第十一話 試練
平日は参拝客らしき人がいないのだが、
土日には数人が来はじめ、帰ったなと思ったら別の参拝客が来る。
人の流れが途切れないので、こんな田舎の神社でも、実はそれなりの観光地だったんじゃないのかと疑い始める。
山蛇の御前とは何か。
ぐるぐると考えて生活しているうち、あっという間に数日が過ぎた。
佳乃さんと二人きりになる時間は気まずかったけど、
ご本人は何事もなかったかのようにしているので、私も何も聞けなかった。
「紗凪ちゃん、どうかな? 窓口対応で、分からないことない?」
社務所の窓口に座る私を、佳乃さんが覗き込む。
「い、今の所は……」
「しばらく席を離れるから、分からないことがあったら香織さんに聞いてね」
笑顔で去って行く。
休日の神社は忙しいらしく、佳乃さんは行ったり来たり。
グウジさんも、ネギさんも社務所には戻って来ない。
頼みの綱は香織さんだが、その香織さんでさえ席を離れていることが多い。
「あのー」
「は、はい!」
窓口の外から参拝客に声を掛けられてビクっとする。
「えーっと、山蛇人形おみくじをひとつ」
「はい!え、えーっと五百円です!」
財布から千円札を取り出す、参拝者。
おつり、おつりだ、五百円おつり!
わちゃわちゃとしながら五百円玉を返す。
「は、はいどうぞ、ここから好きなの選んでください」
小さい蛇人形が並んでいるところを指し示す。
どれにしようかな、と言いながら一つを持って去って行く。
「あ、ありがとーございましたー!」
はあ、やり切った。無事にお役目を果たせたぞ。
肩をなでおろして安心したと思いきや、ほどなくして次の参拝者。
そのたびにわちゃわちゃ。おつりを間違えないかとヒヤヒヤ。
数名の参拝客が過ぎ去ってどっと疲れる。
これがまだ数時間も続くのか。耐えられるか、私。
「あー、すいませーん」
顔を上げるとおじさんが本のような物をこちらに差し出す。
「あの、えーっと?」
差し出された本をよく見ると、御朱印という文字。まさか。
「御朱印、お願いします」
で、出たー!御朱印帳だー!
“うちのはスタンプと日付だけだから簡単よ”
今朝そう言われて練習したら、佳乃さんが微妙な顔をした奴!
「ご、ごご、五百円です」
「はい」
差し出された五百玉を震えながら受け取る。
「しょうしょう、しょ、少々、お待ちください」
ブルブルと震えながら、後ろの机に移動。
置かれた二色の大きい朱肉と、スタンプ。
そろりそろりと手を伸ばす。
だ、ダメだ!私では!誰か別の人にやってもらおう!
助けを求めるように香織さんの席を見る、が、いないー!
香織さんが席を外している!
窓口の向こうを見ると、ニコニコ待っているおじさん。
や、やるか、私が、この私が。この私がやっていいのか?
これは練習ではない。ましてやおじさんの持ってきた物。ただの紙ではない。
泣いても、笑っても、一度切りの真剣勝負である。
深呼吸をして、息を整える。
い、いくぞ。美術は2、されど、書道を数年学んだ私。
絵心は無いとはいえ、これはただのスタンプ。
二色のスタンプを、二回押すだけ!!
間違ってないよなとスタンプの面を見て確かめ、いざ朱肉へ。
そして、紙の上に持って行く。
震える手。自分の呼吸音が聞こえる。息が荒い。
こ、ここだ、行けー!
筆で日付を書き込み、完成する御朱印。
スタンプの位置が大きくズレ、交じり合わないはずの色は交差。
そもそも、べちょべちょではある。しかし、これで完成。
完成させてしまったのだ。御朱印とやらの下手なスタンプを、私の手で。
佳乃さんの見本と見比べては決してならぬ。
「か、乾くまで、開いておいた方がいいかも」
しどろもどろにおじさんに渡す。
スタンプを見て確認。
「力強い御朱印だねぇ」
ありがとう、とニコニコで去って行くおじさん。
よ、よかった、のか?出来ていたのか?成功したのか、私は。
ふーっと大きくため息。
よし、どうだ、やってやったぞ。
小さくガッツポーズ。
母がさっきの私の雄姿を見ていたなら、きっと泣いていたに違いない。




