EP 12
闇オークションの招待状と、出品された天才エルフ
ゴルド商会を出た俺たちの手には、二つの「武器」があった。
一つは、漆黒の封筒に入った『闇オークション招待状』。
もう一つは、ゴルド会頭から渡された『ブラックカード(特別顧問用魔導カード)』だ。
「じゅ、十億エン……。本当に、こんな大金を使ってもいいの?」
商会が手配してくれた最高級ホテルのスイートルーム。
ふかふかのソファに沈み込みながら、キャルルが震える声でカードを見つめている。
十億エン。一般市民が一生働いても拝めない金額だ。
「あくまで『融資枠』だけどな。俺が導入した複式簿記システムが稼働すれば、商会は来月にはこの倍の利益を出す。会頭にとっては安い投資さ」
俺はルームサービスの高級紅茶を飲みながら、冷静に答えた。
金は確保した。次は情報の精査だ。
「さて、本番はこっちだ」
俺はテーブルの上に、漆黒の封筒の中身――『出品カタログ』を広げた。
分厚い羊皮紙の冊子には、明日のオークションに出品される裏社会の品々が、魔法写真付きで掲載されている。
国宝級の美術品、絶滅した魔獣の卵、禁忌の魔導書……。
そして。
「……あったわ」
キャルルの指が、あるページで止まった。
そこに映っていたのは、青く輝く三日月型の宝石。
【商品番号404:月光石】
【推定落札価格:3億〜5億エン】
【備考:極上の魔力伝導率を誇る。出所不明だが品質は保証付き】
「出所不明、ね。白々しい」
俺は鼻を鳴らした。
出品者の欄は伏せられているが、あの関所にいた憲兵が横流しした物に間違いない。
「3億から5億か。……余裕だな」
俺の手元には10億の枠がある。競り合いになっても負けることはないだろう。
「ありがとう、大地。……これでお母さんの形見が戻ってくる」
「礼を言うのはまだ早いさ。取り戻すまでが遠足だ」
俺はページを捲り、他の商品にも目を通していく。
何か他にも、今の俺たちの戦力強化に繋がるものはないか。PCの検索機能は万能だが、それを物理的に「形」にする手段が足りていない。
その時、俺の手が止まった。
冊子の後半。『奴隷・人材』のセクションだ。
【商品番号777:エルフの魔導師】
【推定落札価格:5000万エン〜】
写真に映っていたのは、息を呑むような美女だった。
透き通るような金髪に、翠玉の瞳。薄汚れた囚人服を着せられ、手枷をはめられているが、その凛とした美貌は隠せていない。
だが、俺が注目したのは彼女の容姿ではなく、その下に書かれた『備考欄』だった。
【備考:元・世界樹の森の賢者候補。4属性魔法に加え、希少な『Sランク魔導具作成スキル』を所持】
【注意:極度の研究狂いにつき、取扱注意。過去に研究所を3回爆破した前科あり。多額の借金返済のため出品】
「……『魔導具作成スキル』だと?」
俺は前のめりになった。
魔導具。魔法の力で動く道具。
俺のノートパソコンは『地球の知識』を表示できるが、それ自体は物理干渉できない。
だが、もし「地球の設計図」を、この世界の「魔法技術」で再現できる技術者がいたら?
例えば、俺のPCのデータを読み込んで自動で動くゴーレム。
あるいは、俺のジャイロボールの威力を数百倍に高める専用のボール。
「キャルル、このエルフ……名前は?」
「えっと、『リーシャ・ヴェルデ』って書いてあるけど……大地、まさか」
キャルルがジト目で俺を見る。
「エルフのお姉さんが欲しいの? 男の人って、やっぱりそういう……」
「違う違う! やましい気持ちは1ミリもない!」
俺は慌てて否定し、PCを指差した。
「俺には魔力がない。PCの機能も一部しか使いこなせてないんだ。でも、この『魔導具作成』の専門家がいれば、俺の頭の中にある知識を、実際の武器や道具として作り出せるかもしれない」
俺はカタログの美女――リーシャの写真を見つめた。
『研究所を3回爆破』という一文が地雷臭を漂わせているが、裏を返せばそれだけ常識外れな実験を繰り返してきた天才ということだ。
「俺たちのパーティには、後衛の魔法使いと、装備を作るエンジニアが足りない。彼女は、その両方を埋めるピースだ」
「むぅ……。大地がそう言うなら、信じるけど」
キャルルは少し不満そうに兎耳を揺らしたが、すぐに真剣な表情に戻った。
「でも、5000万エンからってことは、競り合ったら1億は超えるかもよ?」
「構わん。宝石と合わせても予算内だ」
俺はカタログを閉じた。
目標は決まった。
『月光石』の奪還。そして、天才エルフ『リーシャ』の確保。
「明日は忙しくなるぞ。……それに、あのオークション会場には、宝石を横流しした憲兵も来ているはずだ」
俺は窓の外、夜の闇に輝く帝都を見下ろして呟いた。
「金で解決するだけじゃない。……きっちり『落とし前』もつけさせてやる」
翌日。
運命のオークションが開幕する。




