを、もう一度考え直すべきだわ。誰に言われるのでもなく、自分の意思で」
「御前様、それは、しきたりを終わらせると言うことでしょうか?」
母が心配そうに言う。
「今すぐに終わらせる訳じゃない。私がお勤めを終えるまでは、時間がまだあるわ。紗凪ちゃんが考える時間も、村のみんなが考える時間も」
にこやかに佳乃さんが笑う。
数日後の夜に、大広間にウジコさん達が集まってくる。
定例のウジコ集会だ。
「皆さま、早速ではございますが、本日は御前様から、大事なお話がございます」
グウジさんが神妙な面持ちで口を開く。
おじさん、おばさんたち、父も母も黙って佳乃さんを見る。
みんなを見つめながら、微笑む佳乃さん。
「急なお話ですけど、今代の山蛇の御前様の役割を、先代の私に返還していただき、今代の御前様には、お役目から降りて頂きます」
ざわざわと話声が大きくなる。
そして佳乃さんの隣で正座する私にも視線が向けられる。
私は真っ直ぐ前を見つめて座り続ける。
「御前様、それは、新たな山蛇の御前様を選び直すということですか?」
おじさんの一人が言う。
「前例のないことにも思えます。それに、大々的な継承式もしてしまった後だ」
佳乃さんが微笑みかける。
「いいえ、もう新しい山蛇の御前は必要ないわ」
「御前様、それはどういう」
「ならわしをやめるのか」
みんな戸惑いながらも口々に言い始める。
グウジさんが、まあまあと皆をなだめる。
「落ち着いて聞いてください皆さん」
佳乃さんが口調を強めながら言う。
「山蛇の御前が必要な時代は終わった。そして、誰か一人が村の象徴のように扱われる必要も、もうない」
しーんとする大広間。
おじさんの一人が佳乃さんへ静かに言う。
「長い長い伝統のあることだ、私達の世代でそれを終わらせて良い物かねぇ」
「大丈夫。これからも村のみんなで、手を取り合って助け合っていきましょう。山蛇の御前がいなくても、みんながしっかりと互いを助け合えばいい。何も変わらないわ」
ふうっと佳乃さんは一息。
「私が御前でいる間に、それを作り上げていきましょう。みんなで」
みんな俯き気味だが、反論する雰囲気もない。
おばさんの一人が顔を向けて言う。
「御前様は、それでよろしいのですか?今後も山蛇の御前をお続けになっても」
静かにその人へ顔を向ける佳乃さん。
「ええ。だって、私は山蛇の妻、山蛇様と生涯を添い遂げたいと思っておりますもの」
ふふっと笑う。




