EP 24
リーシャの魔改造! 「自動追尾バット」と「鉄壁のミット」
プレイボール直前。
俺たちは戦慄していた。
ズドォォォンッ!!
マウンドで肩慣らしをしていたドラケン族長が、軽く放った「ボール(岩塊)」が、キャッチャー役の竜人の手元で衝撃音を立て、背後の石壁をクモの巣状にひび割れさせたのだ。
「……おいおい。あれ、軽く投げて160キロは出てるぞ」
俺は冷や汗を流した。
剛速球というより、攻城兵器の弾丸だ。
あんなものを普通のグローブで受けたら、腕ごと持っていかれる。バットで打とうとすれば、衝撃で全身の骨が砕けるだろう。
「キャルル、絶対に素手で触るなよ。即死するぞ」
「わ、わかってるわよ……! あんなの、当たったらミンチじゃない!」
キャルルも尻尾を丸めて震えている。
やはり、道具の差が絶望的だ。
向こうは岩のような肉体を持っているが、こっちは生身の人間なのだから。
「ふふん。だからこその『科学(PC)』と『魔法(私)』でしょう?」
そんな絶望的な空気の中、リーシャだけが不敵な笑みを浮かべていた。
彼女はフィールドの端に簡易的な工房(魔法陣)を展開し、PCの画面を食い入るように見つめている。
「大地、あなたのPCにある『野球道具の構造図』……完璧に理解したわ。これを竜の素材と私の魔法で『最適化(魔改造)』すれば……勝てる!」
リーシャが白衣を翻し、作業に取り掛かる。
彼女の手には、先ほどの遺跡探索で拾い集めた『古代竜の骨』や『ミスリル鉱石』、そして『重力石』が握られている。
「さあ、まずは守備の要! 『ミット』からよ!」
バチバチバチッ!!
リーシャが錬金術のような魔法を発動させる。
革と金属が融合し、禍々しいオーラを放つ「グローブのような何か」が完成した。
「完成! 『次元捕食ミット(ディメンション・イーター)』!」
リーシャがドヤ顔で掲げたそれは、掌の部分に小さなブラックホールのような黒い渦が巻いていた。
「ボールが当たる瞬間に『重力結界』を展開し、運動エネルギーをゼロにするわ。これなら、どんな剛速球でも赤子の手をひねるようにキャッチできるわよ!」
「……それ、うっかり手を滑らせたら味方が吸い込まれないか?」
「大丈夫よ、多分!」
俺は引きつった笑みを浮かべ、そのミットをキャッチャー役のゴーレム1号に装備させた。
ゴーレムがミットを構えると、周囲の空間が歪んで見える。……鉄壁だ。
「次は攻撃の要! 4番打者用のバットね!」
リーシャは次に、巨大な竜の骨を削り出し、内部に『爆裂魔法の術式』を刻み込み始めた。
さらにグリップ部分には、バイクのアクセルのようなトリガーを取り付ける。
「できたわ! 『爆砕・インパクト・バット』! ボールに当たる瞬間にトリガーを引けば、先端から爆発が起きて、その推進力で打球を加速させるわ!」
「それ、バットっていうかパイルバンカーだろ……」
もはやスポーツ用品ではない。兵器だ。
だが、相手がドラゴンならこれくらい必要だろう。
俺はその凶悪なバット(棍棒)を手に取り、クラウスの元へと向かった。
「クラウスさん、頼む。これが今回のあんたの相棒だ」
「む?」
クラウスは手渡された『爆砕・インパクト・バット』をまじまじと見つめ、眉をひそめた。
「大地君。私は騎士だ。剣以外の武器は扱わん主義でね」
「……え?」
「これはどう見ても『鈍器』ではないか。騎士道に反する野蛮な武器だ。私は断る!」
クラウスがプイッと顔を背ける。
この期に及んで何を言っているんだコイツは。
「い、いや待てクラウス! これはただの鈍器じゃない。……伝説の『雷神の鉄槌』を模した、高貴な騎士専用の武器なんだ!」
「……なんだと?」
「高貴な」「伝説の」という単語に、クラウスの耳がピクリと動く。
「このバットの形状は、敵の装甲を打ち砕くために計算され尽くした『打撃剣』の一種なんだよ。剣術の極意は『斬る』ことだけじゃない。『砕く』こともまた、騎士の嗜みだろ?」
「ふむ……確かに、我が家の古文書にも『剛剣は岩をも砕く』とあったな……」
クラウスが単純な思考回路で納得し始めている。
俺は畳み掛けた。
「それに、このグリップを見てくれ。あんたの『ライトニング・ブレイク』の魔力伝導率を最大化するよう調整してある。これを使いこなせるのは、世界であんたしかいない」
「……世界で、私だけ……!」
クラウスの瞳が輝いた。
彼はバットを恭しく受け取り、ブンッと素振りをした。
ドォォォン!!
空気が爆ぜ、衝撃波が周囲の砂埃を吹き飛ばす。
「素晴らしい……! 手に馴染むぞ! まるで私のために誂えられたようだ!」
「(実際そうなんだけどな)」
クラウスは満足げにバットを肩に担ぎ、キリッとした顔で宣言した。
「よかろう! この『聖なる打撃剣』で、邪悪な竜の玉を打ち砕いてくれよう!」
「頼もしいぜ。……ただし、絶対に味方に向けて振るなよ」
こうして、装備は整った。
アース・ナインズ(ゴーレムたち)には重装甲の防具とミットを。
キャルルには、PCのデータで作った『超軽量スパイク(瞬足ブーツ)』を。
そして俺には、リーシャ特製の『魔力増幅グローブ』を。
「おい人間ども! そろそろ始めようぜ!」
ドラケンがマウンドで吠える。
俺たちは各ポジションへと散った。
「プレイボールだ! 全員、死ぬ気で……いや、絶対に生きて勝つぞ!」
「「「オォォォッ!!」」」
異世界ベースボール、開幕。
初球から、常識外れの戦いが幕を開ける。




