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歴史に娶られ  作者: 剛申
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第二十五話 いつか





今日は香織さんを神社に残し、後のみんなはお出かけ。

お出かけと言っても、どうやらご近所で仕事をするらしい。

先に向かっているグウジさん達に合流するべく、佳乃さんと並んで歩いて行く。


「えっと、今日は何かあるんですか?」


「ええ、新しいお家が建つのよ」


「お家?」


家が建つという言葉と、神社にどんな関係が?

よくわからないという顔をしていると、ふふっと笑う佳乃さん。


「お祓いをするのよ。ちゃんと家が建ちますようにってね」


ああ、なるほど、と手を叩く。

佳乃さんもにこにこ笑顔。


「よろしくね。今日は紗凪ちゃんにもお仕事がしっかりあるから」


よろしくと言われながら笑顔を向けられ、とたんにゾッとする。

巫女服で来たから、人前で何かする訳ではないと思って油断していた。

仕事があると分かれば、一気に緊張感が高まる。


到着してみると、グウジさんとネギさんが待っていたのでお辞儀する。

しかし、場所は少し変わった雰囲気だ。何もない土の空き地に、神社にあった細い机。

その上には緑の葉がついた枝、それに沢山の鈴がついた棒、なぜかリンゴとミカンも飾られている。


「あの、あれは何ですか?」


「あれは、お供え物よ」


なるほど、ここに向かってお祈りするのだな。

それなりにグウジさん達の働きを見て来たのでピンとくる。


「さて、じゃあ、練習しましょうか」


ああ、また失敗しそうだな。

以前のことを思い出して、頭が重くなる。


練習にはグウジさんも、ネギさんも付き合ってくれて、

佳乃さんの指示のもと、リハーサルのような物を何度か繰り返す。


「はい、そこで、鈴を持って、はい、次は皆さまのほうを向いて」


カチコチになっている私を見て、「失敗してもいいから」と口々に励まされる。

私は失敗しないようにと頑張っているのに!

そうこうしているうちに、数人の団体がやってくる。


「どうも、本日はおめでとうございます」


グウジさんが、おじさんたちと挨拶をする。

みんな丁寧にお辞儀をしていく。


「御前様、わざわざありがとうねぇ」

「ありがとうございます、御前様」

「今日はよろしくお願いします」


おばあちゃんらしき人を先頭に、佳乃さんへ順々に挨拶。


「伊藤家の皆様、本日はよろしくお願い致します」


佳乃さんもにこにことお辞儀を返す。

私はその横で余裕なくカチコチと突っ立っている。


「これより、お(はら)いを致します。皆様、ご低頭ください」


ネギさんの合図と共に、

さっさっとお祓い棒をグウジさんが振る。


はじまった。

私の番まで、待機、黙って待機。

足が震え出す。


「お上げください」


その後、祝詞をグウジさんが唱え始める。

次だ~、次だ、私の番!


「これより、山の神、山蛇様にこの場所をお認め頂くため、今代山蛇の御前様より、鈴祓いを頂きます」


ネギさんがそう言って、鈴のついた棒を持ってくる。

受け取って、カチコチと前に出る私。

みなさんに向かってお辞儀。

みなさんも私にお辞儀。


「皆さま、ご低頭ください」


鈴を持ち上げる。

ぶんぶん振るんじゃないぞ、私。

スナップだ、手首のスナップで振るのだ!

いくぞ……。


シャン……、シャン……。


音は小さいが、綺麗な鈴の音が鳴る。成功! 


「お上げください」


みんなが私を見る。緊張。


「こ、このお祓いをもって、山蛇様にお許しを、いただきました。完成まで、事故が無いようにお祈り、しております!」


なんか違った気がするが、誰にも笑われていないし、正解に近かった気がする。

みなさんも優しい顔をこちらに向けている。


「山蛇の御前様、ありがとうございました」


ネギさんに鈴を渡す。お役目、無事に終了である。

佳乃さんの隣に戻ると、にこにこしながら背中を撫でられる。

こ、これは、間違いなく成功だったに違いない。ほっと一息。

続いて佳乃さんが、みなさんに向かって話し始める。


「伊藤家の皆様、新たなお住まいを建てられること、大変喜ばしく思っております。この村に新しい家が建つのも久方ぶりのことですね」


みんな、うんうんと頷くように話を聞いている。

まだ若そうな夫婦と思われる二人は、安心したような笑顔を浮かべている。


「事故のないように、また、末永くご家族が住める家になるように、陰ながらお祈りしております」


佳乃さんがお辞儀をすると「ありがとうございます」とみなさんもお礼を言う。

佳乃さんは笑顔。みんなも笑顔だ。


伊藤家のみんなが帰った後、グウジさん達は片付けがあるからと、その場に残る。

佳乃さんと二人で神社に帰る。


「とても上手に出来た。偉いわね、伊藤家の方々もこれで一安心じゃないかしら」


ははは、と照れる。

でも本当はきっと、まだまだ、だ。


「自分でも上手く出来たと思います。でも、佳乃さんみたいに、みんなを笑顔には出来てませんから、まだまだです」


佳乃さんが優しい笑顔をこちらに向ける。


「大丈夫。そんなに気負わなくていいのよ」


「そ、そうでしょうか?」


大きく佳乃さんが頷く。


「きっと、いつか紗凪ちゃんのことを、みんなが認めてくれるわ。それは今すぐでなくてもいい。今は何度だって失敗してもいいの」


「失敗、してもいい?」


「もちろん。誰もが失敗しないで生きるなんて、出来る物じゃないから。誰だって、人生は失敗しながら進むものでしょう?」


佳乃さんは優しい笑顔。

人生は失敗しながら進むものとは、どういうことだろう。


「あなたが必死に生きていれば、きっとみんなが認めてくれる。上手くいかなくたって良い。時間がかかっても良い。大きな失敗をしたとしても、いつか、きっと、それでも良かったと思える日が来るから」


遠くを見つめる佳乃さん。

佳乃さんも、これまでに沢山の失敗を重ねてきたのだろうか。

私が想像も出来ないぐらい、佳乃さんは必死に生きてきたに違いない。

長い長い、時間をかけて。


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