表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史に娶られ  作者: 剛申
32/45

第三十二話 えらい人





ポン、ポン、ポン

和太鼓の音に合わせて、顔を上げる。

正面のユウちゃん、周りにいる村の人たち、観光客。沢山の視線。

何も考えてはならない。今は踊ることに集中するだけ。


すっと右手の鈴を持ち上げる。


シャン……シャン……。


私の鈴が鳴り止む音に合わせ、雅楽の人が縦笛を吹き始める。

そして、踊りを進めながら、次の鈴を鳴らす。


シャン……シャン……。


自分がどんな顔をしているかも分からない。

頭はぼーっとしたまま。

よくわからないまま踊り続ける。


ポン、ポン、ポン、ポン、ブー、ブー、シャン、シャン、ポン、ポン


ゆっくりとテンポを刻みながら、雅楽と鈴の音が鳴り続ける。

綺麗な音だな。ぼんやりとしながら踊り続け、鈴を鳴らす。

誰が見ているかとか、自分がどんな風に見られているかとか、この踊りの意味は何なのかとか、全てどうでもよくなってくる。今も、いったいどんな踊り方をしているかなんて、自分の姿を確認する術もない。ただ、覚えた通りに動く。頭が覚えていなくても、身体が勝手に動く。もうそれでいい。早く終わってくれと思う。でも、別に終わらなくてもいいとも思う。

どうでもいい。頭の中はぐるぐるを超えて、ぼやーっとしている。


シャン、シャン、シャン、シャン、シャララララララ……、シャン…シャン


両手を広げた状態で、気が付けば最後の鈴を鳴らし終わっていた。

踊り終わったことに、はっと気が付いて、慌ててお辞儀をする。


パチパチパチパチ!


大きな拍手に包まれる。これは、成功したのか、踊りは間違っていなかったか。どうなのか。

自信がない、周りの人の顔が見えない。うつむき加減でそそくさと退場。

拍手はずっと鳴り響いたまま。


本殿の敷地へ入り、周りから見えない位置まで隠れに戻る。

佳乃さんと美希さんが並んでパチパチと拍手をしてくれる。


「おかえりなさい」


佳乃さんが抱きしめてくれる。


「ただいま、戻りました」


ふふふと佳乃さんが笑う。

顔は見えない。もしかしたら、泣いているのかもしれない。

隣で美希さんが頭を撫でてくれる。


「綺麗だった。とても、すっごい綺麗だったよ」


美希さんは目じりの端に涙を浮かべている。

私の舞は成功したのか。綺麗だったのか。まあ、それも今となってはどうでもいい。

ただ、今ここで二人が褒めてくれていることだけはわかる。それが嬉しい。


建物の中に戻って、美希さんが金の髪飾りを外してくれる。

そして、櫛で髪を整えてくれているのだが、その感触がとても気持ちよく感じる。

なんか美容室みたいだなと、ふわふわしながら考える。


「出来たよー、お疲れさまー」


目の前の姿見を通して、美希さんが笑顔を見せてくれる。

私も鏡の中の美希さんに向かって笑う。


「ありがとうございます」


「このあと休憩でしょ? ユウちゃんが来てたから、お話してきたら?」


そうだ、ユウちゃん!

隣町からわざわざ見に来てくれたのだから、お礼を言わないといけないはずだ。


「ま、まだ境内にいるでしょうか?」


「うん、さっき、もう少し神社を回ってみるって言ってたよー」


「急いで行かなきゃ!」


あははと笑う美希さんにお辞儀して、境内に駆け出して行く。

ユウちゃんは背が高い女の子だから、ぱっと目につく。


「ユウちゃーん!」


私の声に、顔を向けて笑うユウちゃん。


「サナギちゃん!すごいね、綺麗だったよ!」


首を大きく縦に振りながら、うんうんと頷いている。

褒められると満更でもない。綺麗は可愛いと同義、とても良いの意味である。

私は照れ笑い。


「知らなかった、サナギちゃん、えらい人だったんだね、私、全然知らなくて」


ん?えらい人?どういう意味だろう。

たぶん、御前のお役目のことを言っているのだろうな。


「え、あ、ありがとう。私もまだ、良く分かってないんだけどね、あはは……」


照れ笑いか、苦笑いか、自分でも分からない笑いに変わる。


「すごいなぁ、私はあんな風に人前で踊るなんて、とても出来ないから、本当にサナギちゃんはすごいよ」


ユウちゃんの目がキラキラとしている。

少し困惑。


「す、すごくないし、私は自分が踊った実感もなくて、ははは……」


「うらやましいな」


そう言ってユウちゃんが、少し寂しそうな目をする。

どういう意味だ? さっきよりも困惑が強まる。


「え、私が? そうかな? うらやましいことなんて無いよ?」


「自分に自信がある人ってうらやましい。サナギちゃん、みんなの前であんなに堂々と踊ってて、すっごい綺麗だった。みんなもいっぱい拍手してたし、なんかすごい人なんだなーって」


「えー、いやいやいや!」


手をぶんぶんと振る。


「サナギちゃんは、すごいなぁって。それに比べて、私はなんにもすごくないし、特別でもないから。すごいなぁ……」


ユウちゃんが自信なさそうにモジモジとし始める。

どうしよう、なんか変な感じになってしまった。どうにも気まずい。

私はユウちゃんの言うような、えらい人でも、すごい人でもない。

どちらかと言えば、すごくないし、特別でもない人だ。

だから本当は私もユウちゃんと同じだよと言いたいのだが。

どうにもそう言いにくい空気が、ここには流れている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ