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232  作者: Nora_
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02

「小桐君どーんっ」

「掃除、珍しく同じ場所だな」


 誰と一緒になろうとなにかが変わったりはしないが話したことがある存在がいてくれるのは大きい。


「私、このときを狙っていたんだよね。というのもさ、この前まで一緒にやっていた女の子が苦手でね……」

「珍しいな」

「聖花なんか話にならないぐらいにはお堅い子なの」

「少し関わってわかったことだけど伊敷いしきは安間と同じぐらい明るい人間だったわ」


 だからこそついつい話しかけてしまってやってしまったとなるのが問題だったりもする、伊敷もまた嫌な顔をせずに相手をしてくれるから困るのだ。

 だって友達的存在とは普通に話せた方がいいからだ、でも、自分が決めたことを守れていないことになるからそれも気になってしまうのだ。


「でしょ? そうでもなければ私に付き合うのは無理だよ」

「いや、ちゃんと切り替えられるんだからお堅い人間でも余裕だと思うけど」

「って、また違うところにいっちゃったね」


 まあ、ここで盛り上がるわけにもいかないからよかったなと言って終わらせておいた。

 一時間とかやるわけではないから掃除の時間はすぐに終わった、夜に近づくほど寒くなるのはわかっているが教室に残っていくことにした。

 適当に頬杖を突いてぼけっとしていると「これあげる」と安間が飲み物をくれたからしっかりと金を払ってから少飲んだ。


「ふぅ、早く帰ればいいのになんか帰りたくない日ってあるよね」

「ああ」


 友達がちゃんといる、家族とも仲がいい彼女であってもそういう日はあるらしい。


「零も聖花も付き合いが悪いからさ? 小桐君が付き合ってよ」


 こういうときは隠さずに零を頼っていたからこれは意外だった。

 というか、それよりも気になっているのは零が本当は伊敷と前々から関わっていたのではないか、ということだった。

 コミュニケーション能力に自信があって誰とでもすぐに仲良くできる人間ではあるものの、それにしては最初からやたらと仲良さそうに見えるからだ。

 何度も言っているように零は彼女の幼馴染であり、伊敷は前から彼女の友達なのだから会っていたってなにもおかしくはない。


「あ、どこかにいくか?」

「んーカラオケとかいいかな?」

「ああ、いきたいならいこう」


 仮に嘘をついていたとしてもそれは構わないが仮にそうならなんでそんな嘘をつく必要があるのかと聞きたくなる。

 ただあれだ、これは一緒にいるときに顔をじっと見てやれば吐いてくれるだろうからいまはこっちに集中しよう。


「空いててよかったね、おかげですぐに入れた」

「だな、さ、安間が歌ってくれ」

「わかった」


 なにかをしている三十分よりもなにもしていないこの時間の方が早く過ぎていく。

 やっぱり他の異性とは違うか、零と同じぐらい一緒にいるというのも本当のことだからな。

 幼馴染の零を頼りがちというだけでこちらを誘ってくることがなかったというわけでもなし、だから一緒に出かけることになっても特に気になったりはしないというのが本当のところだ。


「ふぅ……って、こんなに私ばかりが歌っていいのかな? じっと見てきているのだって不満が出てきたんじゃ?」

「安間とは友達だったなって思ったんだ」

「そうだよ、いちいち言わなくたってそういうものでしょ」


 面白くないとでも言いたげな顔だ。


「ああ、悪かった」

「すぐに謝るのは駄目、謝ればいいってわけじゃないんだから」


 もうそこまで時間は残っていないからとりあえず歌わせて時間がきたら店をあとにした。

 帰路についている最中も彼女らしくずっと喋ってくれていたからどちらも黙ってしまう、なんてことにはならなかった。


「というかさ、それなら七でよくない?」

「本当に求めているのか?」

「求めていなかったら言わないよ、ほら、七って呼んでみて?」

「七」

「よし、これで友達じゃないとか言われなくて済むよね」


 別にもう言うつもりはないから無理をして変える必要はなかったがな。

 でも、嫌ではないなら続けるだけだ、俺が勝手に呼び始めたわけではないから気にならない。


「あ、帰ってきたのね」

「聖花っ、今日はどうしたの?」


 反応的に連絡をしていたわけではないみたいだ。

 放課後に一回集まったのにさっさと帰ってしまったのは伊敷と零だから別に不満が溜まって突撃をしてきたわけではないはずだ。


「日浅君と二人で相手をしてもらえないって拗ねていたの、大人のあの子はそれでも突撃は我慢したけれどね」

「なんだ、それなら残ってくれればよかったのに」

「嘘よ、日浅君が帰ろう帰ろうって何回も言ってきたから言うことを聞いた形になるわね」


 面白いことになりそうだと考えた自分としてはいいことだった。

 とにかく友達には楽しそうにしていてもらいたい、一緒にいられて盛り上がれる人間は多いほどいい。


「む、怪しいなあ」

「いつも空気を読んで小桐君が離れていたという話だったし、今度は逆にしたかったのかもしれないわよ?」

「それなら余計なことをしないでって言いたくなるね、正直、零がいた方が翔一君は付いてきてくれるからね」

「あら、名前で呼ぶようにしたのね」

「うん、別にこれぐらいなら好意がなくたってするからね」


 そりゃ……そうだ。

 ただ、そういう話は別の場所でしてもらいたかった。




「は? 靴下が濡れたから捨てた?」


 やたらと寒そうな感じがしたのはそのせいか。


「ええ、袋があるからしまっておけばいいのはわかっているのよ? でも、そこは女として気になるじゃない?」

「いやまあそこは自由にしてくれればいいけどなにも履いていないのは色々と問題だろ」


 冬で寒いとかそれこそシューズを靴下なしで履くというのは……。


「でも、ないから、それに今日は体育もなくてジャージも持ってきていないから……」

「あ、じゃあそっちは貸してやるよ、靴下の方は諦めてもらうしかないけど……」


 寧ろ俺の鞄からほいほーいと女子関連の物が出てきても怖いだろうから彼女的にはよかったのかもしれない。

 体育が終わったらどうせすぐに制服に着替えるし、一日ぐらいなくたって困ったりはしない。


「え、だけどそれだとあなたが困るじゃない」

「こっちは体育があるけど別にあったところで履かせてなんかくれないからな、あ、嫌なら安間に借りるのが一番だけどな」

「なんの話ー?」


 こういうときに勝手にやって来てくれるのが安間とか零のいいところだった。


「ああ、伊敷が登校しているときに靴下を濡らして捨てたって話だったからさ、ジャージのズボンでも履いていればまだマシかなと思ったんだよ」

「なるほど、そんな話が出るということは聖花は持っていないんだね? じゃあ翔一君が貸してあげなさい」


 まあ、ここでは「それなら私が貸すよ!」となるのが一番ではあるが贅沢だとはわかっているから言ったりはしない。

 あとは伊敷次第だ、これを受け入れるのも受け入れないのも自由だから堂々としていればいい。


「俺のでいいか? ちゃんと洗濯だってしてもらっているからさ――あ、それでも嫌なら零に借りるって手もあるぞ」

「そ、そういうことを気にしているのではなくて――」

「いいからいいから、ここは素直に甘えましょうよ」


 結局、七が無理やり渡すことでこの件は終わった。

 結構時間がかかってから上がってきた零にもなにがあったのかを説明してから教室に移動した。


「小桐君」

「どうだ?」


 おお……って、少し長いか短いかの違いしかないからこんなものか。

 言われなければ他人の物を履いているようには見えない、そもそも聞いたりする人間もいないから広がらない。


「暖かいけど本当にいいの?」

「ああ」

「ならお礼をしなければならないわよね」

「それなら安間ともっといてやってくれないか?」

「日浅君と言われると思ったけれど」


 いや、確かに面白いことが起こるかもなんて考えたが言わないよ。

 前々からちゃんと友達だからこそ、同性だからこそ言えことだ。


「いや、零は上手くやる、だけど安間はたまに暗い顔をしていたりするからさ」

「わかったわ」

「よし、じゃあこの話は終わりな、放課後に家まで送るからそのときに脱いで返してくれればいいから」


 いちいち洗ってきてもらうのも違うからぽいと返してくれればいい。


「「え」」

「ん? だって別に汚いわけでもないし、流石にずっと貸しっぱなしなのは俺も困るからな」


 静かに近づいてくる二人だな。

 でも、二人が何回も聞いてこようといまとは違う答えは出てこないからここでやめておいた方がいい。


「「いやいやいや、それって脱ぎたてほやほやのそれに翔一君が触れるってことだよね? アウトだよ!」」

「そういうものか?」

「「そういうものです」」


 黙っている伊敷の方を見てみると「流石にそれは私でも恥ずかしいわね」と本当に恥ずかしそうな顔で言っていたから俺の方が間違っているみたいだった。

 朝の件以外はなにもなかったから今日も大人しくしているだけであっという間に放課後になった。


「小桐君」

「お、帰るか」

「ええ」


 つか、スカートの状態でジャージのズボンだけを履いているって正直見た目的にはシュールだな。

 これならまだジャージ上下の方がいいと言おうとして上はなかったことを思い出した、だからこれで我慢をするしかなかったわけで……。


「悪い、気が利かなかったよな、上も貸しておくべきだった」

「え? あー……確かに少し面白い状態よね。でも、先生に言ったらちゃんと許可してくれたし、暖かかったからありがたかったのよ?」

「でも、気になっただろ? どうせ貸すなら中途半端にやるなって話だよな」


 少し足りないと言われてしまうのはこういうところからもきているのだ。

 練習台に、というわけではないが彼女達と関わっていく間に少しでもいい方に変わっていくことを願っている。


「あ、これも大丈夫か?」

「家を知られること? 全く問題ないわよ」

「ならよかった」


 実は少し離れたところに二人がいることをわかっているのだ、これはそれが影響して聞いている形になる。


「あなたって勇気があるのかないのかよくわからないわ」

「んー余計なことを言ってしまう、やってしまうことが多いな、それを勇気とは言わないからないんだろ」


 自分のことだからこそ言いづらいこともある、それとこういうことで「それは勇気があるとは言わないよ」と指摘されたことがあるからそれからはこういうスタンスでいた。

 相手がそんなことはないよと言ってくれた場合には無駄に抵抗をせずに受け入れるようにしている。


「翔一は勇気があるよ、僕だったら恥ずかしくなって貸せないもん」

「わかる、私だって相手が異性だったら簡単にとはいかないよ」

「いたのね」

「「最初から付いてきていました」」


 よし、二人が来てくれたから伊敷だってやりやすくなっただろう。

 家もそう離れていなくて、伊敷もまた大人だからすぐに解散にしてくれて酷く冷えてしまうことはなかった。

 安間の方は解散にしないで零と過ごすみたいだからまだ一緒のままだ、少し前までの俺なら空気を読んで離れているところだが最近の俺は帰ってほしいと言われるまではそうしないようにしているから、


「ごめん、今日は零と二人きりでも……いい?」

「ああ、それじゃあな」


 うん、こう言われたら帰るだけだ。

 早めに帰れたのをいいことに着替えてご飯を作っていたら父が帰ってきた。

 珍しいな、雨が降るなと言われていつも通り、そこまで俺中心で世界は回っていないよと返した。


「知らない番号……」


 出るか、出ないか、の前に検索だ。

 だが、これといった答えは出てこなかったから出てみることにした、そうしたら「こ、小桐君よね?」と知った声が聞こえてきたから安心する。


「伊敷か、安間に聞いたんだな」

「ええ、勝手にごめんなさい」

「それは気にしなくていい、それでどうした?」


 ジャージの件なら適当でいい、返してくれればいいと言っておいた。

 いつまでも気にするタイプではないだろうが気にされてもこちらが困るだけだから先に動いておいた方がいい。


「今度ちゃんとお礼をするから受け入れてね」

「あれ、それは終わった話だろ?」

「いまから集まれる?」


 着こんでいけばいいか。

 余裕があるときならなるべく受け入れてやりたい、友達として仲良くなりたいからなるべく言うことを聞いておきたい。


「じゃあ家までいくから大人しく待っていてくれ」

「なら……待っているわ」


 ちゃんと父に言ってから出て伊敷家まで走った。

 こんなことは中々ないから結構わくわくした、中身はまだまだ子どもだった。

 流石に同級生相手にそんなところはあまり見せたくないから一つ深呼吸をしてからインターホンを鳴らす、そうしたらすぐに出てきてくれたから気まずいということもなかった。


「お弁当ならなにが入っていてほしい?」

「それなら卵焼きだな、あとはウインナー、最悪、ふりかけご飯だけでも十分だけどな」


 作ってくれたら感謝をしつつ食べさせてもらう。


「王道の物で揃えればいいのね、参考になったわ」

「だから礼は――」

「駄目よ、それに誰かに言われて他の子と過ごすのは違うと考え直したのよ」


 進まないから変えていくしかないか。

 彼女になにをしてもらいたいのかを考えた結果、これだ! というものが出てきて助かった。


「なら友達になってほしい」

「もう友達じゃない」

「俺にとってはちゃんと言葉にすることが大切なんだ、いいだろ?」


 こうしておくことでこの前の七のときみたいにはならずに済む、あとは俺の頑張り次第で関係が長期化するかすぐに終わるかというだけになるのがいい。


「……一回だけ作ったお弁当を食べてくれたらもう言わないわ」

「わかったよ、だからその顔はやめてくれ」


 安心した点はこういうところが七とよく似ているということだ。

 それに仲良くできれば七が困ったときになんとかしてやれるし、彼女が困ったときにも動いてやれるからよかった。

 だから一人で帰っている最中はハイテンションだった。

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