第二十二話 都市伝説
早朝の掃き掃除。
気持ちは億劫。
なにせ今日は土曜日。ああ、また土日がやって来た。
今日も境内には観光客が来るに違いないし、
私もお客様対応をしなければならない。
香織さんが言うには、お祓いの予約も多いらしく、
グウジさんやネギさん、それに佳乃さんも大忙しなのだとか。
私に関しては、朝から夕方まで窓口対応を命じられている。
ああ億劫だ。
「おはよーございますー」
軽やかな挨拶で、社務所に入ってくる綺麗な巫女のお姉さん。
どうやら今日は美希さんが朝からのご出勤らしい。
味方の強キャラ登場で、一瞬にして緊張がほどける。
「おはようございます、美希さん」
「御前ちゃんおはようー!見たよーテレビ、着物似合ってたね」
ぼっと火がでるような感じで、顔が一瞬にして湯で上がる。
「コメントも良かったよー、フレッシュ御前様って感じで」
「フ、フレッシュ……」
スーパーの野菜コーナーで見たことがある言葉。
野菜コーナーに自分が並んでいるような想像が頭に浮かぶ。
新鮮、とれたて、フレッシュトマトだよー。
まあ、今の私の顔はトマトのように赤いだろうから、納得もしようというもの。
「あんなんで、良かったのかどうか、ははは……」
私が苦笑いをしていると、良いじゃん良いじゃんと言いながら隣に座る。
シャンプーの良い匂い。
なぜこんな綺麗な人が、この片田舎に住んでいるのかと不思議になってくる。
「あのー、美希さんって、海外留学もしたことがあるんですよね?」
「うんうん、まー、三か月ぐらいだったけどね。それが、どうかした?」
ニコニコしながら首をかしげる美希さん。
「あー、いやー、村の若い人は、外に出て帰ってこない人も多いですし、美希さんはそんなに遠い所まで行ったのに、村に残っていて、その、あの、どうしてなのかなって」
ふむ、と考えるふりをする美希さん。
「この村は良い所だよ。静かだし、みんなは優しいし、私は家族も仲がいいしね。だから帰って来ちゃった」
へへっ、と笑う。
帰って来ちゃったとは、海外留学からのことであろうな。
「海外留学って、期間が決まっていたりしそうなものですもんね」
「あー違う違う、わたし、都心の大学に行ってたの」
え、と小さく声が漏れてしまう。
悪気はないのだ、ちょっと驚いただけ。
「私ねー、都会って場所が合わなかったんじゃないかな。毎日色んな人とすれ違ってさ、知ってる人も知らない人も大勢。新しいことは多いし、みんなが気にしてることもコロコロと変わっていってさー。すごいスピードでみんなが生きてるんだよ」
遠い目をする美希さん。笑顔ではあるが、なんだか寂しそうでもある。
「大学の中なんか、もっと大変でさ。人間関係もめまぐるしく変わっていくしね、誰が付き合った、別れた、喧嘩したとか。あの人達はグループ、あの人は一人だったけど、どこかのグループに入ったとか、人物相関図を考えてたら、それこそ、あみだくじになっちゃう感じ」
へ、へぇ、と分からないなりに相槌を返す。
はははと美希さんがこちらを見て笑う。
「彼氏が出来た、別れた、よりが戻った、またフラれた。今度は別の人が彼女になってって言って来た。そしたら、なぜか毎日話してた友達と急に仲が悪くなったりもした。もう頭の中では、何が何だかって感じ。なんか、そういうのに疲れちゃった」
村の中学では人が少なすぎて、
彼氏だとか、付き合うとか、まるで都市伝説のように思っていたけど、
隣にいる美人が口に出すと、信ぴょう性も高まるというもの。
しかし、私が思っているほど、良い物ではない存在なのかもしれない。
「だから大学も辞めちゃったの。まー、御前ちゃんには、ちょっと早かったかな。こういうドロドロは」
ふふーん、と鼻を鳴らして笑う美希さん。
なんか負けた気分だが、知らない世界なのは事実だ。
さっきの口ぶりでは、知らない方がいいと言われているような気もする。
「た、大変なんですね、都会って」
「どうだろう。私の肌には合わなかったってだけじゃないかな。だから帰って来たの」
美希さんが大きく手を上げて伸びをする。
「まあ、でも、また出ていくとは思う」
「え? また都会に戻るんですか?」
驚いて顔を見る。
首を静かに振っている。
「私、留学してた所が好きでさ。いつかまた行こうって思ってたけど、もう住んじゃおうかなって」
「えっと、それって、海外のことですよね?」
「そ、楽しかったんだよね、海外の生活って。住んでる人も、みんな全然気取ってなくてさ。そこも随分と田舎って感じなんだけど」
はははと美希さんが笑う。




