第三話 隆の事情
隆の事情
今日も朝ぼーっとしながら隆は学校に向かっていた。
偶に怪物から話しかけられるが、だいぶ慣れて来た。怪物もそんなしつこくもないし、ええ感じで距離を保っている。
隆は、尼崎の某場所に住んでいるが、阪神尼崎と阪急塚口の間でウロウロしている。
スタジオもどちらかにもあるし、梅田も比較的近いので、時々遊びに行っている。
高校生と言っても、隆は、出前のバイトや、居酒屋や、単発でタイミーなんかも利用しているので、あんまり社会人と変わりない。
成績もそんな悪くないし、数学だけは得意だったので、工業系の普通くらいの私立大学なら楽勝で行けると言われていたが、夜間部の国立大学なら学費が安いかもなので探していた。
昼間、市役所とかに行って、夜学校に通う優等生なら親も泣きながら喜んでくれるだろう。隆は、普通の生活が出来ればそれで良かったのだ。
それで三年になった今年は、ちゃんと勉強しようと考えていたが、まさかの曲がバズって、注目されるとは想いもよらなかったのだ。
「金に困らんくなるかも知らんなぁ〜」
隆の親父は、職人だった。尼崎の大手の技術職人だった。隆が生まれてから、独立して工場を立ち上げて、仲間とマニアックな部品を作っている。
隆は子供の頃から旋盤の事故で、指を飛ばす事も見ていたので、指を拾った時もさほど驚かなかったし、簡単な機械なら操作出来る。親父に付いて色々学んでいたのだ。
しかし、不景気になり、それほど実家は裕福ではなくなって来た。親父は、「普通のサラリーマンになれ」と言っていた。でも、何でも出来る人間になれば、めしは食えるとも言っていた。
なので、中学くらいからこそっとバイトしても何も言わなかったのだ。
それと、隆は飯より音楽が大好きだったのだ。ギターもベースもドラムも叩ける。バイオリンも独学で少しは弾けた。
家に祖父のヴァイオリンがあって、祖父はよく酔っ払ったら、ヴァイオリンを聴かせてくれたが、クラシックより、所謂フィドラー(ヴァイオリニスト同じだが、ブルースや、カントリーをよく弾く人の事をフィドラーと呼ぶ)で、色々渋い曲を聴かせてくれたのだ。
それで、DTMも高校に入る頃に少しずつ始めて、多重録音をしたり、デジタルパフオーマーでアレンジして、もう、DAT出し(レコード会社に出せる状態)の状態まで自分で作っていた。
隆は嬉しかった。悪人を殺すだけで、音楽家として世に出れるのだから、この先、自分が殺されても構わないと思っていた。
やっと学校に着くと、梨子が寄って来た。
「あのね、なんか聞いてるわよ、凄いわね、才能あると想っていたわよ」と言う。
「嘘つくなよ、お前」と笑っていたが、梨子とは幼稚園からの付き合いで、普通の友人だったが、正直高校生にもなると、胸も膨らんで来て、少し照れる様になってたのだ。
午前中の授業が適当に終わり、梨子と食堂に行った。するとまた前出の政治家の悪巧みの話がニュースでやっていた。マネーロンダリングと言う言葉が繰り返えされていた。
「やっぱり、悪いやつはいるのよねぇ〜」
「俺には関係ないわ」と、隆は言った。
続く〜