EP 16
暴走する防衛システム、現れた殺戮ゴーレム
「き、貴様ぁぁぁッ! いつの間にそんな映像を……!」
俺が突きつけたPCの画面――自分自身の密談の証拠映像を見て、憲兵ガストンの顔が怒りと恐怖で歪んだ。
彼は月光石を軍服のポケットにねじ込むと、半狂乱になって叫んだ。
「ええい、殺せ! こいつらは帝国の反逆者だ! 跡形もなくひり潰してしまえ!」
ズゥゥゥン……!
ガストンの命令に応え、3体の巨大な銀色の影が動き出した。
ミスリル・ゴーレム。帝国軍の最新鋭魔導兵器だ。
全身を覆う装甲は鏡のように磨き上げられ、会場の照明を冷たく反射している。
「ひっ、来るな! 俺は客だぞ!」
逃げ遅れた商人の一人が、腰を抜かして叫ぶ。
ゴーレムの無機質な瞳が赤く明滅した。
ドォォォンッ!!
丸太のような腕が振り下ろされる。商人は悲鳴を上げる間もなく、床の石材ごと叩き潰された。
会場に悲鳴が木霊する。
「やれやれ。商売の邪魔をするだけじゃ飽き足らず、お客様に手を出すなんてね」
オークションの警備として雇われていた、腕利きの冒険者たちが動き出した。
彼らは金で雇われたプロだ。相手が軍の兵器だろうと、契約を果たすために武器を構える。
「野郎ども、かかれ! ただのデカい鉄屑だ!」
「「「オォォォッ!!」」」
魔法使いが杖を掲げ、戦士が剣を振るう。
「食らえッ! 火炎球!」
一人の魔導師が放った赤熱の火球が、先頭のゴーレムの胸部に直撃した。
だが。
カィィィンッ!
「なっ……!?」
信じられない光景だった。
火球はゴーレムの装甲に触れた瞬間、まるで鏡に光が反射するように、そのまま来た道へと跳ね返されたのだ。
「うぎゃぁぁぁッ!?」
自らの魔法を浴びた魔導師が火だるまになって転げ回る。
「ま、魔法反射だと!? ええい、ならば物理で!」
巨漢の戦士が、鋼鉄の大剣をゴーレムの足に叩きつける。
ガギィィンッ!
甲高い金属音が響き、大剣が根元から砕け散った。ゴーレムの装甲には、傷一つついていない。
「ば、馬鹿な……! ミスリルの純度が高すぎる! こんなの、どうやって倒せば……」
戦士が呆然と見上げる前で、ゴーレムがゆっくりと拳を振り上げた。
「――チッ、PCシールド!」
俺は戦士の前に割り込み、PCを展開して構えた。
ズドォォォォンッ!!
5メートルの巨体の全力殴打。
凄まじい衝撃が俺の両腕を襲う。PC自体は無傷だが、その運動エネルギーは殺しきれない。
俺の体は砲弾のように弾き飛ばされ、会場の壁に激突した。
「がはっ……! くぅ……!」
「大地!」
「死んじゃいないわよ! それより、アイツを見て!」
キャルルとリーシャが駆け寄ってくる。俺は痛む体を起こし、PCの画面を確認した。
衝撃の瞬間に起動していた『解析アプリ』の結果が表示されている。
【解析結果:帝国式ミスリル・ゴーレムⅣ型】
【装甲:高純度ミスリルコーティング(魔法反射率99%)】
【骨格:アダマンタイト合金(物理ダメージ95%カット)】
【動力:内部マナ炉心による自己修復機能あり】
「……は? ふざけんなよ……」
俺は呻いた。
魔法は効かない。物理も通じない。おまけに傷ついても自己再生する。
まさに歩く要塞。チートの塊だ。
「ギャハハハ! どうだ思い知ったか! これが帝国の力、科学と魔法の結晶だ!」
安全圏に退避したガストンが、高笑いしながら叫ぶ。
「そのゴーレム1体で、小国なら一夜で滅ぼせる! 貴様らごときが束になっても勝てんわ!」
3体のゴーレムが、ゆっくりと、しかし確実に俺たちを包囲するように近づいてくる。
床を踏みしめる振動が、絶望のカウントダウンのように響く。
「大地、どうするの!? 私の蹴りも、多分通じないわよ!」
キャルルが焦ったように耳を揺らす。彼女の月影流は内部破壊技だが、そもそもの装甲が硬すぎて衝撃が内部に届かない可能性が高い。
「リーシャ! 魔法はどうだ! 反射されない属性はないのか!」
「無理ね。あの輝き……全属性対応の反射コーティングが施されてるわ。私の合成魔法でも、傷をつけるのが精一杯よ」
リーシャも珍しく余裕のない表情で杖を握りしめている。
万事休すか。
いや。
俺はPCの画面――解析結果の、ある一点を見つめた。
どんな完璧なシステムにも、必ず穴はある。
「……キャルル、リーシャ。時間を稼げるか」
「え?」
「こいつらを倒すための『準備』がいる。3分……いや、1分でいい。俺をアイツらの攻撃から守ってくれ!」
俺の言葉に、二人のヒロインは顔を見合わせ――そして、不敵に笑った。
「了解! 任せて、避けるだけなら得意分野よ!」
キャルルがドレスの裾を破り捨て、その自慢の健脚を露わにする。
「やれやれ。雇い主がいきなり無茶振りなんて、ブラックな職場ね」
リーシャが『魔眼の眼鏡』をクイッと上げ、杖に魔力を集中させる。
「総員、戦闘開始! 時間を稼いで、反撃の糸口を掴むぞ!」
俺の号令と共に、最強の矛たちが動き出した。




