第二十六話 夜のお出かけ
土日は美希さんと並んで窓口対応というのが、もうお決まりとなりつつある。
ポツポツくる観光客への対応の合間に、美希さんとおしゃべり。
「ホームステイ先でさ、御飯の前にはいつもマザーが、Help yourself、って言うんだよね。私はそれを、手伝ってって意味かと思って、お皿を並べたりしてたの。でも本当は、好きに食べていいよって意味だったって、一ヵ月ぐらいして気づいたんだよねー」
美希さんは留学したときのことが、よっぽど楽しかったそうで、
真冬のブリザードでまつ毛が凍ったとか、武勇伝を色々聞かせてもらった。
なんだか楽しい。
「知らない世界に行くっていいですね。そういう経験って思い返しても楽しいですもんね」
「いいよー、機会があったら、御前ちゃんにも行ってみて欲しいくらい」
そう言った美希さんが、はっとしたように真面目な顔になる。
「ごめん、余計なこと言っちゃったね。御前ちゃんは、神社のことで忙しいもんね」
苦笑いをしている。
私も合わせて、あーいやーと言いながら苦笑い。
「でも、英語はちょっとでも話せるようになりたいって思います。神社にも時々英語の人が来ますもんね」
はははと笑って見せる。
うーむと美希さんが考えるようなそぶり。
「それなら、御前ちゃん、グループレッスンやってみない?」
「グループレッスン?」
なんだそりゃ。
美希さんを見ながら頭をひねる。
「私、平日の夜に英会話教室のアシスタントをしてるのね。何人かで英語も使いながらお喋りするだけなんだけど、お試し体験もやってるからさ。一回どうかなって」
英会話教室。行ったことがない場所だ。
とっても難しいんじゃないか? 私なんて場違いじゃないか?
「あの、でも、私は、英語なんて話せないし……迷惑かも」
「ぜーんぜんだよ。みんな最初はそうだからさ、もしかしたら、楽しいかもしれないよ?」
どうしよう。しかも平日の夜だと言うし、神社を出てもいいのだろうか。
「えーっと、佳乃さんに聞いてみようかな。出かけていいのかどうか」
「うんうん。よかったら覗きに来てね、気分転換になると思うよ」
ふふっと笑う美希さん。
興味がないわけではないが、夜にお出かけとは、なんだか悪いことのような気もする。
佳乃さんは何と言うだろうか。
「良いじゃない。行ってらっしゃいな」
夕食時に言い出してみたら、あっさりと許可が出た。
「あ、あの、でも、夕食の準備とか、夜に出歩くこととか、その、大丈夫でしょうか?」
「行ってみたいんでしょう?」
佳乃さんは優しい笑顔。
「それは、はい……」
「それなら、行ってみたらいいじゃない。そうねぇ……、紗苗さんにも相談してあげるわ。送り迎えをしてもらえるように」
佳乃さんが母に頼んでくれると言うが、それは何か申し訳ない。
「は、母には、私から言ってみますから」
そう? と佳乃さんが笑う。
こんなに簡単に許可がでるとは、私はどうやら難しく考えすぎていたらしい。
部屋に戻ってから母へ電話をかけてみる。
「あー、あの、お母さん、今度の水曜の夕方なんだけど、相談があってさ」
「あーうん、どうしたの?」
「英会話教室のお試しに行きたいんだけど、送ってもらえないかなって」
「ええ、え、英会話?」
母の驚き声。これはまずい。
「よ、佳乃さんも行って良いって言ってるし! 神社のお姉さんも働いているところだから!」
「お姉さん? あ~、美希ちゃんね、窓口の巫女さんの」
そうそう! と大きく頷く。
「まあ、御前様が良いと仰っているなら良いんじゃない?」
良し、母からも許可を取った。
これで問題は全てクリアである。
「それにしても、あんたが英会話に行きたいなんてね~、ふーん」
「じゃ、じゃあ、お願いね! ありがとうお母さん」
電話を切ってふうと一息。
行くと決まってしまえば、不思議と心も軽くなる。
こういうお出かけは久しぶりだなと、なんだかちょっと楽しみである。




