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歴史に娶られ  作者: 剛申
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第二十話 誇り





お式が終わって境内に集まるスーツの人達。

その中にいた佳乃さんが、早足でこちらに向かって来る。


「紗凪ちゃん、ケーブルテレビの撮影があるみたい。市長さんと並んでって」


「え、私がですか?」


「うん、私も一緒に行くから」


どうやら安全祈願のお式が終わった後の市長さんと、私達を並べて撮影するらしい。

さっき失敗したばかりの私などをカメラで撮って、いったい誰が喜ぶのやら。

気乗りしないまま、境内でカメラを向けられている市長さんの隣に向かう。


「お疲れ様です。今日はありがとうございました」


にこやかな笑顔と、大きな声の市長さん。

私の失敗なんて、まるで見てもいなかったかのようだ。

どうもとお辞儀して返す。


「それでは、早速インタビューを始めましょうか」


カメラマンの隣にいるおじさんが、マイクを市長さんに渡しながら言う。


「市長、今回の安全祈願の趣旨を説明してもらえますか」


「はい、この地域は大雨も多く、歴史的に見て何度も土砂による災害に見舞われてきました。地域の皆様による、数百年の歴史ある植林活動、そして、市としての大規模防災工事も実施されてから久しく、ここ数十年は大きな災害に見舞われていませんが、今年も、災害が起きないように、また、市の補修工事もありますから、それらの安全を願い、皆様が普段通りの生活が出来るようにと、今日、この山蛇大社で安全を祈願してきたところです」


お、おお……。

すごい、さっと出された質問に長文で返す市長さん。

事前に考えていたのだろうか。そうだろうな、きっと。


「それでは、次は、山蛇の御前の方に質問をしたいと思います」


おじさんがそういうので、佳乃さんの番かと思って顔を向ける。

しかし、佳乃さんはにこやかに私の方を見ている。

はい、どうぞと市長さんが私にマイクを渡してくる。

え、私か、私の番か?


「ど、どうも」


マイクを受け取りながら、しどろもどろ。


「ここ山蛇大社には、山蛇の御前という歴史ある役割があるとお聞きしていますが、どういう役割の方なのでしょうか」


わ、私が答えていいのか、この質問!

佳乃さんを見ると、にこにこの笑顔をこちら向けている。

私が答えられると踏んでいるようだ。まじか。


「や、山蛇の御前様は、山に居る神様の、山蛇様の妻になる人で、山蛇様が怒らないように、なだめる役です」


こ、これでいいか?

テレビ局の人らしきおじさんが、私を見つめている。

駄目だったか、今の回答じゃ。


「なるほど、今年、山蛇の御前は代替わりを迎えられましたね。就任式では緊張されている様子でしたが、あらためて、ご就任された今のお気持ちを教えてくれますか」


き、気持ちだと?

自分でも頭の中で“もやもや”しているのに?

ど、どう言うべきか……。


「せ、先代の御前様のことを見て、すごいなと思いながら、色々教えてもらってます」


はははとみんなが笑う。

よ、よかったのか、これで?


「山蛇の御前は、地域の人たちの相談役でもあり、導き手でもある、歴史的に見れば、そういう役割でもありましたよね。今でも地域住民を支える大切な役と聞いています。地域の皆様からの期待も向けられていると思いますが、ご自身のお気持ちはいかがでしょうか?」


どきんと心臓が鳴る。

突然脳内で、前に母の言っていたことが思い出される。


“小さい頃から神社にはお世話になってきましたし、御前様にもよくしていただきました。人生の節目には、御前様に何度も相談に乗っていただき、助けて頂きました”


“尊敬する御前様のように、村に必要とされる御前様に紗凪がなってくれるのなら、これほど親として誇らしいことはありません”


唇がピクッとする。


「紗凪ちゃん?」


佳乃さんに声を掛けられてビクンとする。

ケーブルテレビのおじさんたちも、不安そうに私を見ている。

こ、答えなきゃ。


「わ、私も、先代の御前様と同じように、みんなに必要とされて、誇りに思ってもらえるような、そういう人になりたいと思っています」


うんうんとケーブルテレビのおじさんが頷く。

何故か胸の奥が痛む。

気持ちもどんより重くなる。

これで良かったはずだ。これを見たら、きっと母も喜ぶに違いない。

これで正解だったはずだ。


きっとそうだ。


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