EP 18
必殺! 紅蓮・ジャイロ・バースト!!
「キャルル、伏せろぉぉぉッ!!」
俺の絶叫が、瓦礫の山に木霊した。
壁際に追い詰められ、3体の巨大な鉄拳が迫っていたキャルルが、俺の声に反応して瞬時に身を屈める。
ドォォォンッ!!
3つの拳がキャルルの頭上の壁を粉砕した。彼女の長い兎耳が、衝撃風で吹き飛ばされそうになる。間一髪だ。
「今だッ!」
俺は瓦礫の陰から飛び出し、ゴーレムたちの側面へと回り込む。
狙うは、中央にいる一番デカい個体――先頭を切ってキャルルを追い詰めていたヤツだ。
俺はセットポジションに入った。
右手に握りしめた『魔導爆裂球』が、俺の心臓の鼓動に合わせてドクンドクンと脈打ち、灼熱の温度を発している。
「ぐぅぅぅッ……!」
熱い。掌の皮が焦げる音が聞こえるようだ。
リーシャの言った通りだ。俺の闘気でコーティングして押さえつけなければ、投げる前に俺の手の中で暴発する。
――集中しろ。
へその下、丹田に眠る熱い塊。それをポンプのように汲み上げ、右腕へ、指先へ、そしてボールへと流し込む!
ブォォォォンッ!
ボールが紅蓮の光を放ち、周囲の空気が蜃気楼のように歪み始めた。
重い。鉛の球を握っているようだ。だが、その重みこそが破壊力の証。
「(キャルルが稼いだ時間、リーシャがくれた技術、そして俺の野球……全部乗せだ!)」
俺は左足を高く上げ、全身のバネを限界まで引き絞った。
肩の関節が悲鳴を上げる。筋肉繊維がブチブチと切れる音が体内で響く。
構うものか。この一球で腕がぶっ壊れてもいい!
標的、ミスリル・ゴーレム胸部中央。距離30メートル。
俺は踏み込み、右腕をムチのようにしならせた。
指先にかかる強烈な抵抗。竜の魔力が暴れようとするのを、ジャイロ回転の技術でねじ伏せる!
「行くぞ! 必殺魔球! 紅蓮・ジャイロ・バースト!!」
ズギュゥゥゥンッ!!
俺の指先から放たれたのは、もはや石礫ではない。
螺旋の炎を纏った、全てを穿つ紅蓮の流星だった。
時速160キロ超。
初速から一切減速することなく、空気の壁を焼き払いながら一直線に突き進む。
「なっ、なんだその光はぁッ!?」
安全圏にいたガストンが間の抜けた声を上げる。
中央のゴーレムが反応し、防御姿勢を取ろうと腕を動かしかけた、その時。
すでに、魔球は着弾していた。
ガギィィィィィィンッ!!
耳をつんざく金属の衝突音が響き渡る。
魔法を反射する最強の装甲、ミスリル・コーティング。
だが、俺の魔球の表面は、物理最強の金属アダマンタイトだ。
超高速のジャイロ回転がドリルとなり、ミスリルの装甲を物理的に削り取っていく。
火花が散り、金属が焼け焦げる臭いが充満する。
そして、装甲を食い破り、ボールがゴーレムの体内に侵入した、その瞬間。
カッ!
世界が白く染まった。
圧縮されていた竜の魔力が、内部で一気に解放された。
ズドオオオオオオオオオオンッ!!!!
オークション会場を揺るがす、未曾有の大爆発。
巨大な火柱が天井を突き破り、衝撃波が嵐となって吹き荒れる。
「きゃぁぁぁッ!?」
「ちょっ、威力強すぎよバカぁッ!」
キャルルとリーシャが悲鳴を上げて吹き飛ばされる。
俺もPCを盾にして耐衝撃姿勢を取ったが、そのまま後方へ数メートル滑っていった。
もうもうと立ち込める土煙。
天井から瓦礫がパラパラと落ちてくる中、俺は痛む体を起こし、前方を見据えた。
やがて、煙が晴れていく。
「……はぁ、はぁ……嘘、だろ……」
そこに広がっていた光景に、俺自身が息を呑んだ。
標的となった中央のゴーレムは、跡形もなかった。
いや、足首から下だけが、ドロドロに溶けた状態で残っていた。
そして、その周囲。
両隣にいたはずの2体のゴーレムも、爆風に巻き込まれて上半身が消し飛び、スクラップと化して転がっている。
会場の床には、直径100メートル近い、巨大な放射状の焦げ跡が穿たれていた。
「いっ……つぅ……」
俺は右肩を押さえてうずくまった。
感覚がない。完全にオーバーヒートだ。しばらくは箸も持てないだろう。
「……勝った、のか?」
静寂が戻った会場で、誰かの呟きが聞こえた。
俺はよろりと立ち上がり、瓦礫の山を乗り越えて進んだ。
クレーターの中心。
溶けた金属の中に、キラリと光るものが落ちていた。
青く輝く、三日月型の宝石。
ゴーレムの動力源として組み込まれていたのか、あるいはガストンのポケットからこぼれ落ちたのか。
奇跡的に無傷で残っていた『月光石』を、俺は拾い上げた。
「……キャルル!」
俺は振り返り、瓦礫の中から這い出してきた銀髪の少女に向かって、その宝石を高く掲げてみせた。
「約束通り……取り返したぞッ!」




