表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
歴史に娶られ  作者: 剛申
16/45

第十六話 夫婦喧嘩





夕方、いつもならグウジさんたちは帰る時間なのに、今日は一向に帰ろうともしない。


「あ、あのー」


「どうしたんだい? お嫁さん」


香織さんが顔を向ける。


「今日は、まだお仕事があるんですか?」


ああ、と言う顔。


「今日は氏子の方々の集会があってね。夜のほうが集まりやすいから」


集会か。もしかしたら母が来るかもな、と、ぼんやり考える。


「またお茶を出してもらうかもねぇ。お手伝い頼める?」


また人の多い所に行くのかと、肩の荷が重くなるが、断れる勇気など無い。

わかりました、と口に出す。


「ありがとうね、後で声を掛けるから」


ははっと乾いた笑いをして見せる。

にこにこして仕事に戻る香織さん。はぁー……。


「こんばんは」


そうこうしているうちに社務所の前を、一人、また一人と年配の人が通り過ぎる。

ウジコの方々という人達だろう。それが何かは知らないが、おじいちゃんもウジコだったらしい。生きていたら、同じようにここを通り過ぎていたに違いない。


「さあ、お嫁さん、お茶を用意しましょうかねぇ」


はい、と言って香織さんについて行く。


「ああ、今代の御前様」


早速だ。

お盆を持って広間に入ったら早速バレた。

一斉におじさん、おばさんに見られる。


「頑張っているんだってね。聞いているよ」

「もうここには慣れたかい?」


恥ずかしい。

なにより次から次へと声を掛けられるので、返事を考える暇もない。

はあ、まあ、はい、と連続で返していく。


「紗凪!」


聞きなれた声、これは母だ。

振り返る。意外なことに父もいる。


「お母さん、お父さんも」


「偉いわね。頑張っているのね」


少し涙ぐむ母。

まだお茶を出している場面しか見ていないはずだが。


「どうも、皆さま、お揃いですかな?」


グウジさんが入ってくる。

みんながそれぞれに好き勝手に挨拶を返すので、広間はがやがやとする。

続いて、こんばんはと入ってくるネギさん。

さらに増して、がやがや。


「皆さま、夜分に御足労頂き、ありがとうございます」


佳乃さんが入ってくる。


「おお、御前様!」

「御前様、お疲れ様でございます」

「お邪魔致しておりますよ、御前様」


一段と賑わう広間。

いつもは静かな部屋なのに、なんか違う部屋みたい感じるな。

ふふっと笑う佳乃さん。


「さあ、紗凪ちゃんも、ここに座って」


佳乃さんが隣の座布団を、とんとんとする。

すすすと、佳乃さんに隠れるようにそこへ座る。


「さあ、夜も遅いですし、早速始めましょうか。紗凪ちゃんもお夕食がまだですしね」


佳乃さんの軽口に、はははとみんなの笑い声。

グウジさんが大きく頷いて話始める。


「本日ですが、皆さまとは本年度の予算についてお話しなければなりません」


すっと静かになって聞き始める。


「ご存じの通り、この度、御前様の代替わりもありましたが、先代御前様も引き続き、お勤めをされたいというお考えでございまして」


おお、と一斉に拍手が巻き起こる。

ふふっと笑う佳乃さん。


「あー、こほん、今代御前様への指南役も必要でありますから、お住まいになられるためにも、一部をその費用に充てたいと考えておりまして」


もちろんだ、と大きい声と、みんなの笑い声。


「ありがとうございます御前様。よかったわね、紗凪」


にこにことする母。

私の意見を代弁したかのように、こちらを見るのはやめてくれないか。

よかったのか以前に何が起きているのかすら分かってないぞ、私は。


「この山蛇大社は、私の家のようなものですから。私の先代に当たる御前様も、そうしてくださいましたので、わがままを言って申し訳ありません」


頭を下げる佳乃さん。

いやいやいやとみんなから聞こえる。


「こほん、そういう訳でございますから、本年度より夏祭りの予算を引き下げる予定で御座います。ご理解いただけますでしょうか」


グウジさんの話に、ああ、わかった、それはもちろん、と口々に返す。

ありがとうございますと笑顔を返す佳乃さん。


「あ、あの、お話の途中ですいません。発言、よろしいでしょうか」


驚いた。父が手を上げている。


「どうぞ、宮川さん、いかが致しましたか?」


グウジさんが父をにこやかに見る。


「も、もしですが、予算に問題があるのなら、紗凪は家に住まわせたいと思いますが」


少しギクシャクとしながら父が言う。

この神社の部屋にも慣れ始めていたので、家の話が突然出てきて驚く。

ざわざわと他の人も驚いているように見える。


「ちょ、ちょっと! あなた!」


母が割って入る。


「いや、しかしな! ほら、紗凪もどうなんだ?」


突然大勢の前で夫婦喧嘩がはじまったのかと焦る。

そして、そこに私を巻き込むな!

とっさに手を伸ばす。


「ちょ、ちょっとストップ、ストップ、お父さん、お母さん!」


ふうっと大きな溜息を吐いて、座り直す父。

がやがやと広間は騒がしくなる。

ああ、もう、いきなり問題を起こさないでくれ。


「紗凪ちゃん」


佳乃さんが私に顔を向ける。


「は、はい」


「お部屋で待っていてくれないかしら。ご飯になったら呼ぶから」


にこやかに言う佳乃さん。

これはどうにも嫌な予感がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ