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飲み会優先の女神にPCだけ渡され追放された元球児、検索機能とジャイロボールで最強の兎耳美少女を救い、物理最強の成り上がり!  作者: 月神世一


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EP 1

テンプレ転生と、やる気のない女神

 コンビニの廃棄弁当の重みが、リュック越しに背中へと伝わる。

 深夜二時。バイト終わりの帰り道。

 俺、赤木大地あかぎだいちの人生は、唐突に終わりを告げた。

「にゃあ」

「あッ、危ない!」

 道路に飛び出した黒猫。迫りくるトラックのヘッドライト。

 俺の身体は思考より先に動いていた。

 かつてマウンドで鍛え上げた瞬発力が、俺の身体を猫の方へと弾き飛ばす。

 猫を抱きかかえ、路肩へ放り投げる。成功。

 だが、俺自身の回避は――間に合わない。

 キキィィィィィッ!!

 ドンッ!

 衝撃。そして、世界が暗転した。

 ……甲子園で優勝したのに、変化球が投げられないってだけでプロになれず。

 大学に通いながらコンビニバイト。

 彼女いない歴=年齢。

 (俺の人生、しまらねぇなぁ……)

 薄れゆく意識の中で、俺はそんなことを考えていた。

 †

「あー、テンプレ乙。君、死んだわ」

 気の抜けた女の声で目が覚めた。

 真っ白な神殿……ではなく。

 そこは、生活感あふれる六畳一間の和室だった。

 目の前にはコタツ。

 そのコタツに入り、ヨレヨレのジャージ姿で寝転がっている女性がいる。

 手には缶チューハイ。テーブルの上には剥きかけのみかんと、灰皿には吸い殻の山。

 部屋全体に、メンソールのタバコの匂いが漂っている。

「……えっと、天国ですか?」

「んー? ま、そんなもん。私、女神のルチアナ。君の担当」

 ルチアナと名乗ったその女性は、俺の方を見ようともせず、手元のスマホをポチポチと操作している。

「で、大地くんね。猫助けて死亡。善行ポイントはクリア。異世界転生の権利獲得。おめでとー。パチパチー」

「棒読み!? いや、あの、もっとこう、厳かな雰囲気とか……」

「ないない。私、この後サル君……魔王と飲み会あんのよ。予約の時間ギリギリなの」

 女神はスマホの画面をタップし、ガバッと身体を起こした。

「ヤバッ! もう開始5分前じゃん! 転移ゲート開くのに3分かかるから、君の相手してる時間2分しかないわ!」

「はあ!?」

「はいこれ契約書! 異世界アナスタシアに行ってらっしゃい! あっちの世界、三すくみで膠着しててつまんないから、適当に掻き回してね!」

 一方的すぎる。

 だが、異世界転生と言えば……。

「ち、ちょっと待ってください! スキルは!? チート能力とか、最強の剣とか魔法とか!」

「あー……」

 ルチアナは面倒くさそうに頭をかいた。

「スキル作るのってさー、申請書類書いて、天界の認可下りるまで3営業日かかんのよ。今から申請してたら飲み会遅れるじゃん」

「あんたの都合かよ!」

「剣とかも在庫切れ。……あ、そうだ」

 ルチアナはコタツの脇に転がっていた、銀色の物体をひょいと拾い上げた。

 ノートパソコンだ。

「これあげる」

「は? パソコン?」

「私が暇つぶしに作ったオリジナルの神具。壊れないし、充電いらないし、ネットも繋がるから」

「いや、異世界でネット見れても! 俺が欲しいのは戦う力で……」

「はい時間切れー! 行ってらっしゃーい!」

 女神はノートパソコンを俺の胸に押し付けると、和室の床に現れたブラックホールのような穴へ、俺を蹴り飛ばした。

「うわああああっ!?」

「あ、たまに連絡するから出てねー! じゃ!」

 視界が歪む。

 最後に見たのは、ジャージのポケットからタバコを取り出しながら、そそくさと出かける準備をする女神の背中だった。

 †

「……ふざけんなぁぁぁぁぁッ!!」

 俺の絶叫は、どこまでも広がる青い空に吸い込まれていった。

 

 気がつくと、俺は大草原のど真ん中に立っていた。

 風が草を揺らし、遠くには見たこともない巨大な山脈が見える。

 間違いなく、地球じゃない。

「はぁ……はぁ……マジかよ」

 俺は地面に膝をつき、持ち物を確認する。

 着ているのは、いつものグレーのパーカーとジーンズ。履き潰したランニングシューズ。

 リュックの中身は、財布(1万円入り)、スマホ、ソーラーバッテリー、タオル、水筒。

 そして、廃棄のチョコが3枚。

 最後に、手元にある銀色のノートパソコン。

「……こんなもん抱えて、どうやって生きていけばいいんだ」

 試しにパソコンを開いてみる。

 電源ボタンを押すと、爆速で起動した。

 デスクトップ画面には見たことのあるアイコンが並んでいるが、OS名は『Gods 11』と表示されている。

「なんじゃこりゃ」

 画面上に、『地図アプリ』というアイコンがあった。

 クリックすると、現在地周辺の地図が表示される。GPS衛星なんてないはずなのに、正確な地形図だ。

 その地図上の、俺の現在地のすぐ近くに、赤い光点が一つ。

 ものすごい勢いで近づいてきている。

「え?」

「ギャギャッ! ギャウッ!!」

 顔を上げると、目の前にソレはいた。

 緑色の肌。子供くらいの背丈。汚らしい腰布。手には錆びたナイフ。

 ファンタジーの定番、ゴブリンだ。

「嘘だろ……いきなり戦闘!?」

 ゴブリンが飛びかかってくる。

 殺気。明確な死の匂い。

 俺はとっさに身を翻し、ナイフの一撃を避けた。

「ギャウッ!」

 ゴブリンが体勢を立て直し、再び跳躍の構えを見せる。

 どうする? 逃げる? いや、足の速さは向こうが上だ。

 戦う? 武器は?

 パソコンで殴るか? いや、リーチが足りない。

 その時、足元に手頃な石が落ちているのが見えた。

 硬式野球ボールと、ほぼ同じサイズと重さの石。

 ――カッ。

 俺の脳内で、スイッチが切り替わる音がした。

 マウンド上の記憶。指先の感覚。縫い目のない石に、架空の縫い目を幻視する。

 俺は石を拾い上げると、身体を捻った。

 左足を高く上げ、右腕を鞭のようにしならせる。

 狙うは一点。

 飛びかかってくるゴブリンの、その眉間。

「オラァッ!!」

 指先から放たれた石は、螺旋の回転――ジャイロ回転を纏い、空気を切り裂く唸りを上げた。

 初速150キロ。終速も150キロ。

 物理法則を無視して伸びる魔球が、一直線に緑の悪魔へと吸い込まれる。

 バヂュッ!!

 嫌な音が響いた。

 ゴブリンの頭が、熟れたトマトのように弾け飛んだ。

「……へ?」

 首から下が、慣性で数メートル滑って止まる。

 俺は投げ切ったフォロースルーの姿勢のまま、固まった。

「あ、あれ……?」

 魔法も剣もない。

 でも、俺には『野球』があった。

 もしかして、これなら――この理不尽な世界でも、生き残れるかもしれない。

 俺が自分の手のひらを呆然と見つめていると、不意にノートパソコンから「ピロン♪」と通知音が鳴った。

 地図アプリの画面に、新たな表示が出る。

『警告:半径500メートル以内に、複数の敵性反応を検知。包囲されています』

「……前言撤回。やっぱり無理かも」

 俺はパソコンを抱え、全速力で走り出した。

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