EP 21
空からの乱入者! 「雷光の貴公子」推参
ドガァァァンッ!!
俺たちの魔導飛行船『スレイプニル』の甲板で、派手な爆発が起きた。
黒煙が上がる中、PCの画面には無慈悲なエラーメッセージが表示されている。
『警告:右舷スラスター出力低下。機体バランス崩壊。墜落危険度40%』
「貴様ぁぁぁッ!! 何してくれてんだぁぁぁッ!!」
俺は操縦桿をキャルルに任せ、サイドウィンドウから身を乗り出して絶叫した。
助太刀? ふざけるな! これはただの交通事故だ!
「フッ……礼には及ばんよ、迷える旅人たち!」
煙の中から現れたのは、白銀の全身鎧に身を包んだ、金髪の男だった。
背中には深紅のマント。手には雷を纏った大剣。
そして、顔はムカつくほど整ったイケメン。
背景に薔薇のエフェクトが見える気がするほど、キラキラとしたオーラを放っている。
「名乗るほどの者ではないが……通りすがりの『正義の味方』だ!」
「味方なら味方の船を爆破するなバカヤロウ!」
俺の罵声は、彼の耳には届いていないらしい。
男は爽やかに髪をかき上げると、空中に残っているワイバーンの群れを見据えた。
「まだ悪しき竜どもが残っているか。……安心したまえ! この私が来たからには、これ以上の狼藉は許さん!」
男が大剣を掲げると、刀身にバチバチと青白い稲妻が走った。
「アルヴィン流剣術・対空奥義――『サンダー・スプラッシュ』!!」
ズドドドドドドッ!!
彼が剣を振るうと、無数の雷撃が雨のように周囲へ撒き散らされた。
それは確かにワイバーンたちを撃ち落とした。
だが、その射程範囲はあまりに広すぎて――
「危ねぇっ! こっちにも飛んできてるぞ!」
「きゃぁぁっ! 大地、避けてぇ!」
操縦席のキャルルが悲鳴を上げ、船を急旋回させる。
雷撃が船体のスレスレを掠め、避雷針代わりのアンテナが焦げ付いた。
「おいコラァ! 味方を殺す気か!」
「ハハハ! すまんすまん、少々張り切りすぎたようだ! だが、悪を滅ぼすには多少の犠牲もやむを得ん!」
「犠牲になるのは俺たちだ!」
こいつ、話が通じないタイプだ。
しかも、無駄に強いのがタチが悪い。
雷撃を食らったワイバーンたちは麻痺して次々と墜落していくが、まだ数匹が生き残っている。
その一匹が、男の背後から死角を突いて襲いかかろうとしていた。
「後ろだ! バカ騎士!」
「む? ……甘いな、卑劣な魔獣め!」
男は振り返りもせず、背中の盾でワイバーンの爪を受け止める。
ガギィィン!
硬い。あの盾、ミスリル製か?
「騎士道に背く不意打ちとは嘆かわしい。……だが、今こそ反撃の時!」
男が大上段に剣を構え、溜め動作に入る。
長い。隙だらけだ。
別のワイバーンが横から炎を吐こうとしているのに気づいていない。
「チッ……世話が焼ける!」
俺はPCの画面を睨んだ。
『オート・エイミング(自動照準)』起動。
風速、偏差、相手の未来位置予測。
全てが線となって視界に表示される。
「キャルル、船を安定させろ! 一発で決める!」
俺は甲板の手すりに足をかけ、右腕を振りかぶった。
握りしめたのは、ただの石ころ。
だが、俺の技術とPCの計算があれば、それは対空ミサイルに変わる。
「落ちろォォォッ!!」
シュパァァァンッ!!
指先から放たれた石礫が、螺旋の軌道を描いて空気を切り裂く。
男に向かって炎を吐こうとしていたワイバーンの、開いた口の中へ。
正確無比に吸い込まれた。
ズドンッ!
喉奥を撃ち抜かれたワイバーンは、断末魔も上げずに墜落していった。
「……なっ!?」
剣を振り下ろそうとしていた男が、動きを止めて目を丸くした。
「い、今のは……魔法か? いや、魔力を感じなかった。弓矢にしては速すぎる……」
「ボサッとするな! 次が来るぞ!」
「お、おおっ! かたじけない!」
男は我に返り、眼前の敵を一刀両断した。
†
数分後。
ワイバーンの群れは全滅し、空には静寂が戻った。
甲板の上で、俺たちは向き合っていた。
男は剣を鞘に納めると、マントを翻して優雅に一礼した。
「助太刀、感謝する。君の援護射撃は見事だった。……して、君たちは?」
「俺は赤木大地。こっちはキャルルと、エンジニアのリーシャだ」
俺はジロリと男を睨みつけた。
「で、あんたは?」
「失礼した。私はクラウス・アルヴィン。しがない冒険者さ」
アルヴィン?
その名前に、リーシャが反応した。
「アルヴィンって……まさか、あの『公爵家』の?」
「いかにも。次期当主……ではあるが、今は武者修行の身だ」
クラウスは爽やかに笑った。
公爵家の跡取り。つまり、超のつく金持ちだ。
俺の頭の中で、電卓が弾かれる音がした。
「なるほど、公爵様か。……で、クラウスさん」
「なんだい? 礼ならいらんよ」
「修理代、払ってもらおうか」
俺はPCの画面を彼に見せつけた。
そこには、彼が着地と雷撃で破壊した甲板の修理見積もりが表示されている。
『修理費概算:500万エン(および慰謝料)』
「……え?」
「あんたの『正義の雷』のせいで、俺たちの船はボロボロだ。当然、弁償してくれるよな? ノブリス・オブリージュ(高貴なる者の義務)ってやつで」
クラウスの顔が引きつった。
彼は慌てて自分の懐を探り……そして、青ざめた。
「そ、そういえば……財布を、下の森に落としてきたかもしれん……」
「はあ!?」
「だ、だが待ってくれ! アルヴィン家の名にかけて、借りは必ず返す!」
クラウスは俺の手をガシッと握り、熱い眼差しを向けてきた。
「金はないが、体はある! 君たちの旅に同行し、この剣で護衛することで償わせてくれ! 目的地まで、私が盾となろう!」
……めんどくさい奴に捕まった。
金はないが、戦力としては一流(Aランク相当)だ。
それに、公爵家の名前があれば、この先の通行手形代わりになるかもしれない。
「……はぁ。わかったよ」
俺はため息をついて、彼の手を振り払った。
「その代わり、船の掃除と雑用もやってもらうからな。歓迎するぜ、新入り」
「うむ! 任せてくれ! 正義の探求者クラウス、今日から君たちの剣となろう!」
こうして。
俺たちのパーティに、無駄にキラキラした『勘違いエリート騎士』が加わった。
目指すは、雲の彼方にある天空の城――『セレスティア遺跡』だ。
「ところで大地君。さっき君が投げたアレ、なんという流派だ? 実に美しかった」
「……野球だよ」
「ヤキュウ……? 東方の古武術か? 興味深い!」
……先が思いやられる。




