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臆病で戦下手で長いものに巻かれたい織田信雄と曖昧な態度の筒井定次 偉大なる父を持つ二人は、凡庸な二世同盟で生き延びる   作者: 鴨ロース


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7/10

金柑の苦悩、茶筅の覚醒

数多ある作品の中からお選び頂きありがとうございます。

天正10年(1582年)5月 —— 安土城


絢爛豪華な饗応の裏で、織田信雄は廊下の陰に立ち尽くしていた。

視線の先には、接待役を解かれ、憔悴しきった明智光秀の背中がある。

「……似ている」


信雄は、古傷が疼くのを感じた。


あれは、2年前の自分だ。第一次伊賀攻めの前夜、父・信長の理不尽な重圧と、「能無し」の汚名返上に追い詰められ、破滅的な独断専行へと走ろうとした、あの時の自分と同じ目をしている。


比叡山の焼き討ち、母の死、無碍にされた外交、そして敵地同然の国替え命令。


真面目な者ほど、糸が切れた時の反動は大きい。

「危険だ。あれは、壊れるぞ」

信雄の脳内で、生存本能の警報がけたたましく鳴り響いた。


父・信長と兄・信忠は京に無防備に滞在している。もし明智が暴発すれば、織田家は崩壊する。そうなれば、信雄が夢見る「畳の上での大往生」など夢のまた夢だ。


「……やるしかない。俺の老後のために」

信雄は震える手で扇子を握りしめ、闇に潜む影——自身が構築した「伊賀共存共栄圏」の連絡役を呼びつけた。

「百地へ繋げ。京までの最短ルート、安全な抜け道を確保しろ。それと、伊賀衆を総動員だ。戦うためではない、壁を作るために」

信雄は筆を執った。


走らせる筆先には、脂汗が滲む。

「四通の書状を送る。伊賀者よ、命に代えても届けよ! 俺の為にも死ぬなよ、父上、兄上! ……血迷うなよ、日向守! 『金柑頭』なんてあだ名、俺の幼名『茶筅』や兄上の『奇妙』より、よほどまともじゃないか!」


信雄は、なりふり構わぬ「土下座外交」ならぬ「土下座通信」を開始した。


【第一信:四国征伐軍・織田信孝へ】

『明智に不穏な空気あり。万が一の場合、軍の一部を京へ反転させよ。兄として頼む、油断するな』


【第二信:明智の娘婿・津田信澄へ】

『貴殿はうつけの俺とは違う。織田一門として賢明な判断を請う。動くな』


【第三信:盟友・細川藤孝、忠興親子へ】

『日向守が何を言おうと耳を貸すな。味方すれば、伊賀で見つけた国宝級の茶器と壺を贈る。勝ち馬を見誤るな』


そして、最後の一通。

【第四信:悪友・筒井定次へ】

『定次殿。今回だけは……今回だけは態度を明確にして、織田家を助けてくれ。「洞ヶ峠」を決め込んでいる場合ではない。俺たちがこれからも、美味い茶を飲んで笑い合うために』

貴重なお時間を頂きありがとうございました。

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