EP 14
変態エルフとの邂逅「その板、分解させてぇぇッ!」
「商品番号777! 元・世界樹の森の賢者候補、リーシャ・ヴェルデ! 見てください、この透き通るような肌、黄金の髪! 借金のカタに堕ちた悲劇の天才美女でございます!」
ステージ上、スポットライトを浴びる鉄格子の中で、エルフの少女が膝を抱えて座り込んでいた。
遠目にもわかる絶世の美貌。だが、その翠玉の瞳には光がなく、死んだ魚のように虚空を見つめている。首にはめられた、魔力を封じる太い金属の首輪が痛々しい。
「うぅ……可哀想に……」
「同情するな、キャルル。ここじゃ同情は一文にもならない。必要なのは『力』だけだ」
眼下の一般席からは、欲望に満ちたざわめきが上がっていた。
「ほう、上玉じゃないか」「妾にちょうどいい」「いや、実験体として……」
ゲスな言葉が飛び交う。リーシャはそれらの声が聞こえていないかのように、ピクリとも動かない。
「さあ、開始価格は5000万エンから! 入札スタート!」
司会者の声と共に、会場のあちこちで入札の手が上がる。
「5500万!」「6000万!」「6500万だ!」
小刻みに値段が上がっていく。
「(……ちんたらやってられるか)」
俺はVIP席のソファに深く腰掛け、手元の魔導端末に指を走らせた。
俺の背後には、ゴルド商会の10億エンという後ろ盾がある。小競り合いに付き合う気はない。
俺は数字を打ち込み、確定ボタンを叩いた。
ピロン♪
会場の巨大スクリーンに、現在の最高入札額が表示される。
【現在の最高額:2億0000万エン (VIP席7番)】
「「「なっ……!?」」」
会場が静まり返った。
6000万台で競っていたところに、いきなり3倍以上の値をつけたのだ。
「に、2億エン!? 2億エンの入札が入りました! 他に……他にいらっしゃいませんか!?」
司会者が裏返った声で叫ぶ。
一般席の貴族たちが、憎々しげにVIP席を見上げてくるが、これ以上の額を出せる者はいないようだ。
「……落札!」
カーンッ!
乾いた小槌の音が響き渡った。
「す、すごい……。本当に一瞬で……」
「言っただろ。これが大人の戦い方さ」
俺は端末を置き、立ち上がった。
まずは一人、確保だ。
†
落札手続きのため、俺たちは舞台裏の控え室に通された。
しばらくして、鉄格子の檻から出されたリーシャが、屈強な看守に両腕を掴まれて連行されてきた。
「……商品を引き渡します。首輪の鍵はこちらに」
看守が事務的に告げる。リーシャは抵抗する気力もないようで、人形のようにされるがままだ。
「……好きにすればいいわ。どうせ私は、一生借金まみれの奴隷なんだから……」
リーシャがボソリと呟く。その声は絶望に染まっていた。
「キャルル、鍵を開けてやってくれ」
「えっ、いいの? いきなり魔法で暴れたりしない?」
「大丈夫だ。彼女の目は、暴れる気力すら失った人間の目だ」
キャルルが恐る恐る首輪の鍵穴に鍵を差し込む。カチリと音がして、重たい金属の輪が外れた。
リーシャは首をさすることもなく、ただ床を見つめている。
「さてと、今後の契約についてだが……」
俺は今後の予定を確認するため、懐からノートパソコンを取り出し、開いた。
起動音と共に、ディスプレイが青白く発光する。
その瞬間だった。
ピクリ。
死んでいたはずのリーシャの耳が、動いた。
「……ん?」
彼女がゆっくりと顔を上げる。
その翠玉の瞳が、俺の手元のPCに釘付けになった。
「……なに、それ?」
「え? ああ、これは俺の故郷の道具で、パソコンって言ってだな……」
俺が説明しようとした、次の瞬間。
「なんなのよその美しい光はぁぁぁッ!?」
ドォォォンッ!!
リーシャが看守を振りほどき、猛獣のような勢いで俺に飛びかかってきた。
「うわっ!?」
「ちょっと、アンタ何するのよ!」
キャルルが慌てて止めに入り、リーシャの襟首を掴んで引き剥がす。
だが、リーシャの目は完全にイっていた。血走り、口端から涎が垂れそうになっている。
「見せなさい! 近くで見せなさいよ! その薄さで発光する平面板!? ありえない、魔力反応が極小なのに、どうやって映像を維持してるの!? 未知の合金!? 超古代文明のロストテクノロジー!?」
彼女はキャルルに拘束されながらも、手足をバタつかせてPCに滲り寄ろうとする。
さっきまでの薄幸の美少女はどこへやら。完全にマッドサイエンティストの顔だ。
「ねえお願い! 一度だけでいいから! 中身を見せて! 分解させて! 装甲の1ミリでもいいから削り取って成分分析させてぇぇッ! そのためなら何でもするわ! 足だって舐めるからぁッ!」
「ひ、ひぇぇ……。大地、こいつヤバいわよ。本当に仲間にして大丈夫なの……?」
キャルルがドン引きした顔で俺を見る。俺も引きつった笑みを浮かべるしかなかった。
「ま、まあ、元気になったようで何よりだ……」
俺はPCを高く掲げ、彼女の手が届かないようにしながら宣言した。
「リーシャ・ヴェルデ。君の借金2億エンは俺が肩代わりした。今後、君は俺の専属エンジニアとして働いてもらう」
「エンジニア!? ってことは、その板(未知のテクノロジー)をいじり放題ってこと!?」
「いや、いじるのは禁止だ。壊されたら困る。君には、このPCの中にある『設計図』を、こちらの世界の技術で再現してもらいたいんだ」
「見るだけ……? ちぇっ、ケチね。……まあいいわ。その『設計図』とやらが面白そうなら、協力してあげないこともないわよ」
リーシャは急にツンとした態度に戻り、腕組みをした。だが、その目はPCから離れておらず、ギラギラと輝いている。
……前途多難だが、とりあえず「技術者」の確保には成功したようだ。
「よし、契約成立だ。次は、本命の『宝石』だ」
俺たちは騒がしい新入りを引き連れ、再びVIP席へと戻った。
会場では、いよいよメインイベントの商品が運び込まれようとしていた。




