EP 17
即席開発! 禁断の魔球
「こっちよ、鉄屑ども! 私のスピードについてこれる!?」
キャルルが叫び、会場の壁を蹴って三角跳びで宙を舞う。
ドレスのスカートを太腿まで引き裂いた彼女の動きは、銀色の閃光そのものだ。
ブンッ!!
ゴーレムの丸太のような腕が空を切り、石柱を粉砕する。
キャルルはその瓦礫の上に着地し、挑発するように尻尾を振った。
「遅い遅い! 止まって見えるわよ!」
彼女は軽口を叩いているが、その額には玉のような汗が滲んでいる。
ゴーレムは3体。しかも、いくら殴ってもダメージが通らない相手に対し、キャルルは回避に専念せざるを得ない。一発でも掠めれば即死級の攻撃を、薄氷の上を走るような集中力で避け続けているのだ。
「ちっ、あの石頭! 私の『泥沼』も効かないなんて!」
後方から援護するリーシャが、悔しげに杖を振るう。
彼女が放ったのは、床を滑りやすくする初歩的な魔法だが、ゴーレムの足裏から伸びたスパイクがあっさりと無効化してしまった。
「大地! まだなの!? あの子、もう限界よ!」
「あと10秒だ! そのまま耐えろ!」
俺は瓦礫の影に身を隠し、PCの画面と、散乱したオークションの商品たちを交互に睨みつけていた。
俺の頭の中には、すでに『設計図』ができている。
あのミスリル装甲をぶち抜くには、外からの衝撃じゃ足りない。
ドリル(ジャイロ回転)で装甲をこじ開け、内部に直接、極大の爆発エネルギーを流し込む『徹甲榴弾』のようなボールが必要だ。
だが、普通の石では、俺の全力の闘気と回転に耐えきれず、投げる瞬間に自壊してしまう。
素材がいる。とびきり硬くて、魔力を溜め込める素材が。
「PC、マテリアル・スキャン! 周囲の残骸から適合素材を検索!」
カメラアプリが瓦礫の山をスキャンし、即座に結果を弾き出す。
『適合素材発見:右3メートル。「竜の心臓石」』
『適合素材発見:左5メートル。「アダマンタイトの欠片」』
あった。
ガストンのゴーレムが暴れたせいで、陳列されていた宝物が散乱している。
俺は転がるように走り、瓦礫の下から赤く輝く結晶石と、黒光りする金属片を拾い上げた。
「リーシャ! こっちだ!」
「なによ、人使いが荒い……わっ!?」
俺は駆け寄ってきたリーシャの手に、拾った素材を押し付けた。
「これを使って『ボール』を作れ! 今すぐにだ!」
「はぁ!? あんた正気!? 『竜の心臓石』はS級の火属性魔石、アダマンタイトは最高硬度の金属よ!? これを融合させるなんて、専用の工房で3日はかかるわよ!」
「3日も待てるか! 俺が欲しいのは『即日納品』だ!」
俺はPCの画面を彼女に見せた。
そこには、俺が計算ソフトで弾き出した、二つの素材を強制的に融合させるための『魔力波長パターン』が表示されている。
「お前の『魔導具作成スキル』と、この『最適解』があればできるはずだ! 天才なんだろ、リーシャ・ヴェルデ!」
天才。
その言葉に、リーシャの眼鏡の奥の瞳が怪しく光った。
「……フン。煽ってくれるじゃない」
彼女は口元を吊り上げ、マッドサイエンティストの笑みを浮かべた。
「いいわよ、やってやるわ! 私の技術と、あなたの知識(計算)……。これだけの無茶振り、燃えないわけがないわ!」
リーシャが杖を掲げ、二つの素材を空中に浮かせる。
彼女の全身から膨大な魔力が溢れ出し、素材を包み込む。
「合成魔法・強制融合!!」
バチバチバチッ!!
赤い魔石と黒い金属が、激しい火花を散らしながら溶け合い、混ざり合っていく。
通常なら反発し合う素材同士が、PCが示した「黄金比」の魔力パターンによって、奇跡的なバランスで結合していく。
「熱ぅぅぅッ! くっ、暴れないでよ、この駄々っ子がぁッ!」
リーシャが叫び、魔力をねじ込む。
そして。
カッ!
強烈な光と共に、一つの球体が彼女の手の中に落ちてきた。
野球ボールと同じサイズ。
だが、その色は禍々しいほどの深紅。
表面には黒いアダマンタイトの紋様が血管のように走り、内側からは今にも爆発しそうな熱量が脈打っている。
「はぁ、はぁ……できた……」
リーシャがふらつきながら、熱を帯びたそれを俺に渡してくる。
「『魔導爆裂球』試作1号。……中身は、竜のブレスを極限まで圧縮したようなものよ」
「性能は?」
「保証するわ。ただし……」
リーシャは眼鏡の位置を直し、ニヤリと笑った。
「あなたの『闘気』でコーティングして制御しないと、投げた瞬間にあなたの腕ごと吹き飛ぶわよ♡」
「上等だ。扱いきってみせる!」
俺はずっしりと重いボールを握りしめた。
熱い。まるで生き物のようにドクンドクンと脈打っている。
だが、指に吸い付くようなフィット感は、最高のストレートが投げられる予感をさせてくれた。
「大地ぃぃッ! もう無理ぃぃぃッ!」
前方でキャルルの悲鳴が上がる。
見れば、3体のゴーレムに追い詰められ、壁際に追いやられていた。
回避スペースがない。ゴーレムの巨大な拳が、彼女を押し潰そうと振り上げられている。
「キャルル、伏せろぉぉぉッ!!」
俺は叫びながら、瓦礫の影から飛び出した。
右手に握りしめた『禁断の魔球』。
へその下、丹田から全ての闘気を汲み上げ、右腕に流し込む。
――見せてやる。
地球の野球と、異世界の魔法、そして俺たちの絆が生み出した、最強の一撃を。
ボールが、俺の闘気に呼応して眩い紅蓮の光を放ち始めた。




