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転生王女パトリシアは今世こそぐうたらしたい。  作者: 七海心春


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11/14

11:キャベツ料理と特許申請



 ドニーの自宅に上がらせてもらいノーラの後をついていく。仕事場は騒然としていたが、自宅は小綺麗に整理整頓されていた。


「台所はこっちだよ。ドニー、キャベツとボウルを持ってきておくれ」

「はいはい」


 半玉あったキャベツはいつの間にかその半分ぐらい小さくなっていた。ボウルには千切りキャベツがどっさり入っている。


「さて、あたしなら、スープに入れるか煮込みにするかだ。それでいいかい? もちろんパンはあるよ」

「もちろんです。もしノーラさんがよければわたしにも一品作らせてもらえませんか?」

「そりゃ願ったり叶ったりだがいいのかい? 仕事は?」

「今日は中抜けなので急ぎません」


 パトリシアが腕まくりするとノーラは嬉しそうに笑う。

 

「食材は自由に使っておくれ。必要なものがあれば、ドニーがひとっ走り買いに行くよ」

「おれか」

「あんたも食べるんだろう?」


 仲のいい夫婦にくすくす笑いながらパトリシアは食材庫を眺める。


(パティ〜〜)

(あとで屋台で買ってあげるから)

(パティの飯ちゃうんかい)


 テレパシーでぺぺと話しながら、小麦粉、卵、ベーコンを見つけたのでこれを使わせてもらう。


 「ではガレットのようなものを作りますね」


 前世でいうお好み焼きだ。ボウルいっぱいの千切りキャベツに、卵、小麦粉、でタネを作る。

 本来なら出汁を入れるが、出汁がないので、胡椒で味付けだ。帝国で胡椒は割とポピュラーらしく、平民も手頃な値段で手に入る香辛料らしい。


「あとは焼くだけです」

「おや、簡単だね」


 温めたフライパンに油を敷く。その上にタネを流してベーコンを乗せた。生地の周りが固まりだして、乳白色色がクリーム色の変わってきたらひっくり返す。両面しっかり焼いてお皿に乗せれば完成だ。


 「できましたよ」


 なんちゃってお好み焼きだ。ここでソースをかけられないのが惜しい。

 誰もいなければポシェットから自室にアクセスして自家製のお好み焼きソース(おたふく風)とマヨネーズをかけたのに。

 

「へぇ〜。なんかいい匂いだなぁ」

「ここにあのキャベツが入っているとは言われないとわからないぜ」

「小さくなっていますからね。でもきっと外はカリカリ中はふわふわですよ」


 パトリシアは同じ要領で残りのお好み焼きを焼いた。ノーラの作ってくれたスープとパンで昼食は完成である。パトリシアが見守る中、ドニーとノーラがなんちゃってお好み焼きにナイフとフォークを入れた。


「お、サクサク入るね」

「あぁ。……あふっ、ほぉっ、ふぁふぁ」

「ちょっとあんた、汚いったらありゃしないよ」


 ドニーが涙目になりながら口を開けたり閉じたりしている。口から色々とこぼれ落ちた。

 ノーラは横目で呆れており、パトリシアに「汚くて悪いね」と謝罪する。


「ベーコンの塩気と胡椒が効いてうまいな」

「そうか。ならあたしもいただこうかね」


 結論、お好み焼き風ガレットは二人に好評だった。パトリシアもナイフとフォークで丁寧に切り分け、様しながら食べる。お腹が空いていたことや早朝から働いていたこともあり、スープとパンもペロリと平らげた。


「さて嬢ちゃん、ちょっと真面目な話をしようか」

「はい」


 食事を終え、工房に戻るとドニーがキリリと表情を引き締めた。顎にキャベツがついているが、見て見ぬふりをする。


「このピーラーというものはいいな。生活に根付く便利な道具だ」

「ありがとうございます」

「できれば、今後もこの製作は他の工房に持っていってほしくないのだが」


 パトリシアはよくわからなくて首を傾げる。ドニーがどうして他の工房に任せると思っているのか理解できなかった。


「……ひとつ尋ねるが、このピーラーとやらはペリドラン王国では普通に使われているのか?」

「……さぁ、どうでしょうか」


 いいえ、使われていません。

 そう言いたいのを我慢してパトリシアは知らないふりをした。


 この調理器具たちはペリドラン・ペトリフィスがその伝手を頼って作ってくれたものである。

 王女という自由のなかったパトリシアに、懇意にする工房や伝手もない。


「少なくともわたしは自分の周りで持っている人を見かけたことはありません」

「それは俺もだ。母ちゃんや近所の人にも聞いたが、初めて見たと誰もが言っていた」

「あら、皆さんに見せたんですか」

「あぁ。……その、商品を確かめてもらうためにな」


 ドニーが罰が悪そうな顔をする。ただ「仕事に熱心な方だな〜」という感想しか出てこなかったが、パトリシアがなにも言わないせいか、彼が痺れを切らしたようだ。


「な、なんかあるだろう? その、嬢ちゃんに許可なく見せちまったんだぞ? 新商品を」

「……新商品」

「〝ピーラー〟はまだ世に出てねぇ。つまり、母ちゃんの友達の誰かが特許の申請をすれば」

「トッキョ」


 まさかピーラーで特許など考えていなかったパトリシアは声を裏返した。


「え、そこまで需要あります?!」

「ある! 絶対ある! 少なくとも母ちゃんの友人は欲しがった」

「へぇ〜、そうなんですか」


 前のめりなドニーにパトリシアは身体をのけ反らせた。彼は上げた腰をおろして腕を組む。


「帝国はたしかに他国より色々と発展しているかもしれない。でもそれは目立つものが多いからだ」

「目立つもの、ですか?」

「あぁ。たとえば、船や鉄道もそうだし、魔道馬車だってそうだ。大きくて物資の輸送や人の流れが快適になる。あとはやっぱり軍事力に活かすために、その方面の技術だ。ーーでも、平民の生活はそれほど変わっていない」

「!!」

「俺が子どもの頃よりは豊になってるさ。でもピーラーのような毎日のひと手間を失くすような便利な道具はなかなかないんだ。あったら大助かりなのに」


 ドニーはわずかに視線を下げる。


「つまりだな、嬢ちゃんの許可なく友人に見せちまって悪かった。この件についてはこの通り」

 

 ドニーはがばりと頭を下げた。でも彼のおかげでピーラーがこの世界にないことが確定したのだ。


「はい、許します。頭を上げてください」

「……ありがとう。恩にきる。で、これで特許を取ってほしい」

「そうしたら、ドニーさんにたくさんお金が入りますか?」

「それもあるが……粗悪品が出回るとせっかく便利な道具なのに、皆使わなくなっちまうだろう? 俺もそうだが、母ちゃんが楽しそうにメシを作ってくれる神道具だ」

「神道具」

「そうだぞ? うちの母ちゃんはご機嫌斜めになると、皮がついたままぶつ切りにしてなんでも煮込んじまう。ーー元冒険者っつーのは非常に厄介なんだ」


 ノーラだけでなく、ドニーも元冒険者だったようだ。ダリオとは同じパーティーを組んでいたらしい。


「塩辛い干し肉よりマシだろって言うんだぜ? でもこれがあれば俺だって皮を剥ける」

「……なるほど、死活問題ですね」

「おう。嬢ちゃんのおかげで、この数日一度も皮付き野菜の煮込みは出てこなかったさ」


 それは得意げに言うことなんだろうか。

 もちろん部外者は首を突っ込むことではないので「よかったです」とだけ言っておいた。


「これがあれば、飯屋の下働きは助かるし、俺みたいなおっさんも助かる。手を出されると余計に手間になるからって言われるが、これぐらいなら手伝えるしな」

「優しいですね」

「ば、馬鹿野郎! そ、それぐらい、あ、当たり前ってもんよっ」


 ドニーが顔を赤らめる。耳まで真っ赤にして顔を背けた。


「では特許を申請すればいいんですか? ピーラーを正しく適切な商品として世に普及するために」

「あぁ。申請は商業ギルドに行けばわかる。ただ、ギルド内でも審査があるんだ。実物も必要だから、ちょいと多めに作っている」

「わ、ありがとうございます。助かります」

「いいってことよ。ーーそれより、本当にいいのかい? 俺は俺の都合で嬢ちゃんにこんなお願いをしたが、嬢ちゃんは他の工房を探すことだって」


 ドニーが言い淀む。

 彼は元々鍛治屋として第二の人生を過ごしていた。しかし、大きな戦争はなくなり帝都はそもそも上位の冒険者が少ない。というのも、この辺りで魔物の出現率は低く、稼ぎを考えると外に出た方がいい。

 よって、めっきりと客足が途絶え閑古鳥が鳴いているような状況だった。


「……わたしは帝都に詳しくありませんし、ダリオさんを信頼してこのお店に来ました。正しく適切なものを世に広めたいという思いは嬉しいですし、これひとつで手間が減って喜んでくれる人が増えるならわたしも嬉しいです。それに、今後も他にもお願いしやすいですし」

「……そうか」

「はい。なので、とりあえず商業ギルドに行きますね」

「今から行くのかい? なら俺もついていこう」

「いいんですか?」

「もちろんだ。これでもギルドには多少顔が効く」


 ドニーが白い歯を見せて笑う。引き続きぺぺだけが不満たらたらだった。

 

 



ぺぺ「腹へった!」

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