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歴史に娶られ  作者: 剛申
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第四十一話 自身の問題




その日、夢を見た。


気がついたときには森の中にいて、ここは何処かと巫女服のまま歩き回る。


ときどきドシン、ドシンと遠くから響くような音が聞こえて、身構える。


「何の音だ?」


周りには木々しか見えない。

暗い森の斜面をゆっくりと登って行く。


幾分か進んだ先で、白い大きなものが、木々の隙間からゆらりと動いて見え、ゾッとする。


「な、なんだ?」


そろりそろりと近づき、木に隠れるようにして、顔を覗かせる。


大きな大きな蛇がいる。とぐろを巻いている姿は、まるでそういう建物ではないかと思えるほどの巨大な蛇だ。


「ま、まさか、山蛇、山蛇様か?」


ドシン!


大きな蛇の尻尾の先が地面を叩く。

まるで地震が起きたみたいに揺れる森。


ドシン!


また尻尾が地面を打つ。

揺れる斜面を砂利などが転がって落ちて行く。

まさか、これが土砂災害の原因なのではと疑いたくなる。


ドシン!


何度も尻尾で地面を打つ蛇。

止めなきゃ。


「や、やめろよ!」


意を決して、蛇の前に飛び出す。

巨大な蛇の顔が見える。

目を閉じて眠っているようにも見える。


「おい、やめろー!尻尾をそれ以上振り下ろすな!」


思い切って蛇に叫ぶ。

これは私の夢のはずだ。

ここで食べられたって、怪我をすることはないはずだから、遠慮なく怒鳴ってやる!


ゆっくりと目を覚ます大きな蛇。


「誰だ?」


低い声で私を見下ろしながら問う。


「お、お前こそ誰だ、山蛇様だろ、そうだろ?」


たじろぎながら食い下がる。

ここは私の夢の中、怖くない、怖くない!


「名前などない、しかし、そう呼ぶ者もいるようだな」


ゆらりと首を持ち上げて、私に巨大な顔を近づける。

額に冷や汗が浮かんでくる。


「それがどうした、小娘」


「わ、私は」


震える腕に、ぐっと力を込めて、拳を握りしめる。


「私は、山蛇の御前、お前のお嫁さんだ!」


両者沈黙。

睨み合う。


「そうか」


蛇は首を引っ込めて、眠るように目をつむる。


「お、おい」


「もう嫁はいらん」


「な!?」


なんだと?

眠る蛇が続ける。


「何人もの娘を嫁にもらった。皆、若くして嫁に来て、婆さんになっては鬼籍に入る。人間の寿命は短い」


ど、どういうことだ?何を言ってる?


「もう十分だ。嫁などいらん。嫁がいなくなると悲しくなるのだ。新しい嫁が来ても、すぐにいなくなってしまう。だからの、もう嫁などいらんぞ」


なんだと?もう山蛇の御前はいらないって言うのか?じゃあ、私は何なんだ。


「お前がいらないなんて言ってもな!もうなっちゃったんだよ!お前の嫁に!今更どうしろって言うんだ!」


ふうーと大きな息を吐く蛇。


「好きに生きろ。俺の嫁などせんでもいい。お前の勝手にしたらいい、思うがままに歳を取って、長生きし、俺の知らん所で鬼籍に入れ、人間の娘」


「お、おい!勝手なことを言うな!」


すーすーと寝息を立てる蛇。


「お、おい……」


好き勝手なことだけ言って寝息を立てる蛇。

眠りながらも尻尾を持ち上げて、またドシンと地面を鳴らす。

これは寝がえりなのか、なんなのか。


「おい、やめろ!お前の尻尾のせいで、困っている人がいるんだぞ!それのせいで、何人もの御前様がお祈りのために人生を捧げて来たんだぞ!お前のせいだ!お前のせいなんだぞ!」


拳をぎゅっと握って、蛇を睨む。


「わ、私だってな!よくわかんないまま、誰が決めたかも知らないけど、勝手にお前の奥さんにさせられて!なんか知らないけど、お母さんは私を誇りに思ってて、佳乃さんや神社のみんなは、なんでか私に優しくて!」


怒りがどんどんと湧いてきて、それに身を任せて言葉が止まらない。


「でもな、せっかく新しく友達が出来ても、今のままじゃ上手くいかないんだよ!ユウちゃんは遠くに行っちゃうし、颯太は高校生活満喫してるみたいだしさ!でも、私はここに居るしかないんだ!みんなとは違うんだ!前に進めないんだ!ここでお前の奥さんをやってるしか出来ないんだよ!」


怒りを通り越して涙目になってくる。


「お前のせいだぞ!全部!全部お前が悪いんだ!」


すっと目を開ける蛇。


「俺のせいではない。全て、お前自身の問題だ」


「な、なに!?」


「帰れ、うるさくて眠れん」


ふっと蛇から息を吹きかけられる。

身体が風に舞い上がるように吹き飛ばされる。


「う、うわあ!」


はっと目が覚めると、神社の自室の天井が見える。

びっしりと全身に汗をかいている。

夢だった。わかっていたけど、夢で安心した。

ここまではっきりと見えた夢は久しぶりだ。

枕元のスマホを見ると、夜中の二時。


「なんだよ、好きに生きろってか……。勝手な奴だ、まったく」


スマホを置いて、天井を眺める。


「でも、それでいいのかもな、本当は」


ふうっと溜息をついて、もう一度眠りにつく。




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