EP 25
野球は1球で終了! そして伝説の廃村へ
「プレイボール!」
ドラケン族長の咆哮と共に、異世界ベースボール――もとい、竜人族との決闘が始まった。
先攻は俺たち人間チーム。
マウンドには、全長50メートルの古龍が立ち、鼻息荒く炎を吹いている。
1回の表。俺はバッターボックスに立つクラウスに声をかけた。
「おいクラウス。悪いが、9回まで付き合う気はない」
「なに? どういうことだ大地君」
「見ててみろ。……PC、『重力制御アプリ』起動。出力最大」
俺はPCのエンターキーをッターン! と叩いた。
同時に、リーシャが開発した『次元捕食ミット』の出力を、俺の手元のボールに逆流させる。
「えっ、ちょっ、大地!? それやるとボールがブラックホール化するわよ!?」
「構わん。めんどくさいから全部吹き飛ばす!」
俺はマウンドの古龍に向かって、ボールを放り投げた。
全力投球ですらない。ふわりとした山なりのボールだ。
だが、そのボールは空中で漆黒の闇を纏い、周囲の空間ごと捻じ曲げた。
「グルァァァッ!!(舐めるな人間!)」
古龍が迎え撃とうと、剛速球のようなブレスを吐く。
しかし。
ズオォォォォォン……!
俺の投げた『超重力魔球』は、古龍のブレスを、衝撃波を、そして古龍が持っていた巨大な棍棒さえも、掃除機のように吸い込んで消滅させた。
「「「なっ……!?」」」
竜人族たちの目が飛び出る。
ボールは古龍の鼻先でピタリと止まり、パチンと弾けて消えた。
もし直撃していれば、古龍の頭部が消滅していただろう。
「……ストライク。バッターアウト」
俺は静かに告げた。
シン……と静まり返る天空の城。
次の瞬間、ドラケン族長が土下座した。
「ま、参りましたぁぁぁッ!! 我らの負けだ! これ以上やると城が消えるぅぅッ!」
試合時間、わずか30秒。
俺たちのコールド勝ちが決まった瞬間だった。
†
「はっはっは! いやー、良い汗をかいたな!」
数時間後。
俺たちは空の上にいた。
ただし、飛行船『スレイプニル』ではない。
野球対決で屈服させた古龍の背中に乗り、優雅な空の旅を楽しんでいた。
「何もしてないでしょう、あなた」
リーシャが呆れたようにクラウスに突っ込む。
結局、クラウスはバットを一度も振ることなく試合が終わってしまったのだ。
「それで大地、私たちはどこへ向かっているの? 帝都に戻るんじゃないの?」
キャルルが古龍の背中から身を乗り出して聞いてくる。
俺はPCの『地図アプリ』を開き、現在地を確認した。
「帝都には戻らない。……俺たちは、新しい拠点を作る」
「拠点?」
「ああ。帝都は便利だが、ゴルド商会や軍部の目があって窮屈だ。俺が欲しいのは、誰にも干渉されず、PCの研究とスローライフができる自分だけの城だ」
俺は画面を指差した。
大陸の中央部。
『ルミナス帝国(人間)』、『レオンハート獣人王国(獣人)』、『ワイズ魔皇国(魔族)』。
この三大国が接する国境地帯に、ぽっかりと空白の地がある。
「ここだ。通称『ポポロ村』」
「ポポロ村……? 聞いたことないわね」
「昔は交易で栄えたらしいが、三国の戦争の最前線になりすぎて、誰も住まなくなった廃村だ。今はどこの国の領土でもない『中立地帯』になっている」
俺の言葉に、クラウスが眉をひそめた。
「むぅ。無法地帯ということか? そんな危険な場所に住むなど……」
「逆だ。国境だからこそ、誰も手を出せない。それに、俺のPCの地質調査データによれば、ここにはとんでもない『資源』が眠っている」
俺はニヤリと笑い、古龍の首を叩いた。
「降りてくれ! そこが俺たちの新居だ!」
古龍が大きく旋回し、高度を下げる。
眼下に広がっていたのは、見渡す限りの荒野と、崩れかけた石造りの家々が並ぶ、完全なる廃墟だった。
雑草が生い茂り、井戸は枯れ、屋根は抜け落ちている。
「うわぁ……ボロボロ……」
「ここに住むの? 野宿の方がマシじゃない?」
キャルルとリーシャが顔をしかめる。
だが、俺には見えていた。
この廃墟の下に眠る、莫大な可能性(と金脈)が。
「安心しろ。俺のPCと、リーシャの魔法があれば、ここを一週間で『楽園』に変えてみせる」
俺たちは荒れ果てた広場に降り立った。
そして、勝利報酬としてドラゴンから貰った『大量のドラゴンの糞(最高級肥料)』と、遺跡の宝を積み下ろす。
「まずは整地だ。……始めるぞ、俺たちの『国作り』を!」
三大国の緩衝地帯、ポポロ村。
後に大陸全土を揺るがすことになる、伝説の「中立都市」の歴史は、ここから始まった。
……まずは、今日の寝床を張るところからだけどな。




