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232  作者: Nora_
1/10

01

 遅れない程度の時間に起きて適当に準備をして学校にいく毎日だった。

 適当ではあるが学校自体は嫌いではない、人間関係で悩んでいるわけでもない、だから朝に気分が悪くなったりはしない。


「いってらっしゃい」

「いってくる」


 少し気になる点を挙げるとするなら登校している最中に寒くて露出している部分が真っ赤になるということだ、でも、それはみんな同条件で表には出さずに頑張っているわけだから我慢をするしかない、そもそも出したところで冬という季節がある以上はどうにもならないことだ――とは毎回片付けようとするのだが……。


「寒い……」


 こればかりは慣れない、社会人になっても一人ぼそっと呟いているところが容易に想像できてしまう。


「おはよう」

「おはよう、今日も寒いな」


 友達の日浅零ひあされいががいつの間にか近くにいて挨拶をしてきたから返しておいた。

「うん、凄く寒いよ、僕なんて鼻水が油断していると垂れてくるぐらいにはやばいよ」と言いつつもその顔は物凄く柔らかいそれとなっているからいつも不思議な気分になる。


「ねえ翔一しょういち

「ん?」


 とかなんとか考えている間に一気に暗くなったりするから飽きがこない。


「今日、怖い夢を見たんだ、それは翔一がどこかにいっちゃうっていう夢なんだけど。翔一はさ、いつまでもいてくれるよね?」

「おう、寧ろ離れると思っていたのか?」


 もしそうならそれは無駄な心配というものだ。

 喧嘩なんかもしたことがないし、これからも大きななにかが起こるまではこのままだ。


「ううん、だけど怖くなっちゃって」

「大丈夫だよ、零次第でいつまでもいられる」

「なら大丈夫だよね――あ、七ちゃんだ」


 安間七やすまなな、彼の幼馴染でいつもああして彼を待っている。

 漫画やアニメのように家が隣同士というわけではないが遠いわけではないのだから直接家にいった方がいいのにあのスタイルが好きのようだ。


「おはよー」

「おはよう七ちゃん」

「おーよしよし、零は今日も可愛いなー」


 邪魔をしたくないから挨拶だけで終わらせて別行動をするのがいつものことだった。

 後で二人になった際に毎回、気にしなくていいのにと零からは言われるが気になるから仕方がない、友達の友達だからこんなものだと言っても聞いてもらえないのもいつものことだった。


「ん?」

「あら、なにか用?」


 足を止めて声を出せばそりゃ気づかれるか。


「いや、なんでこんなに早くから掃除しているのかと気になっただけだ、邪魔をして悪かった」


 とにかく謝ることが大事だ、謝れば大体はそうなんだで終わらせてくれる。

 そもそも広げようとすることがおかしいし、安間が相手でもあれなのにこちらだけ積極的になったら矛盾が酷くなる。


「そうなのね、あ、ちなみにこれは気になったからしているだけなのよ」

「偉いな」


 でも、やっぱり誰かに言われたからではなくて自分からやっていることを聞いたら自然と言葉が出ていた。

 だって偉いだろ、冬なんてそうでなくてもじっとしていたいはずなのに着替えて頑張っているのだから。


「勝手にやっているだけだから、それに普段からこういうことをしているわけでもないし、たまたまよ」

「そうか」


 さっさといこう。

 教室に着いてゆっくりしていると外や廊下よりはマシで今度は眠たくなってきた。

 早寝早起きタイプではあるがもっと寝たいと本能が訴えてきているのかもしれない、逆らっても後の自分に乗っかかるだけだから任せていたら背中をばしんと叩かれて驚いた。


小桐こきり君は優しいのにそういうところがマイナスだからね」

「安間か、零はどうした?」

「零ならあそこ、友達と盛り上がっているから一人でじっとしていたんだけど小桐君の背中を見ていたら叩きたくなってね」


 少しの気まずさと空気を読んで離れているのもあって全くいい方には見られていなくて寂しかった。


「暴力はやめてくれ」

「違うよ、これはどれぐらい私が悲しんでいるかが反映されたパンチだから」


 黙っていたら離れていってくれたからSHRまで寝られたのはよかった。

 ある程度時間が経過すれば体が慣れるのもあって休み時間は教室から出て過ごした。

 これは教室が苦手とかではなくて喋り声が俺にとってはいいBGMになりすぎて寝てしまうからというのが大きい。


「「あ」」


 ただ、朝のあれが影響していてこれではまるで探していたかのように見えてしまうのが問題だ。


「別に探したわけじゃないから勘違いしないでほしい」

「え? ああ、ふふ、別にそんなことを考えたりしないわよ」


 よ、よし、今度こそ広げずにどこかにいこう。

 人といるのが嫌いとかではないが興味を持っているように見られるのも嫌だから適当に歩くのがいい。


「みーつけた」

「零か、教室で友達と過ごしておけよ」

「いいんだよ」

「なら一緒に歩くか」

「うんっ」


 もっとも、休み時間は短いからすぐに戻ることになるがな。

 だけど寝ないためにもこれは必要な行為だから付き合ってくれるということなら感謝しかなかった。




「なにをしているのー?」

「見ての通り掃除だ、というかいまは掃除の時間なんだから自由に出回っていると怒られるぞ」


 協力してやれば少し広い場所でもすぐに終わる。

 一人でやらされているとかそういうことでもないし、仮に一人であっても掃除は好きだから苦ではない。

 みんなでやるときと違って多くの場所を妥協することになってしまうがまあ、時間が限られているのだからそこは仕方がないと諦めてもらうしかなかった。


「ああ、こうして移動しているのだって掃除関連のことでだよ、ほら、これを片付けにきたの」

「なるほどな、そもそも安間が適当にやるわけがないか」


 友達の友達でもなにも知らないというわけではない、零といれば彼女だって自然とやって来るから少し見ているだけでわかるものだ。

 わかった気になってほしくない人間もいるだろうからなるべくは言わないようにしていることだがな、今回口にしたのは彼女が隠されることを嫌っているからだ。


「お、どうしてそう思うの? もしかして小桐君の中で結構高評価な感じ?」

「ああ、零の友達だからな、それなら細かく見ていなくたってしっかりしていることがわかるだろ」


 本当にじろじろ見ているわけではないからな、今朝のようになるべくすぐに離れるようにしているからその点で疑われることはないと思いたいが……。


「なるほど、んー嬉しいようなそうではないようなって感じかなーどうせなら私単体で相手の人からしっかりしているって思われたいもん」

「悪いな、だけどそういうことを言ってくれる人は安間ならいるだろ」


 それこそ零とかな、仮に零が恥ずかしがった場合でも同性の友達とかがいるから問題はない。


「いるかなー相手が零とかだと仲良し補正みたいなものがかかるというかさ、零なら幼馴染補正がかかっちゃうし」

「こういうことに関してはお世辞は言わないだろ」

「だけど零って隠しちゃうじゃん、辛い状態でも笑って誤魔化そうとしてさ」

「そういうときに必要なのが安間みたいな存在なんだよ、誰だってみんなに弱音を吐けるわけじゃないからな」


 多分、今朝みたいな内容以上のことは俺には吐けないだろうからな。

 抑え込み続けてなんとかできてしまえる人間ばかりではない、だから爆発してしまう前に幼馴染の彼女が動いてあげてほしいと思う。


「んー? なんで零の話になったんだろ?」

「はは、俺がすぐ脱線させるからだ。とりあえず戻った方がいいぞ」

「あ、そうだった、じゃあ放課後に話し合いましょう」


 え、特にもう言いたいこととかないのだが……。

 残念ながら求めていない時間に限ってすぐにくるものなのだ……。


「七ちゃんに負けてしまう翔一しか想像できなかったから僕も残ることにするよ」

「助かるよ」


 零はこういう存在だ、同性の俺が相手でも優しくしてくれるから好きだ。

 正直、友達の友達レベルとはいっても安間だって優しいからあまり変わらないのだが、なんというか彼の顔がちらついて仲良くするのはどうなのかと考えてしまうのだ。

 こればかりは安間が踏み込んでこない限りは変わらない、でも、もしそんなことになったらちゃんと切り替えるつもりではいる。

 なに勝手に変な妄想をしているのかと言われてしまったら違うとは言えない変な気持ち悪さがそこにあった。


「えーその言い方だと私がわがままみたいじゃん」

「そんなことはないけど翔一って七ちゃん相手には気まずそうだからさ」

「あ、友達の友達とか思われていそうだよね、私」

「事実そうだろ?」


 ここははっきりしておかないとな。

 彼女にわかってもらいたいからではなくて自分が勘違いをして調子に乗らないために必要なことだった。


「うわ聞いたっ? 零と関わったぐらいには一緒にいるのに酷いよねっ?」

「七ちゃんはちゃんと友達になろうって言ってあげたの?」

「言っていないけど、え、いちいち言わなければならないの?」

「そうだよ、翔一相手にはそうしないと駄目なんだよ」


 うんまあ、子どもみたいな人間だからこういうことを言われても仕方がない。

 ただ、冬の寒さなんかよりも話にならないぐらいにはダメージを受け、荷物を持って一人歩き出した。

 別に歩くことが好きではないがこういうときはどこか遠くへいって一人の時間を作った方がいい。

 動物なんかはできるだけ外にいない方がいいが、今日ぐらいはそうい存在がいてくれた方がいいかもしれない。


「待ってよ翔一」

「最近は運動不足だったから歩いていただけだよ」


 どうせ寒さに負けてもう少ししたら引き返して家に帰るだけだ。

 だから付いてきたところでなにがしたかったのかと言いたくなる件でしかなくなる、無駄なことをして時間を消費してしまうのはもったいないからやめておいた方がいい。

 知らない人間なら付き合ってしまうかもしれないが彼は俺のことをよく知っているのだ、なら最初からあ、じゃあやめておくよとなるはずだった。


「じゃあ一緒でもいいよね?」

「ああ……って、安間は? 放置は駄目だろ」


 あと、なんで付き合おうとしてしまうんだ……。

 安間の方は「いますよー」と普通に参加してきてくれたからよかったが、なあ?


「よかった、俺のせいで零といられないとかになったら嫌だからな」

「むぅ、あんなことを言っていた割には私にも優しいんだよなあ」

「当たり前だ、零の友達なんだぞ?」

「あ、いまの減点だからねっ」

「はは、これでいいだろ」


 友達ではなくてもこうして友達のように喋ることができるのならそれでいいだろう。

 もっと女子側の彼女が気を付けてもらいたいところだった、男と括ることはできないが俺は単純なのだ。

 広げるなと考えているくせに余計なことを吐きたくなるし、それで喧嘩なんかになったことはなくても相手の時間を消費してしまっているのは気になるのだ。


「うぅ、寒いから帰ろうよー」

「だな、帰るか」


 帰り道の途中にあるから送るとか意識をしなくても自然とそうなる。

 まずは安間と別れて次は零だ、だが、家に着いても大人しく解散にはしないのが彼だった。

 やたらと家の前にある段差に座って話したがるのだ、そして俺も毎回付き合ってしまう形になる。

 お互いに寒いのが苦手なのだから屋内で話せよとツッコまれてしまうことだよな。


「ねえ翔一、今日学校で話していた女の子はどこの誰なの?」

「ああ、わからないんだ」

「そもそもいつ出会ったのか……」

「今朝だよ、掃除をしていたから偉いなって言わせてもらったんだ、偉そうだけどな」

「あ、また翔一の悪い癖が出ているのか……」


 そう、何回もやらかしてしまっているから悪い癖扱いをされても仕方がない。


「明日、探そう」

「わかった」


 見つかっても見つからなくてもちゃんと付き合っておけば彼は満足する。

 まだまだ一緒にいてもらいたいから頼まれたら受け入れる、そうしてきたおかげで先程も言ったように喧嘩はゼロだ。


「あと七ちゃんといるときに空気を読もうとしないように」

「ああ、あ、だけど二人を包む雰囲気が甘々だったらいいだろ?」

「そんなことにはならないから駄目ー」


 ま、いいか。

 安間達がどこかにいってほしいと言ってくるまではいればいい。

 そもそも頑なに断り続けると逆に近づかれて相手の時間を無駄にしてしまうというのもあった。

 とにかく、約束通り翌朝は一緒に登校をして三階を歩いていると昨日の女子にも出会えた。


「日浅君のお友達だったのね」

「零のことを知っているのか?」「僕のことを知っているの?」


 でも、零本人はこの感じと。

 これは面白いことになるかもしれない、これまで告白をされても断り続けてきた彼だって影響を受けて~なんてこともあるかもしれない。


「ええ、私は七の友達だから」

「「あ、そこで繋がっているのか」」

「そうだよーおはよー聖花せいかー」


 こう言うのもあれだがあんまり安間の友達には見えなかった、とにかく明るい安間と彼女では差がありすぎて疲れてしまいそうだからだ。

 それとも仲良くなればそういうところを見せてくれるのだろうか?


「そんなにじっと見られたら照れてしまうわ」

「お、小桐君的に聖花はタイプな子だったりするのかな?」

「いや、元気な安間に付いていけそうに見えないからだ」


 あ、また……。


「あー確かに静かな子だけど無理ってことはないよね?」


 安間が普通に流してくれてよかった、彼女も「ええ、それに自分がこんな感じだから七が明るい子で助かっているわ」とそのままで助かった。


「悪い、余計なことを言ったよな」

「別に謝らなくていいよ、全然違うのは本当のことなんだからね」

「それでも悪かった」


 これでしなければいけないことも終えたから戻ろう。

 こういう点でも教室にいた方がいいのは確かなことだった。

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