第十三話 お茶出し
「紗凪ちゃん、いいかしら?」
社務所を覗く佳乃さんが手招きする。
来た。きっと違うお役目に違いない。
美希さんを見ると、“行ってらっしゃい“と手を振られる。
頷いて佳乃さんのほうに向かう。
「紗凪ちゃん、もうすぐ広間に沢山お客様が来られるの、お茶をお出ししてもらえるかしら」
お客様?
「香織さんがお茶を用意してくれているから、お渡ししてくれるだけでいいの」
「わかりました。台所に行ったらいいですか?」
ええ、と笑顔で頷く佳乃さん。
私も頷いて台所へ向かう。
広間の近くに行くと、がやがやと話声が聞こえる。
襖が開いていて、中が見える。黒の着物を着た人や、スーツの人、それも沢山。
なんの集まりだろう。前の廊下をそそくさと通り過ぎる。
斜め向かいの台所に入ると香織さんがお湯を沸かしている。
「あ、お嫁さん、お願いね。お茶碗を出してもらえるかしら」
「あの、これってなんの集まりですか?」
「ああ、今から結婚式があるのよ」
結婚式と聞いて、数日前の自分の花嫁姿が思い出される。
まさか、山蛇の御前の結婚式をもう一度やるのか?
いや、違うよな。そう何度もやるものじゃない気もするしな。
それに今日は、私は巫女服のままだしな。
「あのー……、結婚式ですか?」
「うん、そうよ。一丁目の娘さんのね。たしか、二十五になるんだったかねぇ」
あー、よかった。私じゃなくて、別の人のか。そうだよな。ちょっと安心。
「遠くの県に住んでいたはずだけどね。結婚式は地元でってね」
へえ、と相槌を打ちながら、お盆にお茶碗を並べていく。
そこへ、やかんからお茶を注いでいく香織さん。
「悪いけど、順番にお渡しして来てくれるかい?」
はいと言って、お盆を持ち上げる。
気をつけてね、と心配そうな香織さん。
そろりそろりと広間にお盆を持って入る。
ゆっくりと座敷机の上に置く。
黒い服の人達がチラチラとこちらを見る。
き、緊張するな。
「ど、どうぞ」
近くに座っている人からお茶を渡していく。
「どうぞ」
少し歩いて隣の人へ。
そして、また取りに戻って、その隣へ。
受け取った人も、それぞれにどうも、と言う。
よーし、順調だぞ、私!
「あの」
歳のいった年配の女性から急に声を掛けられ、お茶碗が揺れる。
あぶねーっと思いながらも、何食わぬ顔をしてお茶を差し出す。
「はい、何か?」
平静を装う私。
「あなた、御前様じゃないかい?」
ドキッとする。
人々が一斉にこちらを見る。
どど、どうしよう……。
「は、はい……。今代、御前、と、言われてます」
もじもじと自信なく言う。
この返答で合っていたか?
「そうかい、そうかい、ありがとうねぇ」
年配の女性に頭を下げられる。ありがとう?
「今代の御前様、村をよろしくね」
「頑張ってね」
周りの人も私を見て口々に言う。
ど、どういうことだ。見ず知らずのはずだが。
私もたまらずペコリと頭を下げる。
そして、そそくさと早足でお茶を渡していく。
その都度、ありがとうね、よろしくね、頑張ってねと言われる。
なんだか恥ずかしい。
なんとかお茶を出し切って、ペコリして、即逃げる。
「はあ、はあ、戻りました」
お盆を持って台所へ。変な汗が流れる。
「お嫁さん、どうしたの? 大丈夫かい?」
香織さんが心配そうにこちらを見る。
「な、なんとか……」
息も絶え絶えに返答。
それを見て香織さんが私を椅子に座らせる。
「無理はしちゃあ駄目よ。きっと、疲れがでたんだね。後は私が持って行くから、座ってて」
お盆をにお茶椀を並べて、香織さんが持って行ってくれる。
なんだか頭がぐるぐるし始める。
私が山蛇の御前なのは、村のみんなが知っている。きっとそういうことだ。
いつの間にそうなっていたんだ? どうしてそうなったんだ?
ぐるぐるぐるぐる。
や、やめだ!考えると疲れる!
なにか、もっと単純なことを考えよう。落ち着け、何かないか、何か。
もう何でもいい。よし、可愛いは、とても良い。可愛いは、とても良い。
脳内で念仏を唱えるかのように繰り返す。




