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232  作者: Nora_
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04

「なんで今年の課題はこんなに多いんだ……」

「文句を言っていないでやろうぜ、終わったらおでんでも買ってやるからさ」

「それよりも教えてもらいたいことがあるから頑張るよ」


 別に課題をやらなくたって聞いてくれれば答えるからささっと終わらせて七と遊んでくればいい、とは考えつつも零と二人でゆっくりできるのは久しぶりだったから喜んでいる自分もいた。


「終わった! それでね、翔一って伊敷さん派なの!?」

「は、はあ?」


 どうやらレシートを勝手に見たらしく値段の差からこの発言をするに至ったらしいが……。


「別にそういうわけじゃない、ただ、マフラーを買った際に伊敷だけないのは変だったからだよ」

「で、でもほら、そもそもの値段の差が……」

「七が選んだんだ、マフラーを買ったのだって安かったからだしな」


 一緒に買ってきたものの、こうして集まれるのであれば彼には別の物でもよかったのかもしれなかった。

 女子だけでお揃いといった方がいい気がする、異性とのそれはそういう関係になったときだけ買えばいい。


「い、色違いとはいっても伊敷さんと同じ物だと考えたら気恥ずかしいから別のでも……いい? あっ、翔一に買ってあげたい気持ちが強いんだけどさ!」

「ならいくか」

「うんっ」


 というわけで昨日と同じ場所、商業施設まで移動した。

 冬休みに入っているからなのか子どもが沢山いておおとなった。

 学校に向かっている最中は学生と遭遇することもあまりないから安心するのだ、やはり同じぐらいの存在を見られた方がいい。


「これが欲しいっ」

「いくらか、それなら回転寿司屋にでもいくか?」

「おおっ、いいねっ」


 この施設内にもあるからそう時間はかからなかった。

 土日とかでもないからそこまで混んでいなかったからすぐに座れた、こうなれば注文をして食べていくだけだから楽だった。

 長く一緒にいるし、少しぐらいなら高くなったって構わない、彼も気にせずに頼みまくっていくから助かる。

 あくまで少しの余裕があるだけなので他のところは知らないものの、ここでは大体は一皿百円なのも財布的にも、なあ。


「お昼からお寿司を食べられるなんて最高だよ、でも、いつかは回らないお店のお寿司も食べてみたいな」

「俺にとってはこれで十分だ」


 普通に美味しくて腹が膨らめばそれでいい。


「それじゃお会計を――と、七ちゃんからだ」

「出ておけよ、その間に済ませてくるから」

「わ、わかった、それじゃあお願いね」


 二人でレジ前にいたってなんにも意味はないからよかった、結構ダメージがいって心で泣いているところを見られたくなかったから丁度いいのもある。

 店から出たすぐのところにいてもう終わっていたみたいだから聞いてみると「あのね、暇なんだって」と教えてくれた。


「それならいってやれよ、今日俺は零と過ごせて満足できたから譲ってやらないとな」

「ううん、暇だから伊敷さんのお家にいくんだって、流石に上がらせてもらうわけにはいかないからまだまだ翔一といたいよ」

「よし、それなら二人でいくか」

「おおっ、やっぱり翔一は伊敷さん派なんだ!」


 なにか変な勘違いをしているそれからはスルーして彼を持ち上げて運ぶことにした。

 家に着いた途端にやっぱり帰ると逃げられないように必要なことなのだ、彼は前科があるから対策が必要なのだ。


「はーい、え、どんな偶然?」

「偶然じゃない」

「なるほど、ちょっと上がってもらっていいのかを聖花に聞いてくるね」


 特に暴れずにいてくれているがまだまだ油断はできない、なんてな。

 下ろしたら「もうちょっとしてほしかった」と言われて苦笑した、それとすぐに現在の家主が出てきて「上がってちょうだい」と言ってくれたから助かった。


「え、二人でお寿司を食べてきたとかずるいじゃん、なんで誘ってくれなかったの?」

「七ちゃんにメッセージを送ったけど反応してもらえなかったからね」


 セーフ、流石に二人に奢るのは無理だったから反応してくれなくてよかった。


「くっ、電話をかけたときにはもうなにもかも終わった後だったんだね、悔しいぜ……」

「でも、伊敷に作ってもらって食べたんだろ? 匂いでわかるぞ」


 外で食べる行為は確かに美味しくて楽でいいがこっちなら仮に払うことになってもそこまでの額にはならないうえに伊敷作のご飯を食べられるのは大きいと思う、が、結局は「聖花が作ってくれたご飯は凄く美味しかったけどさっ、なんかこそこそされていたってわかったら気になるでしょうがっ」と気にしている点が違うみたいだから解決には繋がらなかった。


「落ち着きなさい、この二人はなにも悪いことをしていないじゃない」

「だってぇ……」

「逆に毎回報告をされても困るでしょう?」


 家族か彼氏彼女の関係でもない限りはいちいち報告をしたりはしない、聞かれたら答える程度だ。


「ファミレスにいってジュースをいっぱい飲んできたとかならいいけどお寿司なら別だよ、奢ったって話なら尚更ね」

「プレゼントだから少し違うけど私達だって奢ってもらったようなものじゃない、なにも返していないのに更にしてもらおうとするのは違うわ」

「だ、だからお返しをするためにも一緒にいないとどうにもならないわけでね?」


 ああ、伊敷には勝てない。

 七がこの後どうするのかは大体想像することができる、受け止められなくなってもういいっ、そうやって終わらせるのだ。

 ちなみにこれは零も同じだから本当に似ている二人だった、だからこそ期待しているわけだがまあそう上手くはいかないものなのだ。


「ふふ、だったら素直に一緒にお出かけがしたいって言いなさいよ」

「も、もう聖花は黙っててっ」

「ふふ、可愛い子ね」


 完全に敗北した七は零に今度は絡み始めた。

 でも、相手をしてもらえて嬉しいのか零の方はずっと柔らかい態度のままだったからあまり意味もなかった。




「結局、素直になれずに日浅君だけ連れて出ていってしまったわね」

「……悪い、なんで残っているのかって話だよな」


 七の家にいったときみたいに休んでいたらだいぶやられていた形になる、暖かい空間だから駄目になるのだ。

 多分、出ていってからは十分ぐらいしか経過していないが帰るために立ち上がろうとしたときに腕を掴まれて止まった、すぐに「別にそれは構わないわよ」と言ってくれたからもう一度座り直した。


「眠そうね、客間にお布団を敷いてあげましょうか?」

「いやいい、寝るなら帰って寝るよ」


 知っている人間でも同じ屋根の下にいれば気になるだろうからその場合は帰るに決まっている。


「なら、これからどうしましょうか?」

「んー伊敷はいまなにかしたいこととかないのか?」

「ご飯も食べたし……特にないわね」

「そうか」


 眠気がどこかにいってしまえば俺にだってしたいことは特にない。

 金も先程のあれで消えたから追加で出かけて使うということもできないし、あくまでここに来たのは零に七や伊敷といてもらいたかったからだ、一緒に出ればよかったのになにをしているのかという話だ。


「じゃあ、これで解散にした方がいいな」

「でも……」

「なにかあるならはっきり言っておいた方がいいぞ」


 確かに最近話し始めたばかりではあるが遠慮をするタイミングではないと思う。


「七も出ていってしまったし、夜まで一人だから解散は寂しいのよ……」

「なら課題でも持ってくるよ、一緒にやれば時間も経過するから」


 あくまで今日決めた適当なラインには到達したというだけで残っている、零が適当に言っていたわけではなくて去年なんかよりは確かに多いのだ。

 一人で頑張らなければならないがそれだとどうしても余計なことをして時間を消費してしまうことも多いため、誰かが一緒にやってくれるということならそれほどありがたいことはない。

 その相手が知らない人間でも知っている人間でもどちらでもいいものの、まあ……知っている人間の方がやりやすいのが実際のところだった。


「それならあなたのお家にいってもいい? これは私のわがままだし、もう一度来てもらうようなことはしないわよ」

「わかった、じゃあいくか」


 家に帰ったらあの二人がいた! なんてこともなかったから二人で頑張ることになった。

 特に会話もなく、やらなければならないことが減っていくだけ、俺基準では散財をした後だったからこれはいい時間の過ごし方と言えた。

 冬休みにだらけすぎるとまた学校が始まったときに戻すのに大変になるからこれぐらいでいい、厳しくしすぎても続かないからこの緩さがいいのだ。


「あ」

「ん?」

「七が探しているみたいなの、教えてもいい?」

「おう、変なことをしているわけでもないしな」


 いちいち気にするところが意外だった。

 いまならまだ俺と七で比べた場合は七の方を優先する方が自然だ、寧ろそこで考えてしまったことがおかしい。


「ふふ、なら変なことをしていたら隠すの?」

「んー犯罪行為でもない限りは隠さないんじゃないのか?」

「なるほどね、つまりいちゃいちゃしていても素直に吐くということね、あなたって大胆なのね」


 で、そのうえで変な勘違いをしてくれたのが彼女だった。

 説明した結果、零を連れてここに来るみたいだったから玄関前で待っていると「ちゃっかりしていますなあ」と七に言われたから首を振る。


「しょ、翔一、僕はもう翔一の部屋にいっているからね」

「おう、ゆっくり休んでくれ」


 とりあえず暴れさせないためにも七を連れてリビングへ、ただの茶とか水とかだと抑えきれなくなりそうだからジュースと菓子を用意した。

 どうせ来たなら課題をやろうぜ、なんてことも言ったりはしない、勝手に盛り上がってくれるのを待つ。


「うわーん! やっぱり零は駄目だぁ! だって普通に相手をしてくれるから申し訳ない気持ちになるもん!」

「ありがたいことじゃない」


 俺も伊敷と同意見だ、当たり前のことではないからこそありがたいことだ。


「……翔一君だって同じなんだよ、わがままを言ってもそのまま受け入れてくれちゃうからうぐってなっちゃうの」

「嫌なことでもなければそんなものじゃないか?」


 受け入れないことははっきりと断っているから無理やり合わせているわけではない、が、俺の内側なんかわからないから本人から聞けても不安になってしまうということか。


「だ、だけどさ、たまには求めてきてくれないと一方的になっちゃうし……」

「ぐわー!? となってしまう前にはっきり言っていくしかないわね、察して動こうとしてもらおうと待っていても変わる可能性は低いわよ」


 そ、それよりも伊敷が叫ぶ真似をしたところに笑いそうになって駄目だった。

 先程から面白いところばかり見せてくれている、七とそこまで似なくてもと言いたくなる件かもしれない。


「え、零が相手ならともかく翔一君相手にもそうしろと……?」

「変わってほしいならそうね」

「む、無理無理っ、いまだってどこまで求めていいのかで大変なんだからね!?」

「日浅君と同じぐらいいるのよね? それなのになにが違うの?」

「いやだってそこは幼馴染とそうじゃない子で違うでしょ……」


 おお! 俺の家に移動しておいてよかった!

 多分、伊敷の家だったらこんな話にはならなかった、零が自分だけその相手の部屋にいって休むということができなかったからだ。


「……大声を出してどうしたの?」

「あ、うるさかった? それならごめんね」

「ううん、翔一がなにも言っていないなら気にしなくていいんだよ」

「小桐君、ちょっと」

「おう」


 聞かれたくないのかわざわざ外にまで移動した伊敷、でも、すぐに「七ってもしかして日浅君のことを気にしているのかしらっ」とハイテンションなところを見せてくれた。

 わかる、なんてことはないことでも盛り上がりたくなるものだ。


「ま、零に優しくしてくれる人間なら誰でもいいんだよ、言ってしまえば伊敷だっていいんだ、楽しそうにしてくれていればな」

「わ、私?」

「零がどういう存在を好きになるのかはわからないけど俺の中ではそういうことになっているぞ」


 聞かれることはあっても教えてくれることはないからここから変わることはない。

 あと、考えているだけで押し付けているわけではないから許してほしいところだった。


「だから零の口から伊敷の話が多く出るようになったらそれで盛り上がれるし、依然として七のことでも盛り上がれるんだ、最強だろ?」

「じゃ、じゃあ、日浅君があなたのことを多く出すようになったら……」

「ということは現時点で翔一君が一番そういう相手として見られているってことだよね、盛り上がらないの?」

「来てくれるのとそういうのは別の話だからな、その場合は盛り上がれないよ」


 二人を連れて戻ると七用に用意した菓子をむしゃむしゃと食べている零がいた。

「おかえりー」と全く気にしていない感じ、まあ、変わらないから聞かれていても気にならないからな。


「一つだけ聞きたいことがある、零は恋をすることに興味はあるのか?」

「あるよ? え、大体の人はあるよね?」

「そうだな」


 ここでないと答えられたら盛り上がることも禁止にしなければならなかったから助かった。

 あれは楽しく生きていくためにも必要なことなのだ、一人の時間なんかには特に必要だからやめることにならなくてよかった。


「私もあるよー」

「私も」

「「おお」」


 いまのは俺ではないがこういうことで盛り上がれるのは当たり前だがなにも俺だけではないということだ。

 自分が関わっているようで関わっていないからかもしれない。


「な、なによ?」

「いやだって仮に本当のことだったとしても聖花も乗っかるとは思わなかったから」

「わ、私だって女なんだし……」

「これは面白くなってきたあ!」


 一番よかったのは少し荒れていた七も普段通りに戻ってくれたということだ。

 あとは緩く盛り上がるだけ、三人が楽しそうにしているだけで俺も楽しめるからこれもいい時間となった。

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