EP 19
大団円、そして新たな旅立ち
クレーターの中心で、俺は青く輝く『月光石』をキャルルへと手渡した。
「……大地、ありがとう。本当に、ありがとう……!」
キャルルは宝石を胸に抱きしめ、ボロボロと涙を流した。
母親の形見。命よりも大事なものを、俺のために一度は手放した彼女。それが今、再び彼女の手元に戻ったのだ。
「礼を言うのはまだ早いぞ。……まだ、ゴミ掃除が残ってる」
俺は視線を瓦礫の向こうへと向けた。
そこには、腰を抜かしてへたり込んでいる憲兵、ガストンの姿があった。
彼はスクラップになったゴーレムと、俺たちを呆然と見比べて、震えている。
「あ、あぁ……。俺の、最強のゴーレム部隊が……」
「おい、ガストン大尉」
俺はPCを小脇に抱え、ゆっくりと彼に歩み寄った。
ガストンがヒッと悲鳴を上げて後ずさる。
「き、貴様! 軍の兵器を破壊したな!? ただで済むと思っているのか! これは国家への反逆だぞ! 俺が報告すれば、貴様らは指名手配で……」
「報告? 誰が誰にだって?」
俺の後ろから、ドスの効いた低い声が響いた。
ガストンの顔が凍りつく。
瓦礫を踏みしめて現れたのは、多数の武装護衛を引き連れたゴルド商会の会頭、ゴルド・マッキンリーだった。
その顔には、商売人の愛想笑いは微塵もない。あるのは、自分のシマを荒らされた裏社会のドンとしての激怒の表情だけだ。
「ゴ、ゴルド会頭……!?」
「ガストン君。君の上司である将軍とは、さきほど『魔法通信』で話をさせてもらったよ」
ゴルド会頭は冷たく告げた。
「君が横流し品をオークションに出品し、その売上を着服しようとしていたこと。そして、証拠隠滅のために商会の会場を破壊したこと。……すべて、そこの大地先生が提出した『証拠映像』と共に報告済みだ」
俺はPCを開き、ガストンの密談映像と、先ほどの暴挙の録画データを改めて再生してみせた。
「嘘だ……俺は、軍のために……」
「将軍は激怒しておったよ。『そんな恥さらしは知らん。好きに処分しろ』とな」
「ひっ……!?」
ガストンの顔から血の気が引いていく。
軍という後ろ盾を失った彼は、ただの小悪党に過ぎない。
「商会の損害賠償、そしてお客様への慰謝料。……君の一族郎党、末代まで働いても返しきれん額になるが、覚悟はいいかね?」
「お、お助け……お助けくださぁぁぁい!!」
ガストンは泣き叫びながら、ゴルド会頭の足元に縋り付いた。
だが、会頭は汚いものを見るような目で彼を蹴り飛ばし、黒服の護衛たちに顎でしゃくった。
「連れて行け。鉱山送りにでもして、死ぬまでこき使え」
「いやだぁぁぁ! 俺はエリートなんだぁぁぁッ!!」
無様な絶叫を残し、ガストンは会場の奥へと引きずられていった。
完全なる破滅。因果応報だ。
†
騒動が一段落した後。
俺たちはゴルド会頭と向き合っていた。
「……ふぅ。とんだ夜になったが、おかげで助かったよ、大地先生」
会頭は葉巻を取り出し、ふかした。
「あのままゴーレムが暴れていれば、商会の信用は地に落ちていた。君のおかげで首の皮一枚繋がったわい」
「俺は自分の用事を済ませただけですよ。……で、話というのは?」
俺が尋ねると、会頭は横に控えていたリーシャを見た。
「彼女の借金、2億エンの件だが……。君が導入してくれた『複式簿記システム』と、今回の騒動の解決料でチャラにしよう」
「本当ですか!?」
「ああ。それに、君にはまだまだ稼いでもらわねばならんからな。『特別顧問』として」
会頭はニヤリと笑い、俺の手を固く握った。
借金帳消し。これでリーシャは完全に自由の身だ。
「やったわね、リーシャ! これで晴れて自由よ!」
キャルルが抱きつくと、リーシャは「ふん」と鼻を鳴らした。
「別に、嬉しくなんかないわよ。……でもまあ、研究環境(PC)が手に入るなら、こいつについて行ってあげてもいいわ」
素直じゃないが、その口元は緩んでいる。
「よし。これでパーティ結成だな」
俺は二人のヒロインを見渡した。
最強の近接格闘家、キャルル。
天才魔導エンジニア、リーシャ。
そして、異世界の知識とPCを持つ、元球児の俺。
バランスは完璧だ。
「大地、次はどこへ行くの?」
キャルルが瞳を輝かせて聞いてくる。
俺はPCの『地図アプリ』を開き、次なる目的地を検索した。
この世界には、まだまだ俺の知らないこと、PCの知識で解決できること、そして稼げるネタが山ほどある。
「そうだな……。リーシャの技術があれば、空だって飛べるかもしれないし、海だって渡れるかもしれない」
俺はニヤリと笑った。
「行こうぜ。世界の果てまで、このPCと魔球で『攻略』してやる!」
俺たちの成り上がりは、まだ始まったばかりだ。
夜明けの光が差し込むオークション会場の出口へ向かって、俺たちは力強く歩き出した。




