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第10話 だからさ。セックスくらいさせてくれても良いじゃん。やりまくりなんだろ?

 月乃を家に帰したあと、しばらくすると頭痛は落ち着いた。とはいえ、さすがに夕食をつくる元気はなかった。芽依にコンビニで何か買ってきてもらうように頼むことにした。部屋でゆっくりしていると、芽依が部活から帰ってきた。


「兄さん、頭痛で倒れたって本当? 大丈夫?」


「頭痛の話、誰からきいたんだ?」


 ちょっと体調が悪いから、夕飯はコンビニという程度の文言にしておいたはずだが。


「月乃お姉ちゃんが言ってたよ。心配だから、ちゃんと看病してあげてって」


 なかなかやさしい女である。


「もう、ほとんど頭痛も治まってるから大丈夫だ。看病は要らん」


「本当? 病院行かなくて良い?」


「大丈夫大丈夫」


「本当の本当?」


「本当の本当だ」


「……なら良いけど。痛くなったら、すぐ言ってね。今日はゆっくりしててね」


 芽依は心配性なのである。まあ、その理由が理由なので仕方がないのだけれど。


 さて。芽依が部屋から出ていったあと、俺はベッドに寝転んでいた。

 枕の上にイプノスが乗っている。


「今日のことでよくわかったけど、催眠能力って意外と縛りがあるよな」


「そうですね。なんでもできる魔法の力、というわけではありません」


「俺の知らないルールとかあったら困るから、今度はちゃんと教えてくれ。いままで、ちゃんと話をきいてなくて悪かった」


「わかりました。私も、ちゃんと説明をしなかったのは良くなかったです。反省してます」


 天使もちゃんと反省できるらしかった。


「それでは、もう一度催眠能力についておさらいです。明久さんのスマホを貸してください」


 スマホのメモアプリを開いて、イプノスに渡す。

 イプノスはスマホの上で、器用に踊るようにして文字を打ちはじめる。そうして待つこと三十秒ほど。イプノスが踊りを終えたとき、メモアプリには以下のような文章が表示されていた。


 ~催眠能力について~


 1. 指輪を見せることで、対象者一人を催眠状態へ移行することができる。

 2. 催眠状態のときは自由に質問が可能である。事後の記憶はなくなる。ただし、相手の精神を動揺させるようなこと、失礼なことを言うと頬を叩かれることもある。

 3. 催眠状態のときには肉体への接触も可能。ただし、どこまでの行為が許されるかは、対象者との関係性による。

 4. 人間関係が進展していない状態で過度の肉体的接触を行うと、対象者の自動防衛機構が発動し、頬をはたかれることがある。

 5. 明久の意識が対象者から外れると、催眠状態は解除される。


 まだ文章にはつづきがあった。

 画面をスクロールすると、次のような文章が表示されていた。


 ~アモーレについて~


 1.人と人のふれあいにより、明久が喜びを感じるとアモーレが生まれる。

 2.アモーレには1日の許容量があり、摂取しすぎると急性アモーレ中毒を起こす。

 3.アモーレの許容量は、明久の精神的な成長によって増大する。


「まあ、こんなところですかね」


「他に説明漏れはないだろうな」


「ない……と思いますけど」


 あまり信用できない返事である。


「ちなみに、もっともアモーレが貯まったのは、昨日、香芝さんの手を借りて地面から起き上がったときです」


「あれだけの接触でか? もっと、胸をさわったり、尻をさわったりしてたほうが、幸せを感じてると思うんだが」


「性欲にかられた一方的な行為より、お互いの心の交流によって生まれるアモーレのほうが量が多いのです。目と目をあわせて他愛のない話をしたり、手を繋いで街を歩いたりとか。さっき西條さんに肩を借りて、ベッドへ移動させてもらいましたよね。あのときも、なかなか良い量のアモーレが貯まっていましたよ」


「なるほどな。つまり、エロいことをしてもあんまり貯まらないから、もっと頑張ってたくさんエロいことをしろってことだな」


「たわけさんですねぇ……。何も私の話をきいていませんね?」


「きいてるきいてる。問題は、どうやって急性アモーレ中毒にならずに、たくさんエロいことをしてアモーレを貯めるかだよな」


「何もわかってないです……。ひとまず、催眠能力を上手に使って、好きな女性と距離をつめ、地道に仲良くなっていくのが得策です。女性に慣れていくうちに、明久さんの精神は成長し、アモーレ許容量も増えるはずです。そしたらキスやらセックスをしても、急性アモーレ中毒になることはないので」


「女の子が、セックスとか言うなよな」


「何を照れているんですか。単なる性行為じゃないですか」


「恥じらいを持てよな!」


「そんなこと言われても、私は地球よりも長生きしているので……」


「ババアだな……」


「なんてこというんです! 私は、もはや年齢などというものは超越した存在です!」


 まあ良いか。それよりも、前々から気になっていたことをきいてみるか。


「お前のサイズって、自由に変えられるのか?」


「ある程度は可能ですけど」


「まあ、お前美人だし、モテるんだろうな」


「まあそうですね。モテモテのやりまくりですね。私の本来の姿は、もっと胸部も臀部もふくよかで、明久さん好みの体です」


「それはそれは……。じゃあ、世界が救えたら、やらせてくれよ」


「は?」


「だからさ。セックスくらいさせてくれても良いじゃん。やりまくりなんだろ?」


「いや、それは……その……なんていうか……。明久さん、私のことを好きなんですか?」


「冗談だ。何照れてるんだ?」


「この大うつけさん!」


 そう言って、イプノスは俺の指に飛びついて、かじりついてきた。


「いてえ!」


「もう知りません!」


「まあ機嫌直せよ。可愛いってのは本当だ」


「ふん……」


「ほら。これから一緒に世界を救ってやるから」


「まあ……そうですね。仕方がありません。仲直りです」


 そう言って、イプノスは小さな手を差し出してきた。


 俺は人差し指を彼女の手にあわせる。ゆっくりと上下に動かし、握手をする。


「それでは、よろしくお願いします」


「ああ、よろしく」


 そういうわけで、俺は地球を救うためにアモーレを貯めることになってしまった。


 まあ、ぼちぼち頑張ることにしよう。面倒くさいけどな。

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